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魔装銃改

魔装銃改


「テッツ副隊長。私たちの仕事は補給物資を次の拠点まで届けるだったよね?」


「そうです。」


「味方にだよね?」


岩陰からそっと双眼鏡を覗いてミルキは雪山道の向こう側をうかがった。その先に見えるのは、木と岩で作られた簡単なバリケードと、その中に監視の目を巡らせている氷族の見張りの姿だ。


「拠点が奪われている場合はどうやって奪い返すか?」


ミルキは状況をまとめると、兵とともに来た道を引き返した。見つからないように気をつけながら雪山道を下っていくと、そこに補給部隊の本隊が待機していた。


「見て来たよ。残念だけれどやっぱりこの先の拠点は奪われているよ。」


エリーゼはそれを聞いて思案気な顔をみせる。


「・・・数はどう?」


「バリケードを張っていたから、正確な数はわからないけれど、あの規模から考えると小隊ぐらいだと思うよ。」


「・・・。」


しばらく考え込んだエリーゼにミルキが提案をする。


「レイニ隊を援護に回してもらって、私たちミルキ隊で奴らから拠点を奪ってきていい?」


「できそうなの?」


「1時間もあれば。」


自信満々にミルキはそう応えた。


「犠牲は最小限に抑えなさいよ。」


「任せて。」


エリーゼに敬礼して、ミルキはレイニ隊を連れて再び雪山道を登り始める.本体から離れると、レイニに問いかける。


「落とし方はわかっているよね?レイニ」


「・・・うん。位置さえ確保できれば一時間もかからないと思う。」


レイニのその答えにミルキは軽く頷き返した。バリケードまでの道のりを半分残したところで足を止めて、彼女らは視線を上に向ける。今いる雪山道に向かって左側は急斜面の登り坂となっている。


「ここから真上まで登ったら調度、敵のバリケードとほぼ同じ高さを得られるはず・・・」


「・・・なるほど。そこから射線を探せばいいね。」


「ただ、足場は広く取れないかもよ?」


「そこは大丈夫。でもあんまり数が多いと見つかるから半分に分けるよ。」


ミルクとレイニは淡々と作戦を決めていく。


「私たちはレイニ隊が見えなくなったら出発して攻撃を仕掛けるね。」


レイニはこくり頷いた。


「作戦開始。くれぐれも敵に見つからないようにね。」


その合図でレイニ隊の半分が雪山の斜面を登り始める。足場を探して滑る斜面をよじ登っていくその姿を見送っていると、テッツ副隊長がミルキに問いかけた。


「隊長。レイニ隊に援護射撃させて、私たちは正面から攻めるのですか?」


「うん。その通り。」


「通常の魔装銃の射撃距離はせいぜい50メートル。魔装銃改で有効射程距離が伸びたところでバリケードに囲まれた敵に援護射撃なんてできるのですか?」


「まぁね。前の戦いだとわかりづらかったけど、でも本当に出来そうにないならレイニは反対したはずだよ。でもそうしなかった。」


それでテッツ副隊長の口を封じ込めると、ミルキは斜面を見上げて


「テッツ副隊長。そろそろ始めるよ。一気にいくからね。気を引き締めて。」


最北軍から奪い返したバリケードに立てこもって監視を続けていた氷族の賊たちは、視界の中に隊列を組んだ敵の姿が現れた瞬間に即反応していた。


「来た!砲準備!!」


そのリーダーの指示で大勢が動き始める。この拠点の主力は重力を味方につけた魔装砲である。一つのバリケードにつき2砲。計6砲が設置されている。この砲を取り扱う者たちが大急ぎで走りまわった


ここの魔装砲は旧型の部類で1砲につき3人が運用に必要になる。殺傷威力は十分。魔砲弾が装填済み。あとは指示さえあればいつでも発射可能だ。


「よし!発射させるか?」


「待て!もっと引き付けろ!!」


リーダーは冷静であった。魔装砲の砲弾速度は魔装銃と比べれば遅い。あまり距離が離れていると、有効射程であっても避けられる恐れがある。次弾を装填するのにも時間がかかる以上、常に最大現、効率を重視した撃ち方をしろと、彼らはそう教わった。


