エピソード10 サマールル
10 全面対決
いざ、対戦に当たって、マルセイザ共和国軍とサマールル軍にはそれぞれの戦略が違ってくるは当然のことだ。
戦いの場所を指定して、お互いに兵をぶつけ合う古典的な合戦は、もうすでに存在しない。
いかに有利な地形を利用して、いかに相手側を不利な環境に陣取らせるかが戦いを始める前から始まっている。
サマールル側には新兵器といえばいいのか、射程距離と威力が以前の物とは雲泥の差の魔装砲がマルセイザ共和国軍より遥かに多く供えていることは分かっている以上、何の障害のない平原で行うわけにはいかない。
従って、自然と攻めはサマールル側で、守りはマルセイザ共和国軍側となってしまう。国境線を境にして、進軍ルートを想定し、自軍にとって有利な環境を整えて補給路、逃走路を確保しなければならないマルセイザ共和国軍。
かたや圧倒的な戦力があるサマールルは守りという概念は存在しない。攻めて攻めて攻めまくる。ただそれだけだ。いかに戦力差を見せしめて早期降伏を促すだけだ。
「本気で心配になるな。マルセイザ共和国がこの世から消えてしまうのでなないかと・・・」
砲兵部隊。おおよその数を数えるのさえ億劫になるほどの魔装砲を備えた砲列。その後方で指揮官がそう呟く。
繰り返してきた訓練で、どれほどの威力かを把握しているからこその言葉だ。これから自分たちは、およそ初めてとなるマルセイザ共和国と戦争を行う。神を信仰しているわけではないのだが、本当にいいのか?と畏れを知らぬ所業ではないのかと自問自答してしまう。
その隣で副官が、
「圧倒的な戦力の差を見せて、降伏を促すしかないですね・・・」
「そうだな・・・もう要塞や砦なぞ意味をもたない事を。」
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両軍気球を上げて、空からの偵察を司令部に情報を送っている。気球は以前から運用されていたが、サマールルは飛行船が運航できるようになってから久しく使用していなかったが、キラエルとの戦いで大打撃を被りこの戦いには気球を飛ばしている。
一方、マルセイザ共和国は訓練でよく使っていたので慣れたものだ。
「ぶ・・・。5千もあるの?」
マルセイザ共和国軍側、既に使われなくなった廃墟の石造りの基礎を利用した天幕の中で副将のバロウが口に含んだ水を噴き出した。
「ほぼ全戦力じゃないの?もしかして・・・さすがはサマールルだね。容赦なしですか。」
口を拭って、地面もついでに拭く。内乱を早期に治めてはいるものの、国内を沈静化させる時間稼ぎのためにマルセイザ共和国との戦争はサマールルにとってはいいタイミングだったかもしれない。
「まぁ。想定内ではあるからいいけど。」
そう言って通信機を繋ぐ。
「ハバルクです。本当に今から戦うんですか?」
「もちろんじゃないですか。何のために土を掘ったと思っているんです?」
「かくれんぼ?」
ははっ。と笑ってやったあと
「さっさと準備しろ!」
そうやって通信を切ってやった。ハバルクはサマールル領内に配置していた冒険者ギルドの職員の1人だ。暇そうにしているから職員達には教育がてら色んな資料を提出させていた。魔物・魔獣関係はもちろんのこと、自主トレ、魔法の類、薬草や魔道具などなどと、追加で軍事に関する戦術、戦略をバロウが問題を出している。
月に1回の定期便に間に合わなければ職場を変えると脅せば彼らは必死になって取り組んでくれた。だって、それさえこなせば後は自由時間みたいなものだ。しかも給料は入る。わざわざ以前の職場に戻りたいとは思わないだろう。
「さてと、真面目にやりますかね。」
机に広げた地図に駒を並べる。こちらと敵側。戦況によって駒を動かして視覚化しておいてイメージしやすくしてみた。
「先攻は、サマールルさんどうぞ。」
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宣戦布告からまる3日。進軍を続けるサマールル軍の先頭が国境付近まで進めていた。
一方海軍の方でもそれぞれが海戦に向けて動き始める。大きな樽を担いだ水兵達が大量の物資を忙しなく行き来している。食料、水、武器に砲弾、それに加えて酒。
膨大な量の荷物を運びこむだけで半日以上は時間がかかる。
ここマルセイザ共和国の港に所狭しと軍艦が浮かんでいるが、大型艦はどこにも見当たらなかった。どれもこれも中型艦規模であり、旗艦船すら同様だった。
