エピソード12 サマールル
12 全面対決
「報告します。隊長。午前中に新たに600名程友軍を迎え入れました。」
河川攻防戦で撤退を余儀なくされた味方が通るルート上に設置された1つ目の砦。まだまだ戦況を覆すことが可能だと信じているサマールルの兵士達は、続々とやってくる味方兵を随時受け入れていた。
「あぁ。わかった。飲食もまともに取れてないと聞いている。手厚くもてなしてやれ。」
「はっ!」
石造りの砦の一室でのやり取り。報告に来た部下は踵を返してその場を離れて行く。
「マルセイザ共和国軍の追手はどうなっている?やつらの侵攻を急ぐ気配はあるか?」
「いえ。気球からの偵察隊からは、先遣隊と思しき部隊が近くには来ているそうですが、本格的な進軍といった行軍は見当たらないようです。」
「ふむ。そうか、慎重だな。それもそうか、我が軍の戦力をまざまざと経験しているのだ。迂闊には攻めてはこれまい。」
近くにいる部下に尋ねて、隊長は懸念材料がないことに喜びつつ、
「こちらからの偵察は決して怠るな。空から見えない位置で進軍しているのかもしれんからな。」
「はっ。既に手配済みです。」
「兵数が増えたからと言って物資が足りてない事は事実だ。早期発見し次第対策を考慮しなくてはならん。」
隊長からの漏れ出た不安にぎょっとする部下。周りに聞かせていい話ではない。
「物資が揃えば戦力として宛てにできるが、現状維持することは難しいことはお前だってわかっているだろう?補給の目途がたつのなら問題はないのだが、このまま受け入れ続けて行けば我らも物資不足で撤退するはめになるかもしれん。それは嫌だろう?」
そう尋ねてみれば部下も頷く。
「彼らには悪いが一晩休んでもらい次の砦に向かってもらうとしよう。」
「はっ!」
「そして準備を怠るなよ。いつでも迎撃できるように備えておけ。」
「了解であります!」
敬礼した後、その部下もその場を去っていく。
隊長はまだ見ぬマルセイザ共和国軍に向けて戦意を高めていた。戦力、地の利はこちらにある。勝てる。彼はそう信じて疑っていなかった。
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「よし、ここで停止。」
それから1日経った昼頃、セイヨド率いる先遣隊が砦を目視できる距離まで近づき遮蔽物を探して身を隠した。
「帝都までの道のりにある1つ目の砦か。なんだか久しぶりに眺める光景だな。」
冒険者ギルドの職員の彼は、時折この辺りまで魔獣・魔物の調査をかねて来ていたことがあるが、濃密な時間を過ごしてきたせいか、なんだか懐かしい。
「配備されている兵はざっと300ぐらいかな?前と変わってなければ魔装砲は配備されてないはず。魔装砲って意外と重いし高い予算がかかるらしいからな。こんな辺鄙な砦にまで配備はされないか。」
そうここは山の中だ。下手に火力が高い魔装砲など配置して砲撃などしたら、瞬く間に山火事が起きる恐れがあるから、といった理由も合ったりする。それに頻繁に内乱が起こり、取って、取られての歴史が配備を躊躇させる最大の理由だ。
「さてと、」
セイヨドは空を見上げると鏡を使って光を反射させると、きらりと光が見て取れた。
「よし、反対側に味方は到着しているようだな。さっさとここを堕とすぞ!総員戦闘準備!」
「「「はっ!」」」
必勝を期した指揮官の声に、使兵達も戦いに慣れた様子で戦意を込めた返事が返ってくる。そして戦いが始まった。
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「・・・先遣隊だけで仕掛けてきただと・・・舐められたものだ。」
敵軍の小隊を砦の上から睨みつけて、サマールルの隊長が激怒する。
「迎撃しろ!調子に乗っているところを挫いてやれ!」
号令とともに銃撃が応射。魔装銃の発射音が幾重にも重なって山中に木霊する。
「敵は少数だ。慌てるな。落ち着いて狙いを定めろ!」
指揮官の隊長が余裕諾々に指示を下す。それを後押しに苛烈な一斉射撃が降り注ぐ。突撃に向かっていた敵軍は慌てて木立を盾に身を潜める。こうしてしばらく戦況が膠着する。
「ははっ。バカなのか連中は、河川でこちらを退けた勢いはどうした?」
「多勢に無勢ですね。本当になに考えているんでしょうか?」
隊長は内心で呆れていた。本当に河川でわが軍が撤退したのは本当だったのかと、疑いたくなってくる。ただ運が良かったのか?まぐれだったのか?こちら側になにかトラブルが発生したのではないのか?と。
