鬼教官の洗礼
王国軍中央基地の中にある王立騎士養成アカデミーは、王都の真ん中にあるダンジョンの地下1階層に存在する。比較的魔物は低級しか出没せず、そしてそのダンジョンは不思議と地下にあるにも関わらず大空があり、広大な大地が広がっている。入り口から10分ほど歩いて見えるのが魔物討伐と見張りを兼ねた訓練施設。現在のキラエル王国は志願兵を採っており、常に5000人以上の兵が常駐している。
「走れ。走れ。走れ。愚者だろうが賢者であろうが、王子様であろうが、ここに来たからにはただ愚直に走れ!。」
ダンジョン内に怒鳴り声が響いていた。軍施設の指導者とは基本的に鬼教官と言われている。彼ら彼女らの教育、育成は、個人の尊厳、プライド、自由意志といった感情を粉々に砕くところから始まる。
「どうした?ミルキ・ゴーンド!!お嬢様が戦場に転がり込んでも肉壁にしかならんぞ!」
「猫耳のレイニ!!貴様は獣人のくせに貧弱な体力だな。そんなので戦いなど勤まるか!」
「さすがは騎士家アンチュアといったところか。そんな優秀な貴様に追加で重りをプレゼントしてやろう。30キロだ!有難く受け取れ!!」
「エルフのエリーゼ!!澄ました顔で魔法使いってんじゃねえぞ!アンチ魔法が施された魔道具だ。きっちり自分の足で走れ!」
今回の参加者は種族問わずに男女合わせて40人。基礎を含めた体力作りに丸三ヶ月間は鬼教官のシゴキを受けることになる。走る。筋トレ。集団行動。射撃。体術・・・階級など関係なく鍛えられる。
とにかく走らされて、理不尽な連帯責任を負わされて、精神が麻痺するほどに教官から罵倒されて過ごす。一般人から軍人になるための必要な洗礼措置だ。教官の命令よりも頭が理解するより先に身体が反応できるようになるまで、ひたすら続ける。
「シルヴィ・キラエル王女様!!遅れておりますぞ!そんなざまで王族が勤まるのかな?恥ずかしくないのですかな?今なら泣いて頼めば貴様だけ緩くしてやりますぞ。」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、・・・く・・っそ・・・」
シルヴィ姫の喉から、絞り出すような声が漏れた。鬼教官の嘲弄が、彼女の王族としてのプライドを容赦なく踏みにじる。
「何か言ったかな?声が小さくって聞こえませんぞ~~~~~!!」
「・・・いえ、なんでもありません!」
シルヴィは唇を噛みしめ、全身を震わせた。
「く…屈辱だ。」
しかし、その瞳には、屈辱に打ちひしがれるだけでなく、次こそは、必ずこの理不尽を乗り越えてみせるという、燃え盛るような決意の炎が宿っていた。彼女は、王族としてのプライドを胸に、この苦痛を糧とし、自らを高めることを誓った。その姿は、傍目には苦痛に満ちていたが、その内側には、決して折れない鋼のような芯の強さが輝いていた。