戦術上の都合によるものだ。決して大型船がないわけではない。乗組員達は神官服と違和感が半端ない、さらにどの口からも主神の威光を称える言葉を口々に唱えている。
サマールルにしろ、キラエルにしろこの光景を見たら度肝を抜かれていただろう。それほどの異質な光景なのだが、彼らは至ってこれが当たり前で出撃に向けて準備が整っていく。
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斥候からの報告を聞き自分の目で確かめたくなった指揮官が、森を抜けて双眼鏡を覗きこむ。
「・・・これは・・・」
困惑に表情が歪む。無理もない。視界の先には広範囲に渡ってノコギリのようなギザギザした形をした掘り進められた塹壕と、その中で待ち構えているマルセイザ共和国の使兵達。さらにご丁寧に、切り倒した木の枝を鋭利に削り、固定して並べ追加と言わんばかりに、地面に這うように自生する蔓性の植物を密集させている。ここまでやってくれると、落とし穴があってもおかしくはない。
「いやはや・・・この規模の塹壕を作っているとはな。」
「魔装砲の威力は理解している。ということでしょうか?要塞など意味をなさない以上、向こうにとってはこれが最大限の防御網かと。」
副官の意見に同意して頷き
「あちらも考えなしに戦争を仕掛けてきたわけではない事は分かった。ならば、それに応えるしかあるまい。」
そう言って、一旦戻り。そこに整然と並ぶ魔装砲部隊に向かって、
「砲撃。撃て!!」
下された号令のもと、一斉に轟音が当たり一帯に響き渡らせた。
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数えきれない砲弾が雨あられのように空に向かって降り注ぐ。弾道学にもとづき、ある一点を境にして、地上に向かって急下降を始める。
「くるぞぉぉ!!」
塹壕の底で亀のような形をした盾を背負った状態で使兵達は頭を低くする。指揮官のセイヨド以外は一心不乱に主神の威光を称える言葉を口々に唱えている。唱えているからと言って指示はしっかりと聞いているから大したものである。
ドン、ドンと重い着弾音が連なる。一度の斉射で降り注いだ砲弾なら、並みの要塞なら、致命的な破壊を免れない怒涛の破壊の権化。なのだが、
「・・・」
「・・・」
その中であっても唱える声は絶えることを知らない。砲撃に対する塹壕の防御効果は覿面だった。砲撃に晒された様子を見れば、着弾した個所はいくらか崩れているが、補修する程度で修正出来る。何より怪我人がいないという事実が驚きにあたいする。
「次が来るぞ!」
セイヨドが指示を飛ばせば、再び振動と轟音が炸裂する。だが、塹壕それ自体が吹き飛んだ箇所は1つもない。
「・・・」
「・・・」
神だ。神の力が我らを守ってくれている。自分たちは神に逆らう者達に制裁を加えにきたのだ。使兵らの戦意がいっそう高まっていくのだった。
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「そうか。」
現場指揮官からの報告にヒオレド・シノ大佐は、無表情でそれを聞き入れた。
「砲撃に対する守りには、塹壕が有効的な事は分かった。」
敵軍が砲撃に備えて構えていたことには素直に称賛に値する。
「鹿砦と塹壕をいかにして打ち破るか、それが君の仕事だよ。」
「・・・」
「いいか。歩兵はまだ出すな。無駄な犠牲者はだしたくないだろう?」
圧倒的な数の砲撃。その効果がいかに凄まじいかを肌で感じて期待しているから、この結果に納得できていないようだから、こうやって焦りにも似た通信が届いたのだろう。
「撃ち尽くす勢いで砲撃を撃ち続けろ。補給は常に送ってやる。降り続ける砲弾の雨に彼らがいつまで待つのか、じっくりと観察するつもりで指揮を摂れ。いいな。」
「はっ!」
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未曾有の砲撃が降り注ぐ中、ただ、塹壕の底でうずくまるマルセイザ共和国軍。
砲撃に混じって歩兵を動かして来たら、反撃する手筈だったが相手が砲撃だけではどうしよもない。下手に魔装銃を撃ったところでなんの価値もない。
事前の想定と目の前の現実をすり合わせながら、どう活路を見出すか・・・
セイヨドがどうするのかが最善か?悩んでいると、さっきまでの砲撃とは違った炸裂音がかき鳴らされる。たちまち無数の金属片が降り注ぐ。背中の盾にそれらが突き刺さり、使兵達は、さすがに唱える声が途絶え始める。
「散弾か・・・。」
