煌めく宝石が微笑む時
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「魔法の本…図書館の借りものか?」
アルフォンスの碧い瞳が鋭く射抜く。このなんでも見透かしてくる瞳がいつも苦手だ。でもいつもと様子が違う。いつもは優しく、甘く訊ねてくるのに今は無表情で。こんな冷たい表情は見たことがない。
白い冊子の本は今指名手配されているクラウドから貰ったものだ。
ーークラウド様から受け取ったものとは言わない方がよさそうね。
「わ…私のものよ。」
嘘ではない。譲り受けたものだが思わず声が震えてしまい目線を逸らすがアルフォンスは見逃してはくれなかった。
「ははっ!セレナは嘘が下手だからな。嘘だけど嘘じゃない?ふ〜ん。セレナに悪い虫が寄らないようにプレゼントでもされたんだ?」
「えっ?虫?」
「それを忠実に持ち歩いてるときた。気に入らないな。やっぱりアイツ嫌いだな。」
アルフォンスは左手を右肩に添え、目を閉じると呪文を唱えた。ほんの束の間、肩がほのかに紅く光る。
「我、陰陽の主人、癒せ。」
光が止むとアルフォンスは右肩の調子を確かめるためかグルグルと回す。
「よし。こんなものかな。」
「えっ?もう治ったの?」
ーーアルがこんなにも魔法が得意だったなんて知らなかったわ。
治癒魔法は高位魔法だ。昼間の瞬間移動も容易くない。なぜアルフォンスはこんなに使いこなせるのか?
ナルシャ王国の王族は代々魔法の適性があまりない。現に国王と第一王子は水をお湯に変えるなど多少の魔法は使えるが治癒魔法はもちろんのこと戦闘に使える代物ではない。なのにアルフォンスが使いこなすということは、
ーー努力の賜物?師匠がいる?それとも…王族より母方の血筋が強い?
セレナは頭の中にある魔法の知識を捲る。魔法は努力でなんとかなることとならないことがある。努力でテクニックは磨くことができても魔力がない者はいくら努力しても習得できない。魔力がないセレナがその例だ。また魔力量が少ない王族もそれにあたるはずだ。
それにさっきの紅い光が気になった。通常魔法を使う時は属性ごとに異なる光を発するが紅い光は珍しいのだ。
「あぁ。これぐらいはね。」
アルフォンスはセレナの前で魔法を使っても気にするそぶりもなく先程まで作業していたテーブルに腕を組んで腰掛けた。
「セレナを学校から王宮へ運ぶときは発動しなかったのにキスしようとしたら白い光に吹っ飛ばされた。なぜだと思う?」
セレナは自分の掌を見つめる。先程までは身体全体が白く光っていたがいつの間にか消えていた。
ーー魔法が使えない私がアルに攻撃した?そんなはずない。じゃあなぜ私が光っていたの?
「私は魔法が使えないしわからないわ。知識もないし。それに急にキスしようとするアルが悪いんじゃない。自業自得よ。」
「したかったんだから仕方ないだろ?」
「したかったって…」
呆れた声が出てしまい額に手を当てたがみるみるうちに手のひらが熱くなるのを感じる。男性に免疫はないがアルフォンスには心は許している。その油断も相待って急にキスされるとは思ってもみなかったのだ。今後は気をつけねばと警戒をするセレナをよそにアルフォンスは悪びれずにセレナを見つめて話を続けた。
「あと知識がないというのは嘘だ。セレナは魔法好きで知識は人並み以上にあるはずだろ?よく考えろ。」
「買い被りすぎだわ。趣味程度の知識で実践のことなんて語れないわ。」
ーーもしかしてクラウド様が神子の力を酷使したんじゃ…ずっと本を持っとくように指示したのもこれが理由?
