表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/70

エピソード3 サマールル

3 皇帝と皇子


大方の有力視していた内乱を起こすだろうと予見していた領主達を抑え込みが終わり、レオリオン第一皇子は、宮殿に招かれていた。


「失礼いたします。皇帝陛下様。レオリオン第一皇子様、召喚に応じて参上いたしました。」


護衛兵に先導されて、広々とした玉座の間に足を踏み入れると、玉座まで続く黒大理石の床が、冷徹な光を反射していた。並び立つ巨柱の列の先、高く切り立った檀上に、皇帝はいた。影を纏ったかのような深く腰掛けた皇帝の眼光は、訪れる者を無言のうちに組み伏せている。


「レオリオンか、よく来てくれたな。近う寄れ。」


「はっ!」


皇帝の手前で膝をつき頭を下げる。


「時にシルヴィ元王女とはどうだ?世継ぎは出来そうか?」


「いえ、残念ながら未だ、閨を共にしておりませぬ。」


「そうか、内乱が勃発しておちおち世継ぎに励めとういのも酷なことよな。だが、これは皇族としての義務だ。協力的ではないならすぐに手配させる。いいな?」


「陛下は、世継ぎを早急に望まれますか?」


「3人は子供を作れ。それ以上は余計な諍いを招く・・・」


皇帝はそう言って過去におきた記憶を思い起こす。が、頭を振り視線を再びレオリオン皇子にむける。


「愛、慈しみ、執着そういった感情は皇帝には不要なものだ。レオリオン。貴様は余よりはるかに優れ頭脳も冴え渡っている。もし今、お前が居なくなればこのサマールルはかつてないほどに荒れ果てるだろう。お前はそんな未来を望むか?望まないか?そんな貴様の心情とは関係なく民衆は基本的に安定を求めて助けを求め彷徨う。理解できるだろう?想像できるだろう?皇帝とは無私を貫くのだ。」


無表情で皇帝は語る。つまり欲を表にだしてはいけない。嫌いだから、相手が拒むから、容姿が気に入らないから、そんな理由なぞ不要。責任と義務、そして矜持。


「皇帝とは、家族と国家を天秤にかけた時、逡巡は必要としない。私情に流されず国家を優先させる。苛烈に無私を示し、レオリオンは後に刻まれるであろうサマールルの歴史に皇帝として君臨すればいい。」


「はっ」


「民衆は不満を持つ者があらわれるだろう。弱者も、強者も、老いも若さも、男も女も誰も彼もが本当に欲しているのは自分だけに注がれる羨望。だが、どんなに求めようとしても願ったところで大半の者達が行きつく先は皆平等だという主張だ。」


顎の下で両手を組んで、皇帝は滔々と帝王学を語る。自分は老いたという実感とレオリオンの才能が合わさり、もう帝位の座を明け渡す準備に余念を残したくはないのだろう。


「だがそれは、誰をも助けない。ではなく誰でも助ける。という形が望ましい。皇帝という象徴的な立場としてな。」


散々聞かされてきた帝王学の内容を、レオリオンは俯いて聞き流すばかり。シルヴィ元王女からの話しから始まっていつもの台詞だ。


「はっ。この身命は生まれた時からサマールルに捧げたもの。未来の礎となることに否はありません。」


「うむ。言うのが遅れたが、まずは内政面。下級官吏からの有能な人材の登用と、再編と配置、はたまた短期間で育成方針の変更。先だっての内乱では早期の解決見事であった。最小限の犠牲に留め最良の結果をもたらし、腐敗貴族たちや、横領が常態化していた官吏が溜め込んでいた財物はもとより、第二皇子共が抱え込んでいた財産を売ったな。それを国政に費やすのみならず、戦争で死した兵士達の見舞金に惜しまずに送った。実に見事だ。」


「もったなきお言葉。恐縮です。私からも陛下にお礼を。平民街での工事を許していただき有難く思っております。」


「・・・以前から気にかけていたがなかなか踏ん切りがつかなかったからな。いい機会だ。これからも励め。」


「もちろんでございます。恐れながらもう1つ陛下にご報告があります。」


「うむ。聞こう。」


「国境沿いに軍を派遣させてください。」


レオリオン第一皇子が何を意味してそう言ってきたことを理解した瞬間、皇帝の表情が固まる。


「マルセイザ共和国だと?」


キラエルとはシルヴィ元王女を迎え入れたことによって、小さな諍いの類は発生するのはおかしな話ではない。戦争まで発展する可能性は皆無だろう。では、なぜ?国境の防備が必要なのか?