通常の砲撃は効果が薄い。ならば効果的にするために弾を変えてきたわけだ。空中で破裂して鉄片を巻き散らして、殺傷能力をあげてくるあたりはさすがの一言に尽きる。
「あいつらここを実験台にしようってことか・・・」
それからも色んな砲弾が飛んでくる。実戦がそのまま実験を兼ねている。どれが効果的なのか探っている段階ともいえる。
やがて一旦、砲撃が止まった。
まずい。直管的にセイヨドの表情が強張った。
「各自、移動しろ!」
それを受けた使兵達が塹壕の壁に立てかけてあった大きな板を塹壕に蓋をする形で塞いで、素早くそこから離脱をはかる。直後通信が届く。
「敵、巨大な砲弾を発射する見込みです。ただちに移動を開始してください。」
ふぅ・・セイヨドは使兵達が一応安全地帯と呼ばれる区画に全員が避難したことを見届けると安堵の息を漏らす。
その直後だ。地震にも似た激震が。共に吐き出される大暴虐。悪夢に等しいその破壊力には、塹壕が耐えられるわけがない。先ほどまでいたところには巨大なクレーターが出来上がっていた。
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「重傷者10名、軽傷が50名ほど、不明者3名。以上が現状把握できる範囲の損害です。」
セイヨドの報告によって、司令部天幕にいるバロウに損害報告が伝わっていた。
「予想の範疇内ですね。塹壕陣地をどんなに強固にしたところでサマールルが持っている最大火力の魔装砲の破壊力にはどうにもなりませんよ。でも最小限の被害に抑えてくれて感謝します。」
気球に乗る偵察隊にサマールルの動きを監視させて、物騒な代物が出てきたら、とにかく避難させる。これがマルセイザ共和国軍の対抗手段だった。
「次弾を警戒しつつ、そのまま防衛戦を維持お願いします。いかにサマールルでもあれほどの攻撃をそうそう連発は出来ないでしょう。ただ、あの破壊力は見せしめも兼ねているはずなので、砲撃と連携してそろそろ歩兵を動かしてくると思いますので重々注意してください。」
「了解です。まだ1発も撃ってないから、撃ち方を忘れそうになってました。」
セイヨドが冗談交じりに言ってのける。
「ははっ。本当に忘れていたら左遷ですからね。覚悟しておいてください。と、ヒット&アウェイですよ。深追いしない。」
「任せてください。そして給料上げてください。」
ははっ。それも冗談ですか?といって、通信を切る。
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「特大魔弾を撃ったんだね。なら、向こうは砲を向ける先には兵を配置できなくなるから、これを利用する手はない。さぁ攻略にむかいなさい。」
ヒオレド・シノ大佐に通信で報告を済ました指揮官は、ついに号令を放つ。
砲弾を撃ち続ける間に鹿砦を排除していた。全部をわざわざ取り払う必要性はない。まずは歩兵、騎兵、そして砲兵が通れれば問題はない。ではどこを排除したかというと、砲撃の射線上だ。大佐も言っていたが、気球で見られている以上、砲身の角度から計算してある程度どこに砲撃が飛んでくるのか知らせているはずだ。
そう予測して指揮官は射線上であり、砲台も運べる道を探しださせて、作業に取り掛からせていた。途中やはりというべきか落とし穴があり、落ちそうになったと報告があったがそれ以外は順調に作業が進み。この時を待ちわびていた。
塹壕に立て籠もるマルセイザ共和国軍に対して、右側を中心に砲撃を集中させ特大魔弾を時折反対方向に撃って牽制し、歩兵による侵攻が開始された。
「走れ!」
「向こうからの弾幕が薄いはずだ!急げ!!」
満を期した歩兵たちが怖気を振り払う様に猛々しく声を張り上げる。頭上を味方の砲撃が通り過ぎ去り、それを追っていくような形で縦列での歩兵突撃。
本来ならば、砲撃によって敵の戦力を可能な限り排除した上で行うのだが、塹壕に立て籠もる相手に効果が期待できない以上、こうして突破口を作るしかない。
「応射しろ!」
「砲撃が来るぞ!頭を下げろ!」
使兵達も当然迎え撃とうとするが、降り注ぐ砲弾の合間での迎撃になってしまい、思う様に応射が出来ないでいる。
加えて速度重視なのだろうか、縦列での進軍により侵攻のペースが速い。そして何より当たったとしてもその者は横に飛び退いて後続の味方に道を譲る。1人1人の兵士の練度の高さが伺える。
だが、しかし・・・塹壕に押し寄せる歩兵たちに、マルセイザ共和国軍から放たれた砲撃が落下する。吹き飛ぶ仲間たち。その光景を目の当たりにして一瞬にして尻込みする。
