新たな王太子
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翌日、よく眠れたセレナは学校に行くために馬車に乗りこみ、御者が扉を閉めようとした時だった。
「よっ!昨日はよく眠れたか?」
「カイン?」
カインが勢いよく馬車に乗り込んでセレナの前に座った。カインが合図を送ると御者は扉を閉めて馬車が動き出した。
「急にどうしたの?」
いつもなら出発時間が異なるため別々の馬車で通学している。そんなカインが急に乗ってきたので困惑した。
「まぁこんな日もいいかなって。昨日は疲れただろ?でもまぁ元気そうだな。」
カインは昨夜の夜会のことで兄ながら妹が少し心配で同じ馬車に乗り込んだのだが。
「おかげさまで。あれからお父様と帰りは遅かったの?」
「いや、割と早かった。結局クラウドはほとんど話してくれなかったんだ。自分が第一王子ということしか教えてくれなかったから謎だらけだ。」
ーー私にならいろいろ話してくれる?それに過去の話も聞きたい。自分の気持ちも・・・伝えたい。
「クラウド様は私のこと・・・」
「あぁ、あれは本気だな。詳しくは聞けなかったがセレナに惚れてるのはよくわかった。まぁあのマルクスよりよっぽど良いんじゃないか?それにクラウドが義弟ってのも悪くない。兄ちゃんは応援してるぞ〜」
「バカ兄・・・」
赤くなる顔を手で仰ぎながらカインを睨む。でもまんざらでもない妹を見てカインは内心嬉しく思った。
「そうかそうか、嬉しいのか。」
馬車が止まったので学校に着いたのだとわかり先にカインが降りると誰かが近づいてきた。
「あれ?カインさん?この馬車ってセレナのじゃ・・・カインさんおはようございます。」
「んん?アルか?」
校門前で金髪碧眼で後ろ髪を三つ編みにしたナルシャ王国の第二王子であるアルフォンスがセレナの馬車を出迎えていたのだ。少し垂れ目である瞳を細めてカインへ挨拶をするとセレナが降りてくるのがわかったようですぐさま駆け寄り、手を差し伸べた。
「おはよう、セレナ」
「えっ?アルがどうしてここに?」
セレナは手を借りて馬車から降りるとアルフォンスと並び校舎に向かった。アルフォンスとは久々に会ったが元気そうだ。小さな頃一緒に遊んだ幼馴染という仲で1学年年下(厳密に言うと2ヶ月遅れの生まれ)だから気兼ねなく接することができる。
「急にごめん。セレナと話がしたくて待ってたんだ。でもカインさんもいるとは思ってなくて・・・」
「おい、俺が邪魔ってことか。」
「はい。」
アルフォンスがキッパリと本物の王子様スマイルで答えカインへ牽制するとセレナの手を引き、足取り早くカインと距離を広げた。
「じゃあカインさん、またね。セレナこっちだ。」
「待って!そんなに速いと転けちゃう。」
カインは1人取り残され、2人が校舎に入るのを見届けた。
「アルがセレナにわざわざ接触してくるなんて・・・なんかあったな。」
今日の次期公爵も勘が鋭かった。
❇︎❇︎❇︎
校舎の裏庭まで来るとアルフォンスは木陰に行き、セレナをいきなり腕の中に閉じ込めた。
「アル?どうしたの?」
「はぁ〜・・・ちょっとぐらい驚いてほしかったな。」
「えっ?あっでも誰かに見られたら困るのはアルよ?もうすぐ成人になるんだしお妃が決まる前で大事な時期よ。だから離して。」
「ダメだよ。やっと捕まえたんだから。」
さらに力を込めて抱き締めるとアルフォンスはセレナに爆弾を落とした。
「俺たちの婚約が決まったよ。発表は近日中にされるって。」
「なんですって?!」
「あと今日から王太子は俺だから。」
「えっ・・・マルクス様は?」
「ただの第一王子になったよ。今後は父上の補佐をしてゆくゆくは俺の補佐だ。兄上は自業自得さ。勉強もしないし王太子なのに勝手に恋人まで作っちゃうんだから。」
前々から第二王子であるアルフォンスを王に推す声は多かった。幼少の頃こそ病気がちだったが今では回復しており武術まで嗜んでいる。帝王学も学び、成績も優秀、性格温厚、言うことなし。でもそれが現実になるなんて。
「王太子になられおめでとうございますと丁寧に言うべきかしら?」