「距離。10・9・8・7・6・5・4・が!??」


秒読みを始めたリーダーが、いきなり仰向けに倒れこんだ。


いや、彼だけではない各バリケードの砲兵がひとりずつ同じように倒れこんでいく。ある者は頭から、ある者は胸から、血を流して横たわっている。


「な・・・なに?なにが起こった?」


「銃撃??いったいどこから??」


状況の理解が追い付かず、新たな犠牲が増える。リーダーを失った彼らに混乱が巻き上がる。


「命中。」


ミルキ隊から上方の位置。天然の屋根のようなせり出した地形に身体を屈めて、レイニ隊が魔装銃改で狙いを定めていた。


「次弾。構え。狙え。撃て!」


迸る空気の中。銃口から発射された魔弾が距離にして200メートル離れた賊の頭を貫く。


「命中。次、構え、狙え、撃て!!」


レイニ隊全員がスコープを覗いて号令とともに魔装銃改で狙いを定める。


「命中。敵に負傷させましたが隠れました。」


「命中。敵なし.」


おそろしいほど淡々と彼らは射撃する。


約200メートルという距離をおいての一方的な殺戮。敵の脅威を感じることなく、恐れを抱く必要もない。ただ引き金を絞るだけ。


「ミルキ隊が攻撃を開始。このまま支援する。」


冷淡な声でレイニはそういった。スコープで次の獲物を探して、彼は簡単に射撃する。


「よし、突撃。」


頃合いを見計らってミルキは隊に合図をだした。一斉にバリケードを攻め立てる。怒号が戦場を埋め尽くす。


「テッツ副隊長。光魔弾よ。敵の目を潰して。」


「はい!」


剣や槍を構えて突撃していく兵たちの後ろで、魔装銃で光を放つ。そのまぶしさに目を反らした敵の分だけ兵たちが斬りこんでいく。


「「「おおおおっぉぉおお」 」」


狭いバリケードの中で戦いが始まる。光で目を手で覆った男の首が裂け、押し倒した敵の胸に槍を突き立てる。ある者は叫び、ある者は泣き叫ぶ。阿鼻叫喚の世界。


「やめて・・・お願い。助けて・・」


「・・・」


と、その戦争という非日常の中で、武器を捨てた命乞いをしてくる氷族の女。まだ戦いに酔っていないものが出会ったのなら情にかられて、攻撃をためらってしまうだろう。


同じ同性を見つけて命乞いをする氷族の女兵。そんな彼女は、両目を見開いたかと思うと急に倒れた。


「・・・こんなところで命乞いなんてダメだよ。」


ミルキが女の死体を眺めてそういった。眉間に穴が空いて息絶えている。


「・・・さてと、もう終わるかな?逃げる相手には無理に追わなくってもいいから、隠れている敵を探して。おちおちと食事もできないから。」


戦闘が終わりを見せ始めると、ミルキはてきぱきと兵に指示を飛ばす。


「で、これが魔装銃改の威力ってわけ?」


魔装銃改を手に取りながらルールカがそういった。敵から奪い返した拠点の中で、エリーゼ、ルールカ、ミルキ、レイニが集まって、先ほどの戦いについて話し合っているところだ。


「そう。銃身内部にらせん状の溝を刻むことで、有効射程が従来の魔装銃の5倍。大量に生産が始まれば戦場が変わるよ。」


実際に使ってみたレイニに視線が向けられると、彼は説明を始めた。


「感想をいうと、とにかく弾道の安定感がとても良い。距離があっても着弾点を外さない。で有効射程が伸びた分威力も倍以上。でも魔装銃改の本当の脅威はこの銃じゃない。このスコープなんだよ。」


「あんな遠距離で正確に的を狩れるのは、望遠鏡機能をもつこの照準器のおかげということね。でも、信じられないわね。たった30分で敵を殲滅したなんて。」


ルールカがスコープを見て唸る。


「射程が大幅に伸びた以上、遠くの的を見ないといけない。だからスコープは必然なんだ。結果、遠くから離れた砲兵を的確に余裕をもって仕留めることができて当然なんだよ。」


そう言うレイニだが、魔装銃改を手にしたところでレイニと同じ戦果を得られないだろうなと、ルールカは思う。射撃の腕があってこそこの技術が活かされるのだ。


「この魔装銃改の登場で大人数の隊列がいらなくなって、面と向かって撃ちあわなくってもよくなる。散開して散らばって動き回って標的を探して、狙い定めて、撃ち落とす。」


「射撃がこれから主流になるってこと?想像はできるけれど、迎えたくない未来ね。」


基本的に近接戦を得意とするルールカの言葉だ。


「いやいやルールカ。それはその時の戦略・戦術次第だと思うよ。機動力がある騎馬隊を狙い定めるには無理、無理。ひたすら追いかけてこられたら射撃なんてまともにできないから。」


魔装銃改は、単なる武器の改良に留まらず、戦術や兵士の役割、さらには戦場の倫理観にまで影響を与える「革新」であることを示す。遠距離からの狙撃が可能になったことで、従来の近接戦闘の価値が揺らぎ、新たな戦い方が模索されることになる。