「向こうからの砲撃だと・・・」
「怯むな!足を止めた分命はないと思え!!」
たじろぐ部下達に隊長が檄を飛ばすが、その間にも容赦なく砲弾が炸裂する。歩兵突撃に対する砲撃によるカウンター。
「なぜだ!?なぜ正確に我々を狙うことができる!!」
数においてはサマールルに劣るとはいえマルセイザ共和国軍は魔装砲を備えている。砲撃というのは放射線を描くように着弾するわけだが。重力、空気抵抗、風、など高度な計算上で着弾予測を行い発射される。だが正確にその的に当たらないからこそ、地面に砲弾が落下した衝撃によって飛び散る風圧や残骸が当たりダメージを負うのが前提である。
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「敵歩兵部隊に着弾確認しました。」
「よし!このまま続行!」
カウンター砲撃が決まったことに喜ぶ使兵達。
「難しいことじゃないよ。だって鹿砦はそのためのカモフラージュだったんだから。」
通信で報告を聞いたバロウはそう呟く。きっと敵側は今頃慌てふためいているだろうと予想して
「サマールルは絶対的に魔装砲の火力をあてにしてくるのはわかっていたし、こっちに進軍するには砲台を通さなければならない。だからさ、通れる道幅があるところに鹿砦で隠しておいて、みつけてもらいそこから侵攻してもらう様に罠を張ったってわけさ。で、狙い通りやってきたわけだけど、こちらは最初からそこに照準をむけていたからね~。外れないわけがないのさ。」
机に広げた地図を見て、すっと目を細める。
「これでまだ戦況は膠着状態。さてどうでるサマールル?」
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「目標地点はそのままでいい。とはいえ、このままでは戦いづらいだろう?だから特大魔弾でこちらの都合が良いように地形を変えろ。」
時を同じくして、ヒオレド・シノ大佐からの指示が通信から下される。
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魔装砲の着弾付近に陣取る使兵達は砲弾が来ることを予想して一斉に身を低く伏せるが、予想に反して、着弾は彼らの前方に轟音が響き渡った。
「「「?」」」
素直に安堵を浮かべて顔を上げて見れば、砲弾によって生まれたクレーター目掛けて敵兵達が殺到する。
「なんだ?」
「あいつらなにを・・・」
敵に向けて応射を撃ち続けるが彼らは、全く迷う素振りも見せずにクレーターの中に滑り込んでいく。こうされてはこちらの射撃が遮断されてしまう。
「まさか・・・」
「砲撃で出来た穴を塹壕に・・・」
使兵達が揃って目を丸くする。
「・・・」
唖然とするほかなかった。たった1発の砲弾で塹壕が出来上がったしまった現実に、理不尽、不条理といった戦力差と臨機応変に切り替えられる歴戦の経験の差をまざまざと見せつけられた格好だ。
どうすることも出来ず、次々と放たれる砲弾によってクレーターによる塹壕が出来上がっていく。
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一方北東の海上。サマールルとマルセイザ共和国軍の艦隊が双方ともに目視で確認できる位置までやってきていた。
サマールルの艦隊はおよそ20隻。キラエル戦で北側に配置していた全艦を総動員して構成されたまさに軍艦といった異様なまでにバカでかく、マルセイザ共和国軍の艦隊が小舟で魚を採っている漁船のようにしか見えなかった。
水平線を埋め尽くすほどのその光景にマルセイザ共和国軍側の水夫達は戦慄する。
彼らと向かい合うサマールル旗艦指令室にて、
「個人的な感想だが、マルセイザ共和国の海軍が気の毒に感じるな。」
海軍の総指揮を任されているマーク・テネラ海軍大将がそう零す。
「キラエル戦では間に合わなかったこの軍艦の初戦があれでは、少々物足りなさを抱くな。」
言いつつ、周囲に視線を向ける。軍艦の主砲となる特大魔装砲、その周囲を魔装砲が囲む様に配置されている。しかも砲台を回転させて砲身だけ方向転換も可能だ。つまり軍艦の進行方向関係なくどこでも相手を狙い撃ち出来るというわけだ。これを配備するのに時間がかかりキラエル戦では間に合わなかったとういわけだ。
「お気持ちは察ししますが、向こうから仕掛けてきたからには、こちらも全力を出さなければ礼儀に反します。それがどんなに圧倒的であっても戦争という物は理不尽の塊みたいなものですし。」