「う〜ん、ありがとうと言うべきかな?兄上が王になって俺は補佐として良い国を築きたかったけど逆になったんだ。みんなをがっかりさせない様に全力を尽くすよ。」
ーーアルならきっと賢王になってナルシャ王国を繁栄させてくれそうだわ。
「でも急だわ。私とアルが結婚だなんて今まで考えたことないし・・・」
「はっきり言うね。まぁ貴族の結婚ってそんなものと思うよ?でも考えたことないってちょっと残念だな。俺はずっとセレナのこと好きだったし願いが叶うと思ったら嬉しくて早く会いたかった。」
「好きだった?アルが私を?」
「うん。セレナは兄上と結婚するんだと聞かされて育ったからね。我慢するしかなかったから辛くて会わないようにしてたし。でも昨日急に父上からセレナとの婚約と王太子になることを言われて驚いたよ。」
アルフォンスはセレナの頭を撫でると満足そうに微笑んだ。
「今まで学んできたことが無駄にならなくてよかった。立派な王にはなれないかもしれないけどもっと勉強頑張るよ。それにセレナとならいい国を築けると思うんだ。楽しみだよ。」
アルフォンスはセレナにとっては弟のような存在でまさか夫婦になるとは想像もしていなかった相手だ。でも一緒に居ても楽だし嫌いではない。どちらかと言うと好きな方だ。前のセレナだったら幸せになれただろう。でも今は違う。
「アル、ごめんなさい。私はその気持ちには応えられない。」
セレナはアルフォンスから目線を逸らすと俯き頭の中を整理していた。今までアルフォンスのことを異性として接したことがないのだ。小さな頃は病気がちなアルフォンスのために部屋で一緒に本を読んだり人形で遊んで疲れたら同じ布団で昼寝もした。成長するにつれて庭で手を繋いで散歩したり、時にはこっそり木登りをして見つかり一緒に怒られたものだ。いつも弟のように思っていた。でもいつからこんなに背が高かったんだろう?こんなに力は強かった?少年だと思っていたアルフォンスに疑問ばかりが募る。この5年ほどは学生になったこともあり、勉強や行事で時間がなくて遊べなかったし会っても挨拶程度だったのだ。
「気持ちは後からついてくるものだよ。それに待つ事には慣れてるから大丈夫。」
アルフォンスはセレナの頭を撫でると頭頂に唇を落とした。
「やっと捕まえたんだから離さない。」
「アル・・・」
「だからもう少し俺のこと男として見てね。もう弟・・・じゃないよ。俺はセレナのことずっと姉とは思っていなかったんだから。」
アルフォンスにセレナの考えはお見通しだったようだ。セレナは急に目の前の青年を意識してしまい顔が熱くなる。
「からかわないで。アルは私が困るのを見て面白がってるだけでしょ?婚約だって陛下の気まぐれよね?本気なの?マルクス様の次にアルに代えるなんて冗談もここまでくると笑っちゃう。さぁ授業が始まっちゃうわ。そろそろ行きましょ?」
セレナはアルフォンスの胸を両掌で押し、教室へ向かおうと身体を翻した。
「からかってなんかいない!俺は本気だ!」
アルフォンスはセレナの手首を掴むと引き寄せ、顔を近づけた。
「ちょっと!!アル?!」
「セレナは隙があり過ぎるよ。俺はやきもち焼きだから気をつけてね。」
額に唇を落とすとアルフォンスは先に校舎へ入って行った。
セレナは一気に全身が熱くなり動けず、その場にしゃがんでしまった。
アルフォンスと婚約なんて誰が予想出来ただろうか。今までの自分なら誰と結婚しようと公爵令嬢として仕方がないと諦められただろう。その為に王妃教育も学び、淑女としての嗜みも身につけるよう育てられた。でも昨夜クラウドから告白され、自分の気持ちに気がついてしまった。このままではクラウドへ気持ちすら伝えることが出来ないかもしれない。
ーー早くクラウド様に会って伝えたい。彼は喜んでくれるだろうか。
1限目の授業を知らせるチャイムが鳴ってしまい慌てて立ち上がり、教室へ走り出した。教室にはもうクラウドは来ているだろうか。
でもその日クラウドは学校に現れなかった。
少々いつもより長い話になってしまいました(^_^;)読んでいただきありがとうございました。