「マルセイザ共和国に派遣させていた官吏をはじめとする間者からの情報が制限されてきております。徐々にではあり表立っているわけではないのですが、以前よりも少なくなってきております。」


「つまり、キラエルからサマールルに矛先を変えたと?」


「まだはっきりとしたわけではないので憶測の領域になりますが、備えるには良いかと。」


「共和制を主として、魔物・魔獣を敵とみなす。至上戦場主義を掲げている我が帝国をついでに制裁を加えてくるか。」


冷静に思考を巡らせる。兵器の概念が変わろうとしている。戦争の殺り方が様変わりしたこの時期に叩いておかないと、マルセイザ共和国側が脅威を抱いてきたといったところか。


「よかろう。許可する。魔物・魔獣殲滅の為と伝えて置けば、向こうは何も言い返しては来まい。」


「ご聖断、心より感謝いたします。ただちに取り掛かります。」


許可を得て立ち上がると、恭しく一礼してその場を後にした。その口元がわずかな酷薄が浮かんでいるように見えた。


***************************************

深夜の時間帯、部屋の空気は重く、彼女が吐き出す熱気がさらにその密度を増していた。


乱れたシーツの狭間で、彼女は己の身体を持て余している。


疼くような渇きを癒そうと、震える指先が自身の柔らかな曲線に深く沈み込む。


理性のタガはとうに外れ、ただ本能に突き動かされるまま、彼女は闇の中で彼の名前を呼ぶような、掠れた吐息を漏らし続けた。


身を焦がさんばかりの熱は、今や彼女の意思を焼き尽くし、ただ欲情、情欲という塊に変えていた。


手足を縄で縛られ、気遣いなど微塵も感じられない。か細い手首と足首に彼女が悶えるたびに、クッキリと締め付けて次第に血が滲む。


彼女を見据える深く澄んだ瞳。その奥には嗜虐的な色が鮮明に宿っている。夫婦となった青年に身体的に、精神的に蹂躙されるべくして彼女は喘いでいる。


だが、その一方で彼にいたぶられ、なじられ、虐げられる度に、彼女の中にある自虐的な性癖が悶えて悦ぶ。


そう想い描いているだけで、当初はまだ抽象的だったそれが結婚を境にして1人ベッドの上で寝るたびに、次第に生々しい性欲が沸き上がって来るのが実感してくる。


期待してしまうのだ。どうしようもなく、彼が自分をいたぶり尽くしてくれるのか?冒涜的に、踏み、にじり、凌辱の限りを尽くされる。その過程を想像して彼女の意識は白く溶けて霞んでいき・・・


「はぁ・・・はぁ・・・」


全身から汗をしたたらせ彼女は目を覚ます。


「はぁはぁ・・・朝か・・・」


まだ残る生々しい感触と記憶。もじもじとさせる無意識の仕草。熱い吐息と共に訪れる羞恥心と自己嫌悪感。独りで指を這わせる惨めさに、その屈辱感が裏腹に密のように甘く抗いようのない悦楽に彼女は毎晩のように溺れていた。


「私は、発情期のサル以下だな・・・」


唇を噛み、漏れ出しそうなこえでそう呟いた。



****************************************

使用人たちに着替えさせられ、朝食をとりシルヴィの一日が始まる。


シーツを捲れば年頃の女性ならとてもじゃないが平常心を保つことが出来ない有様になっているのだが、自身で片付けることも出来ないし、隠し通すこともできやしない。


密かに使用人たちが囁いていたとしても気にしないときっぱりと決めていた。これは健康な生理現象であって間違っても病気の類ではない。


戦場での経験が彼女のメンタルを強化している。生と死の狭間を掻い潜り、つかの間のひと時に情欲が沸くことは決しておかしなことではない。


規律を重んじる軍事行動中に性行為は禁止されている。部隊の結束の維持、性病、妊娠による人員欠員、プロフェショナリズムそういったもろもろの事情を鑑みての事だが、隠れてする分には黙秘する。


