眠りへの誘い
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「セレナは一体どこに着地するんだか?」
「着地?」
「だってこの前までクラウド様と噂になってたのに今日になってアルフォンス殿下と仲睦まじく登校だなんて・・・ねぇ?」
「・・・私もどうかしてると思うわ。」
セレナは学食のカフェテリアでミモザと昼食を食べていたが食欲がわかない。頭が重くてテーブルに肘をつき、顎を支えて目を瞑っていた。ここはパーテーションで周りの視線は遮られており、少々行儀悪くても問題ない。
「クラウド様が見たらヤキモチを焼くんじゃない?モテる女はつらいわね?」
ミモザは茶々を入れながら食事をしていた。セレナはそんなニヤついたミモザの顔を視界に入れたくなくて目を瞑っていた。
「そんなことにはならないわ。残念でした。」
「きっとなるわよ〜。こんな時に限ってお休みだから反応が見れないのが残念だわ。どうしたのかしらね?」
「クラウド様はお忙しい方だから今まで学校に来れていただけでもすごいことだと思うわ。」
セレナはクラウドが休んでいる理由を顔色に出さないようにして当たり障りのないように話をする。それでも心中は心配で仕方がなくてため息をついた。
「まぁね。大公になったからこのまま来ないなら残念だわ。目の保養だったのに。セレナと良い仲になってくれればもっとお近づきになれたのにな。」
ミモザの小言を聞きながらセレナは考え事を繰り返し、ため息をついた。
ーー今朝アルはクラウド様が昨夜から行方不明だと知っていた。詳細を知っているなんてきっとごく一部だわ。それだけ陛下からも信頼されているのかもしれない。王太子になるのは事実なのね。
「ねぇセレナ聞いてる?…きゃっ!」
「えっ?ミモザ?」
ミモザの声に驚き、目を開くとテーブル向かいに座っているミモザが両手で口元を押さえ、セレナの頭上を見て顔を赤らめていた。自分の後ろに誰かいる?不審に思い、振り返り見上げると、
「セレナは何食べてるの?スープだけ?」
「アル?どうしてここに?」
そこにはキラキラ眩しい王子が笑顔でセレナを見下ろしていた。
「セレナが前にここでランチしてるの見かけたから今日もいるかな?って見にきたんだ。朝元気なかったから心配でね。見に来て正解だな。スープだけなんてダメだ。」
アルフォンスはセレナの隣に座るとトレーからいくつかの皿を王子自らセレナの前に並べ出した。
「セレナはチーズ入りオムレツが好きだろ?あとはフルーツならりんごが好きだった。」
「あ…ありがとう。よく覚えてるわね。」
「セレナのことならなんでも覚えておきたかったからね。役に立ってよかった。」
アルフォンスが満足そうに満面の笑みで返事をするとテーブル向かいにいるミモザが目眩を起こしそうになっていたが恭しく、
「あの…殿下、お話ししても?」
「ん?確かダリー侯爵のご令嬢かな?気を遣わずに話してくれ。」
「はい。私のことをお見知りおき下さりありがとうございます。改めまして、ダリー家のミモザと申します。座ったままのご挨拶となり申し訳ございません。殿下は…セレナのことをどう想っていらっしゃるのでしょうか?拝見していますと慈愛が込もっていますし、セレナの親友として安心して殿下にお任せして宜しいのでしょうか?」
「ちょっ!ミモザ!何を聞いてるのよ!!」
ーーさっきまでクラウド様推しだったんじゃないの?!
