第二十七話 転生したら異世界最強になれるって本当ですか? 魔王城に響く絶叫
サキュバスが装置の側面に回り込んで、そこに隠れたボタンを見つけたらしいが、その様子を見て慌てて蚊ワイトが叫んだ。しかし、叫んだといっても、そこは蚊の鳴く声である。俺の耳元には微かに届いたが、遠く離れた装置の横にいるサキュバスまでその声が届く筈もない。
「うーん、何のボタンかわかりませんが、・・・とりあえず押してみましょう。ぽちっと」
「サキュバス、ちょっと待つんだ!」
俺はワイトの慌てようを見て、すぐにサキュバスを制止しようと試みたが遅かったようだ。直後、転生装置はガガガッと振動したかと思うと、ウーンと脱力感のある唸りをあげる。なんだろう? 大量の魔力が装置から天井に向かって吹きあがっているのを感じる。
「ああ、何ということでございましょう・・・」
蚊ワイトは落胆したような声色をあげた。
「何が起こったのだ? 装置から魔力が抜け出ていった感じだったが」
「御意にございます。あのボタンは転生装置の非常停止ボタンでございまして、停止と同時に装置稼働に必要な魔力を全て排出する仕組みになっているのでございます。これは困ったことになりましてございますな」
稼働に必要な魔力を全て排出? それってもしかして・・・。
「まさか転生装置を動かせなくなったのか?」
「そのまさかでございます。しかしながら、すぐには動かせないということでございまして、また魔力を装置内にため込めば動かせるのでございます。ただ、稼働可能な量の魔力をため込むのに少々時間がかかるのでございます」
「少々とは具体的にどのくらい時間がかかるのだ?」
「そうでございますね。だいたい一週間くらいはかかるかと。私もあと一週間はこの蚊の体のままということでございます。とほほ」
一週間か、なかなかに長いな。まあ、しかし、問題は無さそうだ。
「ワイトよ、運が良いことに今回の転生装置での実験結果に不満を言う者は、転生後の魔獣の中にはいなかった。もしかしたら、後に転生前に戻して欲しいと心変わりする者もあるかもしれんが、おそらく一週間くらいなら待てるであろう」
「左様にございますか。それならば、心配はございませんな」
「お前にはしばらくの間は不自由な思いをしてもらうことになるだろうが、その体になったのはお前のミスが原因だとも言えるだろう? それならば、悪いが我慢してもらうしかないな」
ワイトは点検中の装置の誤動作で蚊の体に転生したのだと言っていた。その誤動作とやらが、仮に何かの偶然が重なって起こっていたのだとしても、この装置の開発者はワイトだ。その責は当人にあると言えるだろう。
「御意にございます。仕方がありませんな、しばらくは城内の者に普通の蚊と間違われて叩き潰されないように用心しなくてはなりません。まあ、蚊になっても私のアンデッドの特性は残っていますので、潰されたとしても元には戻れるのでございますが」
蚊ワイトが諦めたような顔で笑っている。いや、ほんとは小さすぎて表情などはよくわからんが、そんな気がした。
「魔王様! 大変です!」
突如、サキュバスが装置の横から大きな声をあげた。
「なんだっ?」
「転生装置が完全に停止してしまったようです! 私には何故こうなったのか全く見当もつきません!」
サキュバス、お前、自分ではよくわからないボタンをさっき間違いなく意図的に押したよな? はあ・・・、まあいいだろう。緊急停止ボタンだったのだから、壊れたわけではないからな。
「ところで魔王様っ、さっきから何を独り言を言っているんですかーっ?」
ああ、そうだな、あっちからはそう見えるよな。
「気にするな、何でもないっ。サキュバス、とりあえず、こっちに戻ってこいっ」
「あ、はーい、魔王様ーっ」
サキュバスは装置の横から小走りで俺の座る玉座の近くに戻ってきた。
「サキュバスよ。俺は今日はもうなんだか疲れてしまった。寝室に帰って一人でゆっくりすることにするよ」
「え? もうですか? それは私としては残念ですが、でも、お疲れなのでしたら仕方がないですね」
「ああ、ワイトも見つかったことだし、転生装置の片づけは明日でもよかろう。お前も後は好きにしろ」
「へ? ワイトの居場所がわかったのですか?」
サキュバスはまだ蚊ワイトの存在に気付いていない。面倒だが、このことについては今説明しておくべきだろう。でないと、サキュバスが蚊ワイトを叩き潰してしまうかもしれない。その説明だけ済ませたら、もう部屋に帰って休もう。
・・・ん? 何か忘れているような。
「なあ、サキュバス。転生後の体に不満を言う者はいなかったと思うのだが?」
「えっ? あー・・・、はい、転生後の体に不満を言う者はいませんでした。間違いありません!」
「そうか、それならいいんだ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぎゃああああああああ!! ウッ、ウチの顔がああああああっ!?」
魔王城内の隅々にまで、エルフの絶叫が響き渡ったのは翌朝のことだった。
この章はこれで終わりです。次章からは、また別の話になります。
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