副官のその言葉に頷く大将。
「勝つ以外の結果を求められていない以上、情けは無用ですよ。」
「ふっ。そうだな。この軍艦の性能をためすにはいい機会だ。順当に進めば圧勝だ。万が一の可能性すら残させはしない。よし、そろそろ射程範囲だ。始めるぞ!!」
大将が号令をだすと、直ちに海戦が始まった。
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一進一退の攻防が続く陸戦。サマールルが塹壕を設置してくれたおかげで、徐々にではあるがマルセイザ共和国軍は侵攻を許していた。塹壕からの迎撃と砲弾による砲撃戦。こういった展開になれば数と戦力の差がまざまざと現れ始める。
その時だ、司令部より通信が入った。
「皆さん。一旦撤収してください。焦らず、急がず、相手にバレないように手筈通りおねがいします。」
それを聞き遂げたセイヨドが使兵に命令を下す。
速やかに逃走路に逃げ込み、暗く手狭な穴に列を作って進んで行く。こういった抜け穴は各所に塹壕を造る際に同時に作られていた。全員が出たら後は出口を塞いで完了だ。敵が抜け道を見つけたとしても、出ることはかなわないようにしっかりと塞ぐことは忘れてはいけない。
城塞や砦なんかと違って塹壕は敵に奪われてしまっても惜しくもなんとも思わない。転用するにしても使い道がほとんどないからだ。だからこそ思い切った行動に移れるともいえる。
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弾幕が薄くなり、塹壕陣地を突破したサマールルであったが、そう簡単に攻略の糸口を渡すわけではなかった。
調度岩山で左右が狭まった道を騎兵隊が駆け抜ける。その前方に立ち塞がる形でマルセイザ共和国軍は待ち構えていた。
「ちっ!待ち伏せか。だとしてもこちらは騎馬だ。行くぞ!!総員突撃!!」
彼らとて高い水準の訓練を毎日欠かさず繰り返してきたサマールルの優秀な騎兵隊。加速を味方につけて強行突破をはかる。
「う・・・」
しかし、狭まった道では遺憾なくその機動力を発揮するこがかなわず、先頭を駆けるものから順番に撃たれていく。
さらに岩山の上からの奇襲が加わって、隊列は乱され、突進力を失い彼らの統率力はそこで失われた。棒立ちになったサマールルの集団に迷わず追撃を加え殲滅するのにさほど時間はかからなかった。
「よし!うまく決まったな。」
ハバラクが1人喝采を叫ぶ。岩山の上からの射撃だ。敵がいかに数で勝ろうとも、正面からぶつかる数が制限できるのならば、脅威度はそれほど高いものではなくなる。仮にここを通過したところで、さらに部隊が待ち受けているので、相当数の被害を覚悟して進軍してこない限りここの突破は難しいと言える。
前線から撤収してきた部隊と合流して、塹壕をフル活用した持久戦で消耗させるのが最大の目的だ。後何日耐えられるかはわからないが、彼らもまた時を見計らってここから撤退予定だ。まだまだ奥には塹壕陣地があるので、逃げ場には困らない。
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そして日没に差し掛かった頃、
「交代します。皆さま後方でお休みになってください。」
緊張感に晒され続けてきた彼らに、背後から仲間から声をかけられ部隊をまるごと交代させられる。
緊張と興奮のせいで気づかないようだが、確実に疲労は蓄積させられている。交代交代で
守る者達と休む者達とが交互に入れ変わる。これも守りを主体にしてしっかりと事前に塹壕陣地を構築されているから出来ることでもあった。
交代したところで戦況はすぐにわかるわけがない。しかし、守りに特化した戦法なのでやることは変わらない。敵影が見えれば撃つ。撃たれたら隠れる。圧され始めたら逃げる。これだけだ。こちらから攻めるという考え方がないから割り切れるわけでもある。
さて、先ほどまで生と死の狭間に身を置いていた彼らが断続的に響き轟く砲撃音を聞いて、ゆっくりと出来るのか、というとやはりというべきか落ち着かない。
だから、眠り薬を配給される。まずご飯を食べて、身体を生活魔法で清め、薬を飲んでしっかりと寝る。これがマルセイザ共和国の総指揮を任されるバロウのスタンスだ。
彼ももともとは冒険者だったが、うだつがあがらず燻っていたところをサーハドメラシャド大将に拾われて軍に関わるようになった。冒険者稼業というものはまずは生きて帰ることを優先する。
例えば疲労をため込んだまま魔獣・魔物を追わない。
