愛した人との約束
読んでいただきありがとうございます。
❇︎❇︎❇︎少し遡り…昨夕の王宮
「陛下、仰せの通りフォルン公爵家当主セブルスと後継者カインの2名で参上いたしました。」
「急な呼び出しに応じてくれて感謝する。」
「本日は…私どもだけですか?」
セブルスは急遽カインを学園から呼び出し国王の執務室に連れて入室すると部屋の主人以外誰も居ないことに気づき見回した。ガイがカインを連れてくるようにと指示があったのでてっきり他の家臣がいると思っていた。これは面倒事が起こる前触れだと肌で感じ、早く切り上げる算段を考えつつ話を続けた。
「まぁ2人ともソファに掛けてゆっくり話をしようじゃないか。」
「私どもはこのままで結構です。実は先約があり、急いでおります。」
「ほぅ…それは国王より大切な約束か?」
「……」
「セブルス、楽にいこう。」
国王はカウチに座り、腕を組むと微笑んだ。幼馴染であるセブルスは諦めて肩の力を抜き、向かいのソファへカインと共に腰掛けた。
「では、…ガイ、また面倒なことを企んでいるな?カインもいるんだ。手柔らかに頼む。」
「面倒…か。まぁそう感じられるかもしれないがいずれ国王の祖父になるかもしれないんだぞ?」
「?!…くそ、まだ諦めていなかったのか。」
セブルスは気にせずに悪態をつくがガイの表情は柔らかく、余計に口角を上げ深い笑みを作った。
「話は立太子の式典についてだ。10日後に行えるように準備を進めてくれ。その時に婚約発表もして結婚式は半年後とする。相手は察しの通りセレナ嬢を推すつもりだ。」
「はぁ…立太子の式典を10日後とは急すぎだ。婚約発表をするなら尚更、招待の規模を広くする必要があるのに連絡が間に合わないじゃないか。あと念のためだが皇太子にはマルクス殿下を?」
「いや、アルフォンスを立てる。マルクスには話が通じない。その点アルフォンスには話も通じ、王の素質もあるから心配もない。」
セブルスの眉間にシワが寄る。まさかとは思っていたがここにきて次男であるアルフォンスを立てるとは。家臣や貴族、国民にどう説明すべきか頭を抱え、ため息が止まらない。
「はぁ…話が多方面に飛び過ぎだ。そこにセレナを巻き込みたくない。妃にはやれん。断る。」
「拒否は認めん。」
「公爵家から王妃を出すつもりはない。それにセレナには慕っている者がいるらしい。父親としてはその気持ちを尊重してやりたい。だから丁重に断る。」
「慕っている相手だと?!クラウドじゃないだろうな…じゃあエルトニア帝国に嫁がせないと約束はできるか?この前求婚してきたのはクラウドのはずだ。まだ諦めていないに決まっている。クラウドに娶られる前にセレナ嬢がこちらの王族と婚約すれば向こうは手出しできない。」
ダン!!!ーーー
セブルスが前のテーブルに前のめりに両手を突き、目が座った表情で話しを切り出した。
「おい。セレナをエルトニア帝国に嫁がせないためにアルフォンス殿下と結婚させたいのか?!笑わせる。昨日の書簡といい、エルトニア帝国に何か弱みを握られているのか?情けない。」
昨夜、クラウドがガイに宛てた書簡に13年前の約束を守らなければこの国はエルトニアのものになると記されていた。いつ開戦してもおかしくない内容だ。その約束とはなんなのか1日考えてみてもわからなかった。
ーーやはりセレナにこだわるということは神子に関係しているのか?