ルールカとレイニの会話が集まる中、見張りの兵が慌ただしくここに飛び込んできた。


「ご歓談中のところ失礼します。たった今前線から救援要請の伝令が到着しました。」


エリーゼが真っ先に立ち上がった。


「救援?」

****************************************

「止まって。」


言葉少なく兵たちの動きを制すると、エリーゼはその空間に存在する精霊の様子をうかがった。


「はぁ・・・はぁ・・・エリーゼ?」


息を切らしたミルキがそう尋ねる。最短距離を選択したおかげもあって、丸一日かかるルートを短縮できたが、そんな急行軍に兵たちの疲労がないわけがなかった。


「このまま突撃でもいいわよ。問題ないわ。」


そう言った、ルールカの隊には疲労の影が見えない。この戦いが始まってからも闘争心がまったく衰えないそんな彼女に、エリーゼは応えることが出来なかった。


「頼もしいわね。でも、ダメよ。」


その声は淡々としている。兵たちを動揺させかねないこの言葉に感情を乗せてはいけない。今は事務的なものが必要だった。


「精霊に聞いたところ、この先に味方はいない。敵の気配もない。つまり、もう全部終わっているわ。」


「・・・私たちを狙った待ち伏せもなかったわね。味方を全滅させていたのならその可能性は高いとおもっていたけど。」


「それが出来ないほど氷族の被害も大きかったということね・・・」


レイニは、エリーゼとミルキの言葉をぼんやりと聞いていた。彼の頭の中には、目の前の惨状が、まだ現実として消化しきれていなかった。故郷の穏やかな風景とはかけ離れた、血と死の匂いが充満するこの場所で、彼はただ、仲間たちの背中を追うことしかできなかった。なぜ、こんなにも多くの人が死ななければならないのか。なぜ、争いは終わらないのか。田舎で育った彼にとって、この戦いの複雑な政治的背景や戦略など、まるで理解できなかった。しかし、仲間たちが苦悩し、それでも前を向こうとする姿を見るたびに、彼の心に、漠然とした『守りたい』という感情が芽生え始めていた。彼は、自らの無力さを感じながらも、この過酷な現実の中で、自分に何ができるのかを、静かに模索し始めていた。そして、魔装銃改を握る手に、確かな重みと、かすかな希望を感じていた。この銃が、自分に与えられた『活路』なのだと。


エリーゼ達の足が前線の拠点だったところへ踏み入った。その場に立ち止まって彼女らは辺りをざっと見渡す。目に入ってきたその光景に皆の表情が強張った。


あちこちに敵味方関係なく死体が転がっている。凍てつく空気の中、血と硝煙、そして微かに混じる排泄物の匂いが鼻腔を刺激する。戦いの中で死んだ者、なにもできずに死んだ者、味方をかばって死んだ者 -死の形は様々だ。冷たくなった肉の塊は、地面にへばりつくように横たわり、その感触が、否応なく命の終わりを告げる。沈黙の死体が倒れている場所と姿勢をみれば、彼らの最後が想像できる。彼らの体から流れ出た血は、雪と混じり合い、赤黒い染みとなって広がり、その冷たさが、エリーゼの足元からじわりと伝わってくるようだった。


「・・・苦々しいけれど、どうしようもないわ。」ルールカがそう漏らした。


エリーゼは、散乱する死体と焼け焦げた戦場を無表情で見つめていた。精霊たちは、この雪山の岩肌に刻まれた何千もの魂の叫びを、まるで風の歌のように彼女に伝えていた。彼らにとって、人間の争いは、一瞬の嵐のようなもの。しかし、その嵐が残す傷跡は、何百年、何千年と大地に残り続ける。精霊たちの悲痛な囁きは、エリーゼの心に過去の惨劇と未来の予兆を直接描き出した。冷徹な指揮官として兵を動かしながらも、彼女の心は失われていく命への哀惜と、精霊たちが語る『世界の歪み』への深い苦悩に苛まれていた。


「死体の大半がこの陣地の中に集中しているわ。彼らは最後までここで戦い続けていた。」


最後の最後まで、仲間が救援に来ることを信じて戦っていたのだろう。


折り重なるようにして息絶えている兵士たち。全身に無数の刺し傷を負っていた。手元には剣もある。仲間を守ろうとしたのだろう。


高山病にかかって身動きできずにただ狩られた者たちもいたのだろう。わずかな抵抗の後すら見せずただ横になって殺されている死体もある。


「…ここまで来たのはいいけれど、どうする?遺体を埋葬するにしても数が多いわ。」


「死者の霊を送り出す。それで引き上げましょう…」


雪山特有の寒気が屍の腐敗を防いでいる。戦いが終わってからにしょうと方針を決めると


「レクイエム。」


エリーゼは光の精霊魔法を唱えた。


神よ。永遠の安息を彼らに与え、絶えざる光でお照らし下さい。神が降りる地では賛歌が捧げられ、住まう神殿では誓いが果たされます。祈りをお聞きください。すべての魂はあなたの元に還ることでしょう。


その魔法を唱え終わると、地に刺さっていた1本の剣が冷たい雪山の風に吹かれてパキっと音をたてて崩れ落ちた。精霊たちは、その剣に宿る兵士の魂を、静かに天へと導いていく。エリーゼは、精霊たちの囁きを通じて、彼らの安らかな旅立ちを感じ取っていた。しかし、同時に、精霊たちが語る「世界の記憶」は、この戦いが単なる人間同士の争いではなく、より大きな「歪み」の一部であることを示唆していた。精霊たちは、遥か昔からこの地を見守り、人間の愚かさと、それでもなお芽生える希望の両方を知っていたのだ。彼らの視点から見れば、精霊たちは全てを知っているのかもしれない。


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