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近衛騎士の任命

市街地を抜け、広大な庭園を進んで行く馬車の中、ホテルを出発してから口数を減らす4人。無理もない。雲上人と呼ばれる至尊の存在。市居に住まうものが対面することなど先ずありえない。だからこそ緊張を無理やり隠して、見かけだけ取り繕って見せる。


やがて馬車が止まる。


「ついてまいられよ。」


護衛騎士に案内されて、4人は王宮へと踏み入っていく。王の前に出る前に最後の確認のため、侍女たちが4人の身体を検査する。危険を及ぼすものが何もないとわかると、護衛騎士たちが、奥の間の扉をゆっくりと開いていった。


「エリーゼ。ルールカ・アンチュア。ミルキ・ゴーンド。レイニ。以上4名、国王陛下の招致に応じてはせ参じました。」


そう報告するなり。ここまで先導してきた護衛騎士が下がって、国王の前に残されたのは4人の少女たちだけとなった。王の視線がプレッシャーとなって、膝まずいた彼女たちの背中を重くする。


「シルヴィ。お前の口からこの者たちの功績を。」


重く響く声が娘を呼んだ。それに応えて、臣下の列から青と白のドレスに身を包んだシルヴィ姫が進み出る。遭難の疲労はすっかりと癒えたらしく、長いオレンジ髪も元の美しさを取り戻し、その姿はさながら一凛の尊き花のようだ。


「申し上げます。父上。王都に向かう船が魔物と嵐に襲われて沈没したおりに、海へと落ちた私を救い上げた1つ目の功績。遭難の末に漂着した離島という不運に見舞われながらも絶望を退けて機転を働かせた2つ目の功績。最後には私を連れて無事帰還を果たせた功績。」


姫が述べたもろもろの功績に、王は頷き、誉れある若者たちの姿を眺めた。


「そなたらの働きによって、キラエルの尊い血を受け継ぐ娘は、余のもとに帰ってきた。余の家族を守った。これはすなわち王国を守ったことに等しい。ならば若き高潔な者たちよ。余はそなたらに報おう。面をあげよ。」


許しを受けて4人全員がおそるおそる顔を上げる。そこで彼女らは初めて、国の支配者たる人物を、間近で目にすることになった。


国王はまだ老いていなかった。三十路がらみの男盛り真っただ中だろうか。その佇まいは巨大な大木を思わせた。筋骨隆々の腕が身体が肌が、張りと艶で輝くオレンジの髪の色が心身両面の昂ぶりを感じさせる。


「エリーゼ。ルールカ・アンチュア。ミルキ・ゴーンド。レイニ。そなたら4人に、今日この時をもってシルヴィの専属近衛騎士の任を授ける。」


長い長い沈黙が降りた。王の言葉は、そう簡単に4人の頭の中にしみこんでいかなかった。


「・・・近衛騎士・・・え?」


この瞬間だけは礼も忘れて、ミルキの顔が喜びに輝いた。その隣でエリーゼとルールカが両目をむいている。その意味をわかっていないレイニはとにかく澄ました表情を浮かべていた。


耳を疑うのも無理はない。近衛騎士とは、騎士の中でも最エリートの称号。これを受けた者は、主の生命を第一に考えるが、王族以外の命令権を有しない。


王国内における身分制度下における貴族の中で、王族と姻戚関係にある有力な家柄の子弟の中で、多大な才気あふれて渙発なものが、近衛騎士になれる。他の貴族や平民が、実力に能力が共なっていたとしても、成り上がることはない。


それは大幅な給料、政治的な発言力、欲しいものが優先されて手に入れることが出来る権利。だからこそ扱いきれない責任と義務が転がり込んでくるのだ。


エリーゼとルールカは安易に喜べない。いくら第一王女を救ったからと言っても、これは明らかに過剰すぎる。ルールカの脳裏には、無人島での過酷な漂流、偵察機との遭遇、そして敵兵との死闘が鮮明に蘇っていた。確かに自分たちは姫を救った。しかし、それだけで、これほどの破格の待遇が与えられるとは、到底信じられなかった。王の言葉の裏に隠された、冷たい計算と不穏な思惑が、彼女の冒険者としての直感をざわつかせた。


エリーゼは、その博識な頭脳で、瞬時に王国の歴史と慣例を巡らせていた。平民や他種族が近衛騎士に任命される前例は皆無。この異常なまでの厚遇は、明らかに何か別の目的があることを示唆している。彼女の人間観察力は、王の表情の奥に、国民の目を欺くための巧妙な「演出」の片鱗を見抜いていた。この甘い蜜には、必ず毒が仕込まれている。そう確信し、彼女の心には深い疑念が渦巻いていた。


王との謁見が終わると、近衛騎士の心構えをながながと説明を受けた。誰もが反論を許せない中で終了し王宮から出ていく。


表では1台の馬車の前に、白と青のドレスを身にまとった姫が待ち構えていた。


「…シルヴィ姫…」


「ご苦労であった。だが、もう少し付き合ってほしい。この後私たちの帰還を祝うパーティがある。」


そう告げて、姫は一足先に馬車に乗り込んだ。その後に続いて全員が乗り込むと、すぐさま馬車が走り出す。


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