例えば、お腹を空かせたまま戦わない。
例えば、徹夜で過ごすことはしない。
継続的に生き残るためにはこの3つは絶対にまもらないといけない。心と身体を万全な状態でその日を迎えなければ、明日を迎えることが出来なかった冒険者達を多く見ているからだ。
軍隊だって同じ考え方でいいと彼は思っている。人材の使い潰しを徹底的に排除して、最大効率で組織を運用する。
「今のところは順調かな。どこもかしこもリスクは高いけれど、うまくやれている。」
天幕の中でバロウは地図に駒を並べて思考を巡らせる。
守りを固めて可能な限り敵を消耗させる。防衛の限界を見極めてさっさと後退させる。この繰り返しだ。言うは易いが、実行は容易いものではない。複数あるルートを1つでも突破されればそこをきっかけにして瓦解する恐れも潜んでいる。
でも、サマールルで冒険者ギルドの職員達がよく働いてくれる。彼らがうまくサポートしてくれるおかげで、損害は想定より少なく、割と余裕が持てている。戦争が終わったら彼らを誘って酒でも酌み交わしたいものだ。と、別の思考に傾き始めた頃に通信が入る。海軍からだ。すぐに応じた。
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「逃げろ!」
「急げ!面舵いっぱい!!」
「最大出力をだせ!」
水兵達の怒号が飛び交う艦上。主神の威光を称える言葉はどこ行った?それほどまでに大混乱ぶり、その全てがサマールルの軍艦から放たれる魔装砲によるものだ。
「サーハドメラシャド大将・・・」
開戦。というにはあまりにも一方的な展開に、副官の顔が青ざめている。
それと同様にサーハドメラシャド大将の頭にも血管が浮き上がるほどに、現状について怒りが積み重なっていた。
「はい。バロウです。どうですか?海はひろいですか?」
「・・・この野郎・・・この場に居たら殴り飛ばしてやったわ!!」
開口一番軽口を言う副将に、通信ごしに怒鳴り散らす。
「ははっ。すみません。で、どうです?」
「全方位、至るとこから砲撃が飛んできてひたすら逃げておるわ!」
「損害は?」
「まだ大したことはない。水兵共が大混乱になって喚き散らしているだけだ。」
「作戦通りという感じでしょうか?」
「まぁそうだがな・・・なんなのだあのサマールルの大艦隊どもは、スケールが違い過ぎるぞ!!」
艦隊は同数程度なのだが、装備と、艦隊1隻1隻の大きさが自軍と全く異なり過ぎて、反撃という言葉を殴り捨てて、全力で逃げ回っているそうだ。
「だから言ったじゃないですか。今回の海戦が勝敗の分かれ道だって。それを大将自ら出陣するって言いだしたんですよ。」
「ぐっ・・・」
そこで1度言葉を切り、胸中に渦巻く怒りを全て飲み込んで、サーハドメラシャド大将は再び口を開いた。
「・・・作戦通り逃げ回ればいいのだな?」
「もちろんです。上手く逃げてくださいよ。」
「わかった。くっ・・・ここまで戦力の差があるとはおもいもせんなんだ・・・」
「陸もそうですよ。でも、みんなで協力しあって上手く回ってます。大将もお願いしますよ。」
「了解だ!」
そう応えて通信を切る。
「時代の流れか・・・」
新兵器の登場によってまったく戦場の光景が様変わりしたと、実感が沸くと同時にそれに抗いがたいと強く切望する自分がいる。
「く・・・情けない。」
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「当然の結果ですかね・・・」
砲撃を続けるサマールル軍艦隊の旗艦。マルセイザ共和国艦隊が我先にへと逃げ惑う様を視界に収めて副官が、そう呟く。
「当然いえば当然だな。何の障害物もない海の上で艦隊同士の砲撃戦となれば、砲の数がそのまま勝敗に帰結する。」
マーク・テネラ大将が無感動な声でそう応える。
「しかし・・・当たらんな。」
「あちらは中型船ですからね。機動力は確かにあるようですが、時間の問題ですよ。」
「まぁ。そうだな。」
戦闘が始まってまもなく、一方的な砲撃戦。船乗りとしての腕が左右される時代はもうない。もし、以前の艦船だったのならまだ可能性は残されていたが、魔導船が登場によって優れた兵器をより多く供えた方が勝つ。この結果が覆されることはないだろう。
「向こうは、投降する気はないのでしょうか?ただ逃げ回っていて彼らはどうしたいのでしょうね?」
「向こうにもプライドがあるのだろう?」
そう口にして、淡々と部下に命令を下す。
「砲撃が当たれば呆気なく投稿してくるはずだ。もししないのなら、そのまま海に沈んでもらおう。」