人族とは、食欲、睡眠欲、性欲は生きていくうえで欠かせない本能だ。それを制御しろというのもなかなか難しい事柄だろう。だからと言って目の前で性行為されても困るという物。


だから基本的にパートナーの同意がある。独りで処理する。他人に迷惑をかけない分には表立って処罰はしない。あの5人だってきっちりと守って密かに発散させていた。


なので、これはこれ、あれはあれでと割り切るしかないというわけだ。・・・気にしていたら心が病むだけである。


シルヴィが朝の支度を済ませると、タイミングよく文官の2名がやってきて跪き挨拶を交わす。


この2人はいわばサマールルでの生活云々の世話係件、監視係だ。


片方は髪をポニーテールにした繊細な顔つきの女性。名はナノカ。もう一人は肩まで伸びた薄い水色の髪色とメガネをかけた真面目そうな女性。名はマリン。2人とも優秀で年も近いこともあり登用された人材だ。2人とも共通するのが笑顔で褒めちぎりながら、わずかな所作を見逃さない観察眼。


そして2人は仲良くしているようであって、牽制しあっているふちを感じる。派閥が違っているのだろう。どちらがシルヴィに気に入られるかで将来が決まると言い切っても間違いがないであろう。


とくにこれをしろ、あれをしろというものではなくシルヴィが行きたいところに連れて行き説明を補足する。今のところはといったところだ。


さて、2人を伴っていく先は当初はお茶会とか、演奏会、服選び、などなど女性が好みそうな集いの場で改めて彼女達は互いに顔と名前を認識する。


こういった集いを通して弱みを握り合うことで成立する逃げ場のない友人関係を構築させていくわけだ。華やかな舞台の裏で高度な心理戦が繰り広げられる。


食事の仕方、座り、歩き方、装飾品、などなどシルヴィの品定めも兼ねている。面倒だなとため息1つ漏らしたいところだが、それすらも彼女達にとってはご褒美となってしまうから気が休まることは一切ない。


数か月もするとシルヴィも大体慣れ始めてきたので、招待されても2回は断って3回目に招待されたら向かう形が整った。まず毎回呼ばれていて際限がきかない。立場上シルヴィの方が上の立場なため断るのも苦にはならない。


それから興味がない。これからのことを考えれば必要な事なのだろうが、まだ内乱が勃発して肝心のレオリオン第一皇子は忙しそうだ。だから2人の時間はまだない。


最後に他を見て回りたいといった好奇心だ。キラエルとは全く異なる世界だ。知る機会があるのなら知りたい。図書館でもいいし、何かの研究している現場でもいい。とにかく飽きた。その一言につきる。


そんな時だ。調度会議があり議題も知られたところで問題がないのでシルヴィは会議室の席に着くことができた。もちろん彼女は客人扱いで、発言権はない。ただ見て聞いているだけのつまらない物なのだが、彼女は率先して参加を希望した。


朝から始まり、昼食休憩を挟み。会議が終わったのが日も暮れそうな黄昏時。


長時間の会議だった。これがほぼ毎日あるという。難儀なものだなと率直にシルヴィの頭の中にその言葉が駆け巡る。


理想の国を創るためにそれぞれが主張しあう結果。1つの題材に時間がかかりすぎる。会議に参加した者たちはそれぞれの立場があり、この席に座るという誇りを抱いているからこそ、そう簡単に意見を譲らないし、覆さないし、同調しない。


この分だともしかしたら、彼らが議論している間に問題自体がなくなっていたり、終わってしまっているのかもしれない。意見の衝突は当然であり必然である。だが、結局何を彼らは議論していたのだろうか?と率直に疑問が湧きあがって来る。


なら私ならどうする?村や町程度の規模なら皆で決める。で問題ないだろう。しかし国規模になるとそうはいかなくなる。先ほどの会議と同じ内容になるのでなないか?ならば、権力者がもう決めてしまえばいい・・・


いや、それだと過去の歴史から見てもそうそうに国は瓦解する。


ならばどうする?どうすればいい?