「だが、どんなに愚かな指揮官だろうとこれは戦争であって我らは軍人だ。降伏するのならば致し方ないが、そうでないのならば・・・」
この状況に彼のプライドはそれなりに満足いくものだった。敵が再び突撃してきた時が最後だ。斉射を集中させてマルセイザ共和国軍の使兵の屍の山を築いてやろう。そう、ほくそ笑んだ時だった。
「て、敵襲!後方より襲撃・・・」
「な、なに?!」
全く予想外からの言葉に振り向く隊長。そして目にする。全く注意をしていなかった背後から、神官服を着た武装した集団を。
「バカな!?なぜ背後に敵がいる??この一帯は気球からでも見晴らせていたのだぞ!どうやってあの数を・・・」
困惑を極めかけた瞬間、彼は気づいた。予想だにしなかった方向から攻めて来た敵兵。それは味方に偽装していたに違いないという事に。
「・・・卑怯な・・・そこまでするのか!?」
そう理解した隊長が怒りに表情を歪める。だが、もう遅い。戦いが始まる前から、既に準備は整っていたのだから。
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砦が混乱をきたしているその様子に、セイヨドは、
「よし!作戦が上手く嵌ったようだ。いくぞ!」
その機を逃さずにすかさず攻撃に移った。駆け上がるセイヨド達に気づいた敵兵が迎撃をしてくるが、
「怯むな。手筈通り動け!」
セイヨドの指示で使兵達が散開してそれぞれバラけながら応射する。密集すればそれだけ弾雨に晒される。致命傷さえ受けなければポーションで傷を癒すことが出来る。近づいた分だけこちらが有利になる。そう彼は彼らに道すがら教えて来た。
「「「おぁぁぁぁぁ」」」
電光石火のごとく砦を攻め落とすべく、使兵達は疾走する。魔弾が当たって傷つきながらも、ついに砦にたどり着いた。
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「やつらを撃て!近づけるな!!」
砦の中でも必死の迎撃戦が行われていた。
しかし一向に攻め手を緩めない敵兵。
「た、隊長!やつら射撃しながら動き回ってくるせいで、こちらの射撃が当たりません・・」
「くそっ!神官なくせにちょろちょろ動きやがって。なんなんだこいつらは!?」
予想外の使兵達の動きに戸惑い次第に焦るが募っていく。それもそのはず、彼らは学んだのだ。敵を前にして止まる行為はそのまま死に直決することを。牽制射撃、遮蔽物の確保、こちらが有利になるように誘導。基本的に分隊行動をしながら、あくまで全体の連携を保ったまま独自で動く。その脅威は、神官服を纏っている分だけ、練度の高いサマールルの兵達さえもおおいに困惑させる。
さらにこうしている間に、砦の門が解放され、さらなる増援を迎え入れることになる。もうこの勢いを止める術は彼らにはなかった。
ダッチという鳥型の魔獣に跨った騎兵が雪崩れ込み、次々と蹂躙していく。
「がっ・・・」
「くっ・・・」
「うわぁぁ・・・・」
ダガーと魔装銃を重ねた銃槍に貫かれた仲間が血反吐を吐いて倒れ込む。もはや銃撃の間合いではない。近接戦で猛威を振るわれる。
「く、くそ~たれが!!」
自棄になった1人がセイヨドに向かってくる。それを躱しながら、相手を背に乗せる形での背負い投げを決め込む。
「がっ!!」
仰向けになったところをすかさず銃槍で止めを刺す。流れるようなその動きに、しばらく見惚れていた使兵達が慌てて駆け寄ってくるが、
「セイヨド様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫。それよりも速やかに制圧しろ。指揮官を逃すな!」
セイヨドとその部下達はそのまま砦を駆け上がる。すでに各階の制圧は完了しており最後は屋上のみだった。
「指揮官はおまえか?」
「・・・」
一塊になっている一団の真ん中で囲まれている男にセイヨドが問いかける。
同じ神官服を着ているが、明らかに態度が上官だという雰囲気だったので、隊長がセイヨドを罵倒しだした。
「汚いぞお前ら!勝てればいいのか?わが軍の軍服を身に纏って敗走してきた兵士に紛れ込ませる卑怯な手口!!俺は絶対に認めない。これがマルセイザ共和国軍のやりかたか?神を信仰してあがめ祀る神聖な国と偽って、本性は悪魔ではないか!!」
