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勇者、馬に乗ります。

「馬だ!」


「うん。この国では移動は馬か馬車だからね。勇者様が馬に乗れないのはねぇ」


…困るだろう?カイルが笑みを浮かべながらそう言った。


王宮にある馬房には、数多くの軍馬が繋がれていた。

栗毛、鹿毛、黒鹿毛、葦毛…どの馬も磨かれてピカピカの馬体は管理の良さを物語っている。

俺は居並ぶ馬を見ながら、興奮が抑えられない!だって馬だよ?


「ここの馬、すごく綺麗だ!手入れが行き届いてるね!それに、この大きさとか、もしかしたらアラビー種?」


少し硬い表情で俺たちを案内してくれていた馬丁が驚きの顔で俺を見る。


「勇者様、よくご存じですね。ええ。ここに居る馬達はアラビー種の軍馬ですよ」


「ハハハ。アルト君は本当に馬が好きだね」


「うん。ルリアスは山岳地帯だからね。馬は小型のロバかポニーが数頭いるだけなんだ。だから、こんなに大きな軍馬が見れて触れることができるなんて!」


「…触るだけじゃないよ。これから乗馬訓練だからね。早くひとりで乗れるようにならないとな」


「やったー!!馬に乗れるんだ!嬉しい!!」


俺は思わず歓声を上げかけ、慌てて口を閉じた。

…馬は意外と繊細な生き物だって聞いてたの忘れてた…。


「ご、ごめんなさい。驚かせたよね?」


「はは、大丈夫ですよ、勇者様、ここの馬は軍馬ですから、少々のことにもビクともしません。そういうふうに慣らしてますさ」


先ほどまでの堅さも消え、笑顔で馬丁は、ヒョコっと顔をのぞかせた馬の鼻先をなでた。



              *     *     *



「ーすごいな!アルト君!初めてだってのに、いやー驚いた」


「えへへ。そう?でも、普段からヤギやヤクたちに跨ってるからね」

「ちょっと背が高くなったぐらいで、全然平気。むしろ馬の方が乗せてくれてる感じで乗りやすい!」


「よし。それじゃあ、少し走らせてみるか?行けそうか?」


「うん。ミストお願いできるかな?」


カイルと並走しながら俺は愛馬となったミストの首を軽く叩いて合図を送った。

ーカイルと馬丁が選んでくれたのは、栗毛の牡