第二十六話 転生したら異世界最強になれるって本当ですか? 蚊の鳴くような声?
「魔王様、ここでございます。気付いてくださいませ」
やはり呼ばれている。俺はその呼び声はどうも耳元で聞こえているような気がして、そちらに顔を向けた。すると、やっと呼び声の正体を発見した。そして、俺は間違いに気付く。俺を呼ぶのは蚊の鳴くような声ではなく、蚊の鳴く声そのものだったのだということに。そう、今、俺の目の前を飛んでいる一匹の小さな蚊が俺を呼んでいたのだ。
「蚊が俺を呼んでいる?」
「おおっ、やっと気付いていただけましたか。さすがは魔王様でございます」
間違いない、蚊が俺に話しかけている。うーん、これはどういうことだろうか? 俺に話をすることの出来る蚊の知り合いなどはいない筈なのだが・・・。 ん? しかし、この蚊の声と口調には聞き覚えがあるな。さて誰だったか・・・。
「魔王様、私にございます。ワイトにございます」
「え!? お前、ワイトなのか?」
そうか、聞き覚えのある声だとは思ったが、ワイトだったか。確かにこの蚊の声は、か細く聞き取りにくくはなっているがワイトのものだ。
「御意にございます、魔王様。こんな姿になってしまいましたが、確かにワイトでございます」
「これは驚いたな。で、どうしてそんな蚊の姿になってしまっているのだ?」
「それが、お恥ずかしい話になるのでございますが・・・」
「何があったのだ? 話してみろ」
俺が促すと、ワイトがこれまでのいきさつを語り始めた。
「今朝方、私の念願であった魔物転生装置を徹夜で完成させたのでございます。そこで、喜び勇んで早速サキュバス様に装置完成の連絡を入れたのでございますが、その後になって、もう一度、装置の最終点検をしたくなりまして、それを実施したのでございます」
「ふむ、サキュバスから聞いた話だと、連絡を受けた後にお前の研究室に向かったが、すでにそこにお前はいなかったと」
「それがでございますね、魔王様。サキュバス様が研究室に来られた時、私はそこにいたのでございます」
「どういうことだ?」
「実は、私が転生装置の最終点検中に装置が誤作動してしまいまして、私はその時、転生前容器の片側に入って作業をしていましたので、少し動揺したのでございます。しかしながら、もう片側の容器に誰も入っていなければ、何も起こりませんから杞憂であろうとすぐに思い直したのでございます。ところが、ふたを開けてみればこの有様でございます」
「む、なるほどそういうことか。もう片側の転生前容器の中に蚊が紛れ込んでいたというわけだな」
「おお、ご明察にございます、魔王様。私が蚊の体に転生した直後にサキュバス様が研究室に現れたので、私は何度もサキュバス様に呼びかけたのでございますが、この小さな体と声に全く気付いてもらえず、装置だけを持っていかれてしまわれたのでございます」
あー・・・、サキュバス、気付いてやれなかったか。ワイトの呼びかけを無視して鼻歌交じりに転生装置だけを運び去るサキュバスの姿が易々と思い浮かべられる。いや、まあ、今の小さなワイトの姿だったなら仕方のないことか。
「それから、小さな体で城内を飛び回り、やっとのことでこの玉座の間に辿り着いたのでございます。しかし、やはりなかなか気づいてもらえなかったのでございますが、先ほど魔王様にお気付きになっていただけまして、このワイト、やっと胸を撫でおろす思いにございます。魔王様、ありがとうございます」
「ああ、気付けて良かったよ、ワイト。丁度よかった、どうも転生装置が動かなくなったようなのだ。お前が見てくれれば、すぐに動かせるだろう」
「御意にございます。このワイトにお任せくださいませ」
ひとしきりワイトと話をした後、俺は転生装置の方へ注意を向けた。そこには、未だに装置を前に悪戦苦闘しているサキュバスの姿があった。彼女は俺と蚊ワイトのやり取りなどは全く気付いていない様子だった。
「こうかなあ? いや、たぶんこうなんじゃ・・・。 ん!? こんな隠れたところに真っ赤なボタンがありますね」
「あ、サキュバス様! そのボタンに触っては駄目でございます!」