「?なに言ってるのかわからんが、とりあえず投稿する気があるの?ないの?どっちかに決めてくれないかな?ないなら一斉射撃でお終いにするから。」
言いがかりを軽く受け流して、セイヨドは腕を上げて見せる。使兵達は銃口を敵の一団に向ける。向けられた兵士達はすかさず武器を捨てて両手を上げ降参の意思を示した。
「お、お前ら!?」
1人だけ残される隊長。
「色々と言いたい気持ちもわからなくはないさ。でもさ、付け入る隙があるのならそこに付け入ることは間違ってないと想うよ。誇りとか正義とかそう言うのは戦争がない時に許される贅沢だ。この情勢下でそんな余裕なんざ持ち合わせる心の広さは俺にはないよ。もういっぱいいっぱいなんでね。ところでどうする?生か死か?」
その言葉が最後通告だと受け止めたのか、隊長は武器を堕とし、両手を上げた。それを見て使兵達が、すぐさま拘束を施す。その様を眺めつつ声をかける。
「被害は?」
「はい。戦死者が5人。重傷者が3人ですね。あとはポーションで治療が可能です。」
「5人か・・・」
己の采配に死なせてしまった部下に心中で詫びながら、しかし囚われることもなく次の行動に意識を移す。
「合流した味方と編制を組み直して、進軍を再開する。勝ったからと言って気を緩めるなよ。この先から厳しくなるんだからな。」
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「なに?砦がもう陥落しただと・・・」
気球からの通信によって、すぐさまヒオレド大佐の元に届けられた。速やかな撤退で損害が予想より下回った事と、マルセイザ共和国軍の追撃がまだ本格的でないことが合わさって、司令部内はどこか弛緩したところがあったが、その報によってたちまち緊張感が高まった。
「はっ。気球偵察隊からの報告では、正面からと背後からの挟撃によるものかと・・・」
「空からはその気配はなかったのだな?ということは、撤退する友軍に偽装して背後を奪った。という事か」
数秒でそう結論を下し、思案に耽る。
「初手から大胆な策をうって来るとは。向うの指揮官が優秀なのか、それともこちらの指揮官が無能だったのか?悩ましい問題だな。」
ヒオレド大佐は両目を瞑って、次に目を開いた時には次の行動方針が決まっていた。
「全軍に通達。マルセイザ共和国軍をなめてかかるな。気を引き締めてかかれと。私は第3砦に向かう。護衛の中隊を編制してくれ。」
「え??大佐自ら出陣されるのですか?」
彼の身の安全を第一に考慮する部下が控えめに聞く。
「今の時点で現場を見ておきたい。やはり戦いという物は机上では見えないものが多いからな。」
そう言った後、彼は心配無用。と言いおいて司令部から出て行った。
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それから三日ほど経過する。帝都に進む道程の最中。
「そろそろ次の砦が見えてくるはずだ。」
休憩を兼ねての談笑の中で、地図を開いてセイヨドが帝都方面を見ながらそう言う。
「では、気を引き締めないといけませんね。」
「いや、多分次の砦には敵軍はいないはずだ。」
「と、申しますと。」
「このまま山中で孤立したくなければ、撤退するしかないんだよ。」
そう言い切るセイヨドに、聞いた使兵がはっと、気づいた。
「別動隊がもう回り込んでいる。というわけですか?」
「そういうこと。ルートはここだけではないけれど、軍事設備が整っているのはやはりこのルートしかない。だからバロウ副将がサーハドメラシャド大将に背後に回れるルートに向かう様にしているはずさ。」
サーハドメラシャド大将は海上からサマールルに上陸し、編制し別動隊を結成。その1つが第1砦で合流した者達だ。今も一緒に行軍しているが、他の部隊も同じように合流を果たし、目的地に向かっている。
「これは気球偵察隊からの情報頼りだから不測の事態が発生する恐れはある。空から地上見て正確にはわからないからさ。他のギルド職員からも偵察がてらの情報を照らし合わせればおのずと敵の行動が見えてきたというわけ。」
淡々と説明するセイヨドが地図に指をさす。
「なので次の砦には間に合わないが、その次の砦に間に合うように進軍を早めたいということなんだ。俺が言いたいことは。」
「もちろん構いませんが、理由をお伺いしても?」
意味が理解できないようで、問い返す。もちろん急ぐというのなら、走っても全然かまわない。それほどに使兵達はセイヨドを頼もしく思っている。