海戦による勝敗はそのまま、マルセイザ共和国の敗北を意味する。制海権を奪われて、上陸されて挟み撃ち。さらに追加で援軍が送られてきた時にはもうお手上げ状態に陥る。
それを理解しているからこそ、マルセイザ共和国の海軍は自軍の敗北を認めたくはないのだろう。趨勢は決まったな。大将は心の中でほくそ笑む。
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そうして3日ほど経過。
「セイヨド。どうだそちらの状況は?」
「・・・そうですね。せいぜいあと2日間程度ですかね」
「わかりました。では、日没まで粘って後退してください。」
「了解です。」
バロウは通信で指示を次々飛ばす。
「ハバルクさん聞こえ成すか?」
「はい。どなたでしょうか?」
「ははっ。余裕ですね。」
「いえいえとんでもない。とても厳しいですよ。本当に。」
「そんなあなたにお願いがあります。セイヨドさんはじめとした前線部隊を一斉に後退させます。なので掩護をよろしくです。」
「了解です。それ終わったら休憩してもいい?」
「もちろんですよ。ということは明日まで休憩なしで頑張ってくださいね。」
「え?!」
「だって今晩移動させますからね。」
「いいですよ。いいですよ。社畜はつらいぜ・・・」
「会社じゃないですから、軍畜でいいんじゃないですか?」
「ははっ。確かに。ほどほどに息抜きして掩護しますので、明日は丸1日爆睡しますね。」
「いびきがうるさかったら叩き起こしますよ。」
「おい!」
冗談交じりに会話を交わしてすかさず通信を切る。いつも通りだ。
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限界が近づいたところで拠点を放棄して撤退、次の拠点へと使兵達は移動する。
ハバルクの援護もあって無事、敵の追撃に補足されることなく到着した拠点は、マルセイザ共和国とサマールルの国境線を線引きした大河だ。彼らはマルセイザ共和国側に塹壕陣地に配備される。河が近いため小高いところに地面を掘っている。他の塹壕に比べて手間暇がかかったが、反乱軍の兵士達が素晴らしい活躍によっていい出来に仕上がっている。
渡河という最大の難所を超えようとする敵兵が水に足元を捕らわれている間に狙い撃ちが出来るので、戦略的な重要性は高い。が、逆に言えばここを抜けられると、かなりまずい状況に追い込まれることになる。ここから先は自然の要害はないのだ。従ってここは絶対に死守しなければならない。
といった、緊張感はマルセイザ共和国には特に見当たらなかった。もちろん敵兵に対して防備は万全の態勢なのだが、ここでもしっかりと休憩をとる者とに分かれている。
暖かい食事と仲間たちとの談笑。そして健やかな睡眠をとって英気を養う。
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翌日にはサマールルは到着を果たしたが、すぐには迎撃に来ることはなかった。まず大河の手前にクレーターによる塹壕を築き、そこから歩兵を移動させ、砲兵隊もその背後に配置された。大河を挟んでの攻防なので向こう側もなにやら戦略を施してきているようだ。
上流では、木を切って積み上げている。下流の方では水深を測る騎兵隊の姿が散見される。
大河には1つ大橋が国境を繋いでいる。それをそのまま進軍に使えば格好の的になるのは必然だったため、馬で河を渡れないかの検証だ。浅くもなく深くもないが騎馬で大河を渡るには無理だと判断を下す他ない。となると彼らの仕事は歩兵が上陸してからになりそうだ。
「砲撃全砲・・・発射準備!一気に攻め落とすぞ!」
かくしてそれから2日後、明朝、サマールルの砲撃から河川攻防戦が始まった。
マルセイザ共和国が陣取る塹壕に砲弾が降り注ぐ。それに対してセイヨドも迎撃の指示を出した。
「もう少しゆっくりとしてくれていても、良かったのにな。」
愚痴っぽい言葉を零し応戦する。ここまでの展開に変わりはない。が、この先から展開がガラリと変わる。
「上流地点より、木材を放流されました。」
「騎兵部隊を確認、散開してきています。」
「上空に浮かぶ敵気球がこちらに向かって来ています。」
開戦から間もなく次々と、通信によって報告が入る。
「強行できましたか・・・」
バロウは予想していたとはいえ、引きつった笑みを浮かべてそれぞれに指示を与える。