「セレナが慕っている相手はおそらくクラウド大公殿下だろうとカインと話していた。2人は友人関係と確認が取れている。親として娘が幸せなら反対はしない。」
「それならこちらも一緒だ。アルフォンスは幼い頃からセレナ嬢の事を慕っていたから大喜びで結婚に乗り気だ。幼馴染で友人以上と思うが?」
「セレナはアルフォンス殿下への気持ちはないはずだ。マルクス殿下との結婚もすぐに断ったのもそれが理由だ。諦めろ。」
ーーマリアとの約束だ。
セブルスは亡き妻マリアと誓いを立てていた。
"ナルシャ王国にセレナを渡さないで。"
神子の力は王族が持つべきではない力だと妻マリアが死ぬ直前まで訴えていた。ましてや自分の愛娘を苦しめることはあってはならない。この力は誰にも知られない方がいい。
セブルスはマリアが光の神子と知らずに夫婦になった。でもある時、神子の力を使って倒れたことがきっかけで真相を知った。単なる神話と思ってすぐには信じられなかったが当時は珍しく恋愛結婚をしたセブルスは自分が愛した人の言うことを信じるしか頭になかった。
マリアは幼い頃から病弱で身体に負担がかからないように神子の力を使わない生活をしていた。でもある時に神子の力を尽力しすぎたせいで倒れてしまい寝たきり状態になった。休めば治ると思われていたが原因がわからずに回復せず悪化する一方だった。神子は己の命が尽きる前に神子の力を子供に継ぐ必要があるらしい。長男であるカインに継がせることは国防に利用されかねないと考え、幼いセレナへ継ぐしかなかった。
でもなぜナルシャ王国に渡すなと言っていたのだろうか?エルトニア帝国のことは言っていなかった。それにあの時、神子の力を使った理由もなんだったのか?その大事な部分だけ思い出そうとすると頭痛がする。意図的に記憶が抜け落ちている気がした。
「娘の気持ちを尊重するというが貴族の結婚とはそういうものだろう?気持ちは結婚した後に追いつくものだ。」
「その意見には大いに賛成派だが我が娘に関しては娘の気持ちを優先する。」
「親バカというやつか?面白い。言いそびれていたがアルフォンスが皇太子になった暁には側近をカイン小公爵に就いてもらう。昔から弟の様に可愛がってくれていたはずだ。これからもよろしく頼む。」
カインは急な流れ弾に交わす言葉が見つからない。この空気だと肯定してはいけないのは分かっているが上手い言葉が見つからない。
「陛下、申し訳ございませんが現状では同意しかねます。」
「なぜだ?将来は宰相になる心づもりはあるのだろう?皇太子の補佐になるのは当然の流れだ。」
確かに通常の流れではある。フォルン公爵家は代々、宰相を務めている家柄だ。皇太子の側近で経験を積むことで国の内情を知り、宰相になることが近道だ。
「陛下のご命令に背く発言で大変申し上げにくいのですが主人は己の目で決めたいのが信条でして。」
「ほぅ言うようになったな。アルフォンスでは役不足か?ははは流石セブルスの息子。」
カインはソファから立ち上がり頭を下げて動けない。ガイがそのカインの肩をそっと叩いた。
「頭を下げる必要はない。その心意気は気に入った。国王に怯まずに意見するとは宰相向きだな。」
「痛み入ります。」
「でも妹が王妃となり補佐を兄がする。素晴らしい光景とは思わないか?」
ガイは両手を広げてカインを説得するがカインは目尻を下げ、偽りのない笑みで返答した。
「陛下、素晴らしいお話で恐縮ですが我が妹は割となんでも1人でこなしてしまう方でして兄の助けは必要ないと言われそうです。」
「…兄バカもいるのか。」
呆れたガイはカウチに腕を組んだ身体を預け、目をつむり長考した。その様子をフォルン親子が暫くは眺めていたが意見を変えるつもりはない。
「陛下、話は以上ですね?私どもはこれで失礼いたします。」
「先程話した内容で式典の準備は進めておけ。」
「はい。立太子の式典準備に取り掛かりますが婚約発表は時期尚早ということで宜しくお願い…」
「セブルス!!これは王命だ!逃れられないぞ!」
「では王命に逆らう私は宰相を辞しましょう。爵位も取り上げられますか?」
ーー親父…こんなこと言って大丈夫なのか?
カインは心配な面持ちで隣で見守った。セブルスは国王から視線を逸らさない。ガイは肩を落とし、深い溜め息をつきながら窓の外へ目を背けた。