「敵軍はここ。森林地帯まで後退して、そこで俺たちを迎え撃つ体制を構築してくると俺は睨んでいる。なので次の次の砦も撤退するはずなんだ。そこを狙って奇襲を仕掛けたいわけ。」
「なるほど。」
「敵に背を向けて後退するのは、進軍するよりもリスクが高い。それが1つ目の理由。まだ俺たちがそのことに気づいてないと思い込んでいるのが2つ目の理由。最後は俺の勘。敗走兵を取り込んでの混成状態で指揮系統もまだバラバラなら付け入る隙はあるはずだ。そこを狙い撃ち。って感じかな。まぁ次の砦で判断できるよ。敵がいなければ、予想通り。もし厳重に防衛しているのなら、またバロウ副将に丸投げしたらいい。」
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結果として、第二砦を素通りして、そのまま急ぎ足で第三砦に到着。サマ-ルル側はこの
砦を放棄し、次々と兵達が離れて行く中からの奇襲だったため、中隊規模の集団を取り逃がしてしまったが、大いなる戦果を上げることが出来た。
「・・・。」
ヒオレド大佐を逃すためとはいえ、もっとも手薄になったタイミングを狙われたので、必死の応戦も空しく、ヒオレド大佐含む中隊のみが逃げのみ、その他大勢は戦死、もしくは拘束されて捕虜扱いとなっていた。
顛末を淡々と聞き現状の状態を動揺や苛立ちといった感情を一切見せることなくヒオレド大佐は目を瞑っていた。
「大佐。この場は私共に任せて、大佐は一度司令部に戻ってください。見事防衛戦をやり遂げて見せます。」
自負を持って彼はそう進言する。撤退時のリスクは要注意するように叩きこんで教えてきたつもりだったが、あまりにもの不手際と、不甲斐なさに対して彼の瞳には苛立ちが宿っていた。常勝サマールルがこのような失態を演じてしまった事が、悔しく耐えがたい。
そんな彼の心情に理解は出来るが、ヒオレド大佐は首を横に振って見せた。
「君なら問題なくやり遂げてくれるだろうとは思う。が、当初の作戦と大分ズレが生じていることも事実だ。従って、戦略の見直しを検討しなければならない。」
そう述べる大佐の表情には、少しの焦りも気負いも浮かんでいなかった。不備、トラブル、イレギュラーは起こるもの、そう彼は考えている節がある。
「現時刻を持って、森の奥に向かう。我らは樹海まで引く。敵軍には調子に乗ってもらい、大した被害もなく、我らを追い込こみ。そのままの勢いで樹海まで進軍してきてもらおう。」
状況の悪化をむしろ愉しむかのように、ヒオレド大佐は不敵な笑みを浮かべて周りの面々を見渡す。彼ほどには余裕が感じられない部下達に向かって、そのままの口調で語りかけた。
「結果は何も変わらない。マルセイザ共和国軍が大打撃を受けて終わるという結末だけは。」
そう言ってから、ちらりと空を見上げる。
「殿は先ほどの君が勤めてくれ。ともかく舞台をここから樹海に変更するだけだ。」
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「全く・・・司令部にそのまま居座っていればいいものを、わざわざ現場までやってきてくれたおかげで、この様だ。」
ヒオレド大佐を率いる部隊が森の中に姿を消すと、上官の目が届かない事を良いことに、彼は愚痴をこぼし始めた。
「次期元帥というが、本当に大丈夫なのか?そう思わんか?」
キラエル戦からというものの、不満を抱いていた彼は、敗戦続きの原因は次期元帥の責任ではないのか?と、ここぞとばかりに非難する。
「・・・そうかもしれませんが、私にはマルセイザ共和国軍が強いという印象を抱いております。そのなんというか、我らは新兵器の圧倒的な戦力を背景にして油断しているのではと・・・」
すこし迷った後、隣の部下がそう言う。それを聞いた瞬間に盛大にため息をついた。
「圧倒的な戦力。正しい戦略に、正しい戦術。それこそがサマールルのあるべき姿だ。それを有効活用できていない・・・」
そう言う彼の瞳には失望感が宿っていた。戦略構想それ自体が次期元帥閣下には荷が重すぎるのではないかと、疑い、そんな上司の命令を従わなければならないなんて、なんと嘆かわしい。もう1つため息をついてから「行くぞ」、語気を荒くして言うと偵察も兼ねて、殿の任を全うする。
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そのはるか上の樹上から見下ろす影があった。
殺るか?