「察しの通りずっと好きだったんだ。今までは兄上との関係があったから諦めていたが近日中に私と婚約を発表する予定になったからね。これからは堂々とセレナの隣にいても良いと思うと嬉しいよ。」
「ちょっ!!ア、アル?!」
セレナはアルフォンスの腕を掴むが既に遅し。
「きゃぁぁ!それはめでたいですわ!おめでとうございます!セレナもおめでとう!私は祝福するわよ!」
ミモザは立ち上がりその場でジャンプしだした。テンション爆上がりだ。
「この話は内密に。セレナはこんなに祝福してくれる友人がいて幸せだな。」
「はぁ〜私…もう教室に戻るわ。せっかく用意してくれたのに食べられなくてごめんなさい。あっ…」
「おい!」
セレナはいつも学校内で持ち歩く小さなバッグを持ち、教室に戻ろうとしたが立った瞬間に倒れそうになった。でもアルフォンスが身体を支えてくれたおかげで倒れずに済んだ。昨日から寝ておらず、体力的にも精神的にも負担がかかり、疲れが出たようだ。
「ご、ごめんなさい。もう大丈夫。ありがとう。平気。」
「どこが平気なんだよ!顔色も悪いし立っているのもやっとじゃないか!ダリー嬢、すまないがセレナを医務室に連れて行く。後はお願いできるかな?」
「ご心配には及びません。セレナをよろしくお願い致します。」
「ありがとう。よし、黙ってじっとしてくれよ。」
「だ、大丈夫だから!降ろして!自分で歩けるわ!」
アルフォンスはセレナを横抱きにするとパーテーションの外へ早足に出て行く。近くにいた生徒から視線が注がれるが気にしてはいられない。でも噂の2人がこの場にいることで噂は本当だったのかと尾びれがつくだろう。
「アル、降ろして。みんなが見てる。」
「そんなに嫌なら王宮に飛ぶ。我、陰陽の主人、誘え。」
「えっ?!」
目の前が急に眩しくなり目を開けていられなくなった。一瞬、全身が無重力のような感覚にさらされる。
「よっと。」
アルフォンスはそつなく着地するとそこは薬品のにおいがする室内だった。
「で、殿下??」
「あっ急にすまない。すぐにセレナを診てくれ。」
ーーここは…王宮?アルは魔法で移動したの?
セレナはアルフォンスに抱きかかえられたまま部屋を見回した。見覚えのある壁紙に消毒液のにおい。
「ん?これはこれは公女様!久しいですな。おや?顔色が優れませんねぇ。」
「ダリー先生…?アル、降ろして。ご挨拶しなきゃ」
「知らない相手じゃないんだ。無礼講で構わない。なっ?ダリー」
「その通りですな。病人は病人らしくなさってくださいな。では殿下、公女様をこちらのベッドへ横に。」
ダリー伯爵は元々侯爵家の出で、級友ミモザの叔父だ。次男故に家督は継がなかったものの医療の知識が豊富で王宮の医務局長を任されている。本人は断ったらしいがこれまでの数々の功績から一代限りの爵位を賜ったらしい。
セレナにとっては小さな頃より王宮で遊んでいたのでよく擦り傷や急な発熱時に診てもらったこともあり慣れ親しんだ遠い親戚のような間柄だ。暫くは王宮の出入りをしていなかったため会うのは久しぶりでお互いに歳は重ねたようだ。アルフォンスは幼少期に病弱だったことから主治医として診てもらっていたこともありこんなにも親しいわけだ。
「暫く見ない間に立派なレディになられて。お会いできて光栄ですな。でも元気な公女様にお会いしたかったですがね。」
セレナはベッドのクッションに身を預け、上半身を起こした状態でダリーに従っていた。ダリーは話しながらテキパキと触診を始める。
「もうアルは見ないでここから出てよ。」
「確かに、淑女の肌を見せるわけにはいきませんからな。殿下はお引き取りを。」
「今更だな。それに俺らは結婚するんだ。構わないだろ?」
「なんと!それは誠か?!」
「アル!!あっ…」
ベッドの上でふらつくと手をつく前に隣に立っていたアルフォンスが身体を支えた。
「ったく。危ない。」
「おやおや血圧が低いようですな。熱が少しあるか。まぁすぐ終わります。殿下はそのまま支えててください。」
「言われなくても。」
「アル…私」
「黙って目を瞑ってろ。」
ーーアルの匂いが落ち着く。
あんなに病弱で華奢だったアルフォンスがこんなに逞しくて支えになるなんて思っていなかった。隣に寄り添う様に腰掛けたアルフォンスから漂うシトラスの様な香りがとても心地よく、セレナは気付けば眠りについていた。
「余程眠たかったのでしょう。寝不足による体調不良で血圧も低いので安静にすればすぐ良くなりますよ。」
「そうか。安心した。それなら今日は王宮で休ませよう。でも休ませるにはここのベッドは硬い。部屋を用意しろ。あと宰相にこのことを連絡しろ。」
部屋の近くに駆けつけていた騎士や従事たちが一斉に支度のために走り出す。アルフォンスはセレナを寝かせて頭を撫でた。
「いや…今日から…だ。」
「ク…(ラウドさ…)ま」