「本当はわかってるクセにしらばくれる気か?アイツを庇うのか?」
「庇う?一体誰のこと?私を疑うなら私も今後アルのことを信用できないわ。そもそも相手に同意を得ていないのにキスしようとするなんて最低よ。しばらく顔も見たくない。」
「おい!」
カバンを持って部屋の入口に向かうセレナの肩をアルフォンスが掴む。その時、またセレナの身体が白い光に包まれる、眩しくて目を瞑るがさっきのような騒音はなく、部屋は静かなままだった。
恐る恐るゆっくり目を開くと側で肩を掴んだままのアルフォンスが微笑んでいた。瞼の隙間から覗く目と視線が合う。
「ア…ル?」
ーーアルの瞳が…紅い?
「ん?心配してくれたのか?俺には同じ手は効かないよ。アイツにやられてばかりでたまるか。」
「きゃっ?!ちょっと!」
アルフォンスはセレナを横抱きにするとベッドまで運び、ゆっくりと下ろした。
「もう!急にどうしたのよ!ってあれ?眼が…」
アルフォンスの瞳はいつもの碧眼に戻っていた。
ーーさっきのは見間違い?
「倒れた後なんだ。朝まで休んだ方がいい。今日からこの部屋がセレナの部屋だから好きに使ってくれ。家具や調度品も気に入らなければ替える。それに体調が良くなったら妃教育も受けてほしい。まぁセレナは習わなくても身についてるから確認だけかもしれないな。」
「私の部屋?妃?ちょっと!勝手にどういうことよ!私は帰るわよ!」
セレナがベッドから立とうとするとアルフォンスが前に立ちはだかり、両肩を押さえられる。また部屋全体が白く光るが何も起こらない。セレナは眩しいのを我慢してそっと見上げる。
「!!」
紅い双眼がセレナの視線と絡み合う。ルビーが燃えるように煌めく妖艶な瞳に心が奪われた。
「え…?」
暫く見つめてしまったがセレナは自力で我に返った。
「ねぇその瞳どうしたの?!さっきまで碧色だったわ。」
「ちっ、ついにバレたか。」
「バレた?って隠していたの?!どうして??」
「その質問は身内(妻)にしか答えられないんだが?」
「えっ?私たち身内(幼馴染兼親友)じゃない?」
セレナが首を傾げるとアルフォンスは企み顔で微笑む。
「ふ〜ん。可愛らしい身内(最愛の妻)ならくちづけしてもいいはずだけど?」
アルフォンスがセレナの顎を持ち上げるとまた白く光る。セレナは眩しくて目を瞑ってしまい、アルフォンスは顔を傾け唇を寄せた。セレナは離れようと押して抵抗するがびくともしない。
「んんっっ!はぁっ!や、やめて!」
「少しはじっとしろ。ムードの欠片もない…」
「離して!」「アルなんて大っ嫌い!」
セレナは強く押すとアルフォンスが後ろに倒れたのでその隙に走り出し、部屋から脱出した。
「はぁ…はぁ…」
ーーアルは追ってこないわね。
振り返って後ろを確認したが誰も追ってこない。とりあえず脱出は出来たようだ。肩で息をしながら早くこの場から離れるために早足で王宮の正面入り口まで向かうことにした。
「でもどうやって帰ればいいのか。お父様もこの時間は居ないだろうし。」
ーークラウド様…ごめんなさい。
セレナはハンカチで口を拭いながら歩き続ける。自分の気持ちはクラウドしかいないのに他の人とキスをしてしまい自分の不甲斐なさで気持ちが押しつぶされそうになる。
ーー今はそれどころじゃないわ。
自分に魔法が使えたら馬車がなくても帰れるのにと願うが叶うはずもない。
心細くておもむろにカバンの中に手を突っ込み白い本に触れた。さっきもこの本が護ってくれた。おそらくクラウドが込めてくれた力で。
ーークラウド様、力を貸して。
するとセレナの身体が白く光り、一瞬無重力になったかと思うと次の瞬間には景色が変わり、自分の慣れ親しんだ部屋のソファに着地して座っていた。
ストン
「えっ??」
ーー私、今、魔法が使えた?!
ありがとうございました^_^次も楽しみにしててください。




