厚い雲が隠すもの
お待たせしましたm(_ _)m
ーー俺が終わらせるんだ。
そっと目を開き微笑みながらセレナの頭を撫でた。その手を背中へ、もう片方の手を膝下に添えると横に抱えて立ち上がりベランダへ出た。真上にある満月が今にも厚い雲で隠れそうで辺りが少しずつ暗くなっていく。公爵家は街より小高い丘の上にあり暗闇に溶けていく街を眺めることが出来た。溜めていた息を一気に吐く。
「今はまだ詳しく話せないが・・・誰かに与えられた食べ物には気をつけてほしい。」
「えっ?毒ってこと?・・・もしかして?!」
「あぁ、さっき話した生死を彷徨った理由が神子の力が効かない毒を飲まされたからなんだ。当時はまだ5歳で神子の力を伝承されていなかったから闇の神子である母上の力で毒を取り除こうとしたらしいが神子の力を以ってしても治癒することが出来ずに死にかけて光の神子であるマリア様に助けを求めたんだ。それでも治らなかった。」
「そんな・・・一体誰がそんなこと!」
「まぁ王族ならよくあることだよ。気をつけていたのに起こってしまったんだ。」
「奴らって誰のことなの?正体はわかっているのよね?教えてくれた方が自分を護れるわ。」
ーー誰がクラウド様を殺そうとしたの?それに奴らって複数?目的って?
セレナは問いかけ、クラウドの瞳をずっと見つめてそらさなかった。
「目が据わって怖いな。いつものセレナはどこに行ったのかな?」
「話を逸らさないで。私は本気よ。」
抱えられているセレナは目を逸らさず今でも近い顔をクラウドの襟を掴みもっと近づけて睨んでみせた。自分は本気だ。いつもは優しいけど今日は違うと示したい。
「怒ったセレナも可愛いけど今は時間がないんだ。許してくれ。」
2人の唇が一瞬重なるとクラウドは満足気に目を細め、そっとセレナを下ろした。セレナは慌てて口元を両手で押さえながらクラウドの正面に立つ。顔は言わずもがな、りんごのようになっていた。
「ど、ど!どうしていつも急なの!」
「えっ?顔を近づけてくれたから良いと思ったんだけど・・・今度からは聞いてからする。」
「もう!良くないしそういうことじゃない!」
「ははは・・・やっぱりセレナのこと好きだな。」
「?!」
「ずっとこうやって側にいたいのにもう行かないと。タイムリミットだ。とにかく口にするものには気をつけて。」
「えっ?気をつけるって私は王族でもないのに毒を盛られるなんてこと・・・」
「セレナが神子ということを奴らが気づいて何かしてくる可能性が高い。念のために気をつけよう。神子の治癒力は高いのにその毒はなぜか治せなかった。でも昔のようにセレナの力が使えるなら・・・とにかく解術師を急いで探す。連れて来るから待っていて。」
「今度はいつ会えるの?」
セレナはクラウドの服を掴んで問いかける。自分は待つしか出来ないのか?何か出来ることはないのだろうか。
「すぐに戻ってくる。だからセレナは笑って待っていて欲しいな。あとは・・・」
「あとは?」
「俺のために指一本誰にも触れさせないように。」
クラウドが真顔でセレナの両肩を掴む。
「へっ?」
「まぁセレナはモテるから・・・術式を組むか?いや第二王子にそれはやりすぎか?でも油断できないな。とりあえずはあの白い本があれば・・・威力が弱いか。」
クラウドは独りごちる。セレナは唖然としながら至近距離で眺めていると今は時間がないことに気づいた。
「ク、クラウド様??急がないと・・・ね?」
「あっ・・・」
クラウドは左手で口元を押さえ赤面になるのを誤魔化すために笑顔で話を続けた。
「あ、あの白い本をいつも必ず持っていて欲しい。」
「わかったわ。それなら私でも出来るわね。」
「よし!じゃあそろそろ行く。セレナ。」
「はい?」
「必ず迎えにくるから待っていて。愛している。」
クラウドはセレナの頭頂にそっと口づけを落とした。
「!!」
ーー私もお慕いしています。
クラウドの過去や正体を知っても自分の気持ちに変わりはない。早く伝えなきゃ。
「わ・た・・」
「セレナの気持ちは神子の力や記憶が戻って落ち着いたら聞かせて?」
クラウドはセレナから離れると右手を自分の胸に当て、術を唱える。
「クラウド様、ケガしないで戻ってきて。祈って待ってるから。」
「ありがとう。」
クラウドの全身が陽炎のようにゆらりと揺れた次の瞬間、その場から姿は消えていた。
「消えた・・・」
ーーなんだか闇に溶けたようだったわ。
夜空に浮かんでいた満月は雲に覆われ姿が見えなくなり街に深い闇を落としていた。
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