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「くそ!歩兵が侵攻しているときでも容赦なく撃ってきやがる!砲撃の手を休めてやろとはおもわないのか?撃ち方、とにかく撃て!向こう岸の奴らを狙え。水の中では射撃が届かないからな。」
塹壕から身を隠しながらの斉射。水属性の魔弾に変えているといえ、流れてくる木材が邪魔で仕留める事が出来ずにいる。セイヨドは早々に諦め対岸でまだ川に潜ってない敵を狙う様に指示をだす。
そうこうしているうちに先頭集団が川幅の4分の一を渡り切っていた。仲間同士で木材を盾代わりに持ち上げて走り出す。もう水位は腰までだった。彼らはぬかるむ川底で足を滑らせないように気を付けながらの仲間と息を合わせての渡河を完遂させる。
「このタイミングだ。準備はいいか?」
セイヨドは辺りを見渡せば、使兵達が頷く。もはやこちらの岸まであとわずかといった頃合いで、一斉に小さな球状の物体を放り投げる。すると。
「ぎゃぁ・・・・」
「うわぁ~」
それが敵兵にぶつかる瞬間に爆発して敵兵が纏まって倒れていく。手榴弾だ。この時のために隠しておいた隠し玉だった。木材と水が邪魔をして銃撃と同様効果は薄い。が、手榴弾は爆発によって水中の中では銃撃と同じように抵抗を受けるのだが、一方で爆発によって発生する衝撃波は水中で非常に効率よく伝播してくれる。水は圧縮しにくいため、エネルギーが減衰しにくく、遠くまで強力な圧力を届けてくれる。
これを受けた敵兵達は、水中衝撃波の影響によって、肺破裂や内臓損傷を引き起こし重傷を負う。さらに、爆発ガスが巨大な気泡となり、膨張と収縮を繰り返し二次的な衝撃が加えられ深刻な致命傷にまで至る。
付け加えるなら木材の破片やそのもの自体が凶器となり、ほぼ水中の中にいた敵兵は全滅以外の道しかなかった。
「よし!!」
セイヨドがガッツポーズを魅せる。
「ひ、怯むなお前たち!強引に押し通せ!!」
相手の隊長らしき人物がそう活を入れたところで、続く兵達が怯むのはしょうがないことだ。誰だって、死にたくはない。しかも水中に入れば、仲間だった者たちの死骸が目の前で浮かんでいるのだ。恐怖心が勝り自制心など働くわけがなかった。
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その報告を聞き
「さてと、ここからが僕たちの攻める時間ですね。」
防戦一方と思わせておいてのカウンター攻撃。これで一気に戦況が傾くはずだ。
「騎兵隊準備。」
天幕の中で彼は通信で指示をだして、地図を見下ろす。いくつもの駒が大河を境にして配置されているが、敵歩兵の駒を大分外した。
「足りない物資、人手があったら教えて。可能なかぎり要請に応えるよ。今まで我慢して防御に専念してきた分、ここで大判振る舞いだ!」
防御から攻めへ。と急展開の指示を矢継ぎ早に飛ばす。その思考の片隅でバロウは想う。副将だの軍師だのと呼ばれているが、結局のところ現場では役に立たたずだ。だからせめて、兵達が十全に力を発揮できるように環境を整え、温かいご飯、休息、話し相手。頭で考えることしかできないのなら、24時間寝る魔も惜しんで考えつくす。戦略や戦術はその延長線上にすぎず、つまるところみんなで協力し合って補いあって戦う。それがぼくのスタンスだ。
「判断は現場の指揮官に一任する。失敗を恐れないで、実行した先に未来が切り開かれるんだ。多少のミスぐらいは帳消しにしてみせるよ。」
局面の変化を敏感に感じ取れる感性。恐れるな、焦るな、勝てる。バロウはそう自分にも言い聞かせた。
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「全体、一度仕切り直せ!作戦は随時指示する。この戦力で負けるわけがない!」
絶対の自信をもつ指揮官。綿密な戦略と戦術をもとにして誤差なく動く軍隊。それこそが勝利の方程式だと思い込んでいる。まだだ。振り出しに戻ったにすぎないのだから。
「砲撃は続行。歩兵は塹壕からの射撃に専念しろ。騎馬隊はいつでも出陣できるように。必ず勝てるはずだ。時間を無駄に消費させるな。その分相手が勢いづくぞ!」
大佐には既に通信済みだ。このまま継戦を続行。補給は滞りなく送ってくれる。自軍の有利は変わらないが、気は抜けないのは確かだ。つけいるミスを許してはならない。指揮官は心理面で次第に追い込められていることに気づいていなかった。
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