1つの問題に対して複数の意見は欲しい。が、1つに決められない。そして何も決められない。元の木闇だな・・・


このテーマもキラエルにも当てはまるな。現状は痺れを切らして国王が即断してしまうが・・・と、そこでシルヴィはピタリと歩く足を止めた。


複数の意見をまとめて選択を決めることは難しい。ならば縦の構造を構築したらいいのでは?正解か、不正解か、結果がどうなるかなんて神にでもならなければわかりもしない。私は神か?否違う。ただの女でありなんの取り柄のない立場があるだけの人間だ。


だからこそではないか?皆だって神でもなければ未来が見通せるわけではない。まずは話し合って、決断を下し実行する。失敗したらまたやり直せばいい。ただそれだけ、トライ&エラー。


何もしなければ何も始まらない。


シルヴィがいきなり立ち止まってしまいどうしたものかと、あわあわとしていたナノカとマリンの存在に気づき、はっとして再び歩を進める。


考えが決まって晴れ晴れとした気分になったものの、独りになってふと考えてみたら


「・・・結局私には発言力などないのだったな・・・」


と、ぼそっと呟いた。



****************************************


数日後のことだ。


今回は軍の訓練視察だ。どんな訓練をしているのか興味があったので申請したら、新人たちと、それらを指導する上官達との模擬戦がこの日だったらしい。


痺れ弾を使った模擬戦。キラエルでも散々行われてきた訓練だ。なぜ?痺れ弾をしようするのかというと、ポーションがあり多少の怪我なら復帰が可能だからだ。ペイント弾でもいいのだがよく誤魔化すものもいるし、実際に痛みにも慣れておいたほうが実戦でも混乱しないからというのもある。


新人部隊は大隊1個に対して、上官部隊はその半分。中隊以下の数。多勢に無勢。はたからみても新人をあなどりすぎだろう。が、


模擬戦が始まり日没前に勝敗は新人たちの敗北で決した。


「・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」


「・・・はぁ・・・はぁ・・・」


ほぼ全員の新人たちが荒い息遣いで地に伏しっている。


「お前たち。体力がどれだけ大事かよくわかったか?」


上官の1人がそう大声で声をかけて、完敗のショックにへたり込んでいる新人たちに追い打ちをかけるようにして叱咤激励を飛ばす。


「訓練通り行動するのはいい。が、連携が疎か過ぎる。敵がどう動いてくるのか予想しろ。考えて動いた分だけ寿命が延びる。」


息も絶え絶えの彼らの耳に届いているのかは別にして、


「チャンスとばかりに飛びつくな。誘いや罠が必ず潜んでいることを頭の中に刻み込め。その間隙を敵がみすみす見逃すわけがないだろう?あっという間に敗北に繋がる。今後の模擬戦を通して、1つ1つ大事に経験を積め。」


それらを離れた場所で飽きもせずに観察していたシルヴィは、頭の中で自分なりの分析を進めていた。エリーゼがいればすぐに違和感を聞けたのだが、彼女はいない。


魔装銃、魔装砲と射程が伸び命中力と威力が増した今の戦場において考えさせられる訓練の仕方だったからだ。


従来、歩兵の大半は戦列歩兵が主流だった。それは当たらないからだ。以前までは射程がそれほど長くはないし、正面に照準しても当てることに技術が必要とされていた。しかし現状でそれをやれば殺してください。撃ってください。と言っているようなものだ。だから戦い方を変えていかなければならない。


戦列歩兵に対して、散兵歩兵。支援砲撃を受けながら、突撃したり牽制したりと柔軟性を維持して砲撃と連携、もしくは騎兵と連携の運用を想定しているのだろう。


先の戦争での経験をもとにして、歩兵の運用を構築している。といったところか、実戦を経験した者達なら肌で感じるのだが、常に考えて行動を起こさなければそのまま死に繋がる。

改めて実感するのが、エリーゼ、ルールカ、ミルキ、レイニ、リナの存在感が異常だったのだと痛感する。普通ならこの新人たちと同じ目にあうことが明白であって、ましてや劣勢の中でも最適解を導きだすのは至難なことだろうと。


その後、海軍にも視察に訪れた。こちらも魔装砲を有効にかつ効率的な運用を求めての訓練風景だった。因みに空軍のほうは大打撃を被ったせいで今は、関係者以外立ち入り禁止となっており見ることが叶わなかった。


彼女は社交をこなしながら、暇な時間をキラエルとサマールルとの共通点と相違点を探しながら日々を送った。細かいことはまだ整理が追い付かないが言えることはダンジョンを解放しているのか、独占しているのか、といったところだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