クロスボウを敵軍に向けて、視線を仲間に向ける。が、返ってきたのは無視だった。
このままだ。
そう解釈してクロスボウを外す。張り詰めた静寂の中、サマールルの兵達が辺りをキョロキョロ見渡しながら、奥に向かっていった。
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「ヒオレド大佐。我ら殿部隊、損失もなく帰還致しました。」
同日の夕方ごろ、特に戦闘の形跡もなく無事に合流を果たした。
「ご苦労。敵軍はこちらに向かってくる気配はあったか?」
「は!敵軍は用心深いのでしょうか?ただの1度も敵影を見つけることが出来ませんでした。第3砦に陣取って我々を迎え撃つ段取りではないでしょうか?」
知らない土地で迂闊に進軍するのではなく、味方を待ってそれから進軍してくるのか。それともそこでこちらが痺れをきらしたところを待ち伏せするつもりなのか、彼はそう言いたいのだろう。
「偵察も兼ねてまいりました。辿ったルートはこの通りです。第3砦に近づくわけにはいきませんでしたが、敵軍が動いてはいない事は確かです。夜の闇に紛れて第3砦を奪い返すことも視野に入れてもいいのではないでしょうか?」
辿ったルートを地図に指でなぞりながら彼はそう言い募る。
「なるほど。偵察も兼ねてご苦労だった。ゆっくりと今は休んでくれ。」
思わぬ指示に彼は、不満げに表情を歪める。
「我々はサマールルの精鋭部隊だと思っております。休憩など不要です。命令を頂けませんか?必ずや取り返してみせます。」
彼がなにを言いたいのかは、理解するが、
「君が言いたい意図は分かるし、兵士達の練度が高いこともわかる。奪還する。しないにしても、私なら森から我らが出てきたところで狙い撃つ。そのリスクがある以上、まずは戦力の合流が最優先だ。」
樹海に誘いこむ作戦が相手に見抜かれている以上、ここで速やかに行動方針を切り替えて相手の度肝を狙い一気に攻勢をかける。もちろんリスクは伴うが、このまま時間だけが過ぎればさらに危険度が増す。動くなら今しかない。敵軍が増援と合流したとなればもう奪還の目途がないのだ。
だが、上官の命令は絶対だ。釈然としない思いに囚われながらも、彼は部下達の元に行き休息を命じる。しかなかった。
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数日前の事。
補給を絶つ。ことは戦争における基本的な戦略の1つだ。その中で手を加える。ことも含まれる。
言うまでもなく、大勢の軍人が行き来している駐留部隊に手出しすることはハードルが高い。
が、軍施設となればその高さは割と低くなる。軍人であろうと囚人であろうとそうでなかろうと、人族という者たちは、飲み食いは必ず行わなければならない。
「・・・」
ダンジョン内、囚人たちを管理、監視する兵達の中に混じって獣人が複数人いる。その獣人達があるきっかけによって、様子が変わる。
「また囚人達が喧嘩を起こしているぞ。」
という知らせが届いたのは、調度昼食を食べ終わった頃合いだった。お腹もふくれて一服している幸福な時間に、呼びつけられ鎮圧に向かえと命令が下された。
憂鬱な思いに駆られながら、腐敗というよりは、絶え間ない労働と排泄が積み重なって出来たむせ返る臭気。その中に足を踏み入れ、喧嘩を止めなければならない。これほど、気の滅入る仕事はそうそうないだろう。
「くそ・・・、やつら面倒を起こしやがって・・・」
「毎回毎回、懲りないやつらだ・・・」
ぶつぶつと文句を並べながらも、職務に忠実な彼らは魔装銃を手にして、ダンジョン内に入っていく。囚人同士の喧嘩は珍しいことでも何でもないが、今回はタイミングが悪かった。今日の昼食は月に1度のハンバーグの日だ。この日のために毎日の勤務を真面目に行っていると言っても過言ではないだろう。ここの料理人は元肉屋らしい。だから肉料理は得意なのだとか。
「おら!おら!何を騒いでいる!」
「静かにしろ!この野郎ども!!」
野次馬共をどけながら、現場に到着する兵士達。いつもに増して怒気が含まれているのは、あの味わい深いハンバーグの余韻を愉しめなかったことが大半を占めている。
その光景を目にした途端、すぐさま威嚇射撃を行う。黙らせるにはこれが一番効果的なので、躊躇なく発射される。その発射音を耳にした途端、喧嘩が止まる。
銃口を向ければ、喧嘩していた囚人達は簡単に静まっていく。
「で?原因はなんだ?言ってみろ!」
銃口を向けられたままの状態もあり、2人が互いに口を開く。
何のことはない小さなトラブルだった。食事が多い少ないかの言い合いから喧嘩に発展した模様だ。よくあることだ。労役で鬱憤が溜まっているから、ちょっとしたことでも喧嘩のきっかけになる。
そう説明を聞いた所で、「くだらない事で揉めるな!!」と怒鳴りつけて見せしめに喧嘩していた2人を殴りつけて終了だ。
殴ったことで多少こちらの鬱憤も解消できたので、兵士達は踵を返して出口に向かいだした。ところで兵士達の様子がおかしくなった。急に足元をふらつかせ、壁に手をつけて、頭を何度も振る。どうした?と囚人たちが見守る中、兵士達が1人、また1人といきなりその場で居眠りしだす。
「「「・・・」」」
余りの突然の出来事に囚人たちが絶句する。こんな所で兵士達が眠り込むなんて出来事があっていいわけがなかった。あまりにもの異常事態に戸惑う囚人たちに数人の兵士が声をかけて来た。彼らは普段通りのようだ。
「君たちには私たちの手伝いをしてもらう。」
「付いて来い」
と、命令されて拒めば、首輪に嵌められた魔道具が反応して、首を締めつけてくる。しかし命令に従えば締め付けはなくなる。この魔道具は囚人全員の首に嵌められており、いわば囚人の証であると同時に、脱走などの防止効果も含まれている。従ってダンジョン内ではある程度の行動は制限がないのだが、一旦外に出るとこの魔道具の効力が発揮されて下手をしたらそのまま首を絞めつけられて命を失うことになる。
「中央管制室に潜入して、マスター権限は我らに書き換えてある。だから心配しなくともダンジョンから出ても問題はない。」
「そういうわけだ。君たちにお願いしたいのは、帝都で暴れてもらうだけだ。ただし、殺し、強姦、略奪は禁止。」
「その禁止事項さえ守ってもらえば、しばらくの自由は約束しよう。」
「兵士達は全員眠っている。武器を所持するのは構わないけれど、威嚇程度でね。じゃないと殺す事になるから。」
ダンジョンの外まで連れて来られて、獣人の兵士達が次々と言葉を投げかけてくる。嘘か本当なのか?疑いながらも囚人たちは1歩外に足を出してみる。本来ならここで首を絞められるのだが、その反応はない。恐る恐るもう一歩、二歩と歩き始めてやっと彼らがいう事が本当だと理解に及んだ。
「「「「「うぉぉぉぉぉぉっぉぉ!!!!」」」」」」」
あまりの嬉しさに雄叫びにも似た声が出る。
「君たち。その恰好で外に出るのは構わないけれど、どうせなら兵士達から軍服でも頂いたらどう?お金なんかもあるかもよ。」
「あとはご自由にってね。」
「じゃあね~」
「「「「はい!」」」」
威勢よく返事をする囚人達。自由を得た彼らは果たして、いつまで自由でいられるのだろうか?そんな期限つきであることを告げるのは野暮というものだろう。獣人兵士達は気が付けばその場から消え失せていた。




