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オウルベア

オウルベア


里から離れた森に入ると結界が切れているのを発見した。


土の中に埋め込まれた結晶だ。掘り起こされて光を失っている。等間隔を伴って里を守るために張りめぐらされた結界が組み込まれている魔法陣だ。


だからあの子熊が里にまでやってこられたのだ。


日の光が木々に遮られ、漆黒の森の奥は深い。行く手に立ちはだかる木々を避け、枝葉をかき分けて進む。ノームの守りによって擦り傷が生まれる心配はない。


暗闇の中を手探りで進む暗中捜索に精神的な負担は大きい。


木漏れ日すら遠い闇の中であって、頼れるのは先導するシルフの背中だけ。シルフは時々とまって辺りを見渡すとまた進みだす。森の中に住んで居る精霊たちに聞いているようだ。だから迷いなくこの森の中を突き進んでいる。


しばらくすると、


「なにかいる・・・・」


「魔獣?」


「わからない。」


「行こう。」


駆けだそうとするシルフをせいして、警戒感を持ってゆっくりと、そのままシルフ、エリーゼとノーム、ウィンディーネが続く。


と、ふいにエリーゼの視界が目の前で開けた。森の中に、ぽっかりと木々が口を開けた空間があった。小高い丘が拡がるそこは差し込む木漏れ日がいっそう幻想的な雰囲気を醸し出している。


そんな小高い丘に、木漏れ日の恩恵を受けるその場所に、


「・・・」


ふいに生じた違和感に息を詰め、足を止める。空気が変わったという感覚が肌に伝わった。


肌を刺激するのはその存在がまとい放つ威圧感だ。そこにいるというだけで意識が持っていかれる。


空気の温度が変わり流れが乱れると、そこから異臭が運び込まれてくる。先ほどまでの森の匂いといった木と土と草の鬱蒼としていたが、生臭さにかわって思わず顔をしかめてしまった。


いわゆる獣臭。


そこには1人のエルフと思われる人物が椅子のようなものに座って子熊を抱いていた。


ボロボロの衣服。手入れがされていない緑系の髪。黒い肌にあっちこっちに汚れが付着している。しかも、それは虚ろな目をして生きているのか死んでいるのか遠目ではわからない。


息を飲み、息を整えてから。


「ねぇ?」


その問いかけに抱かれていた子熊がその首をぐるりとめぐらせ、エリーゼの方を視た。


そのまま全身をこげ茶色の毛皮に覆われた小さな身体を地面に降ろし、一歩一歩と近づいてくる。


が、ふっとその子熊は消えた。


正確にはシルフの風によって吹き飛ばされて背後の大木へと叩きつけられていた。


ぎゃんと微かな断末魔が聞こえたようなきがしたが、その呆気ない終わりにふっとため息を吐いたその時、むわっとむせかえるような獣臭が再び襲ってきた。


茂みが揺れる。向こうから踏み出してくる背の大きな影。


そして、暗い森にあかあかと斬り裂く赤い双眸・・・その目が数えきれないほど、正面の木々の奥に除かれているのが見えた。


正確な数はわからない。それほどまでの魔獣オウルベアの群れ。


圧倒的な殺意がエリーゼに注がれる。


くす。


と、小さくか細く、あるいは聞こえた、と錯覚しただけの幻聴だったかもしれない。そんな笑い声が聞こえた。


それがきっかけにして静寂だった森が狂乱と絶叫が響き渡る。


大地が震え、闇深い森に雄叫び木霊して炸裂する。


赤い光点が一斉に飛びかかってくる。


近づくにつれ、それが次第に輪郭を結び漆黒を身にまとった魔獣が牙をむき襲い掛かってきた。


その牙が、爪がエリーゼに届こうとした瞬間だった。突如として、水が爆ぜるような轟音と共に、オウルベアの頭が爆発した。至近で生温かい血飛沫がエリーゼの頬を濡らし、彼女は思わず息を呑む。直後、頭を失った魔獣は後ろにのけ反り、鈍い音を立てて仰向けに倒れた。


「初めての魔獣に手間取ってしまったわ。」


メイド服を優雅にひるがえして水精霊のウンディーネが前に出る。彼女の背後では、水滴が空中で弾けるような微かな音が響いていた。


「水魔法?」


「そうです。生き物は体内に水分を多く持っていますからね。それを利用させていただきました。もっとも魔獣相手に初めてでしたので、次からは瞬殺です。」


ウィンディーネは身を回し、軽やかなステップを踏みながら、新たな魔獣を横目で見ると、舌先で唇を舐め、その瞳には冷たい光が宿っていた。


その好戦的な瞳に、魔獣の群れは一瞬怯んだかのように見えた。しかし、殺戮の衝動に駆られたオウルベアたちは止まらない。


はっきりと蹂躙と殺戮が浮かんだ奴らの目に、ウィンディーネは心底凍えるような剣呑な光を瞳に宿す。


彼女の正面でふいに二手に魔獣が別れた。並走していた2匹が左右に割れる。


文字通り散った。


シルフが放った風が、容赦なく振るわれる。旋回する風が軌道上の獲物をすべて薙ぎ払い、魔獣に直撃して斬り裂いた。幾重にも切り刻まれたその身体は、内臓もろとも風に運ばれて森の肥料へと化す。


ノームの鋭い一撃が地面に刺さる。直後、大地が割れ、魔獣が何匹かそれに飲み込まれた。精霊たちの連携攻撃は、まさに自然の猛威そのものだった。


精霊たちの戦いっぷりを観戦しながら、エリーゼはエルフのような人物を確認してみる。相も変わらず生きているのか死んでいるのか?わからない。


新たに群れの犠牲が現れたことでオウルベア達の動きが鈍った。こちらを警戒するように身を低くして威嚇の視線を送ってくる。しかし、奴らは今頃慎重に行動を起こそうとしてもすでに遅い。


ゆえに、ノーム、シルフ、ウンディーネはほぼ同時に魔法を放つ。


大気を穿ち、大地が揺れ、空気が爆ぜる。それは狙いたがわずに魔獣の群れが密集する地点に到着と同時に殺戮を喝采する。


大気が炸裂、大地が爆砕、空気が破裂し鮮血の花が森に咲き誇る。


終わったかな?とそう思った瞬間だった。エリーゼの背筋が凍った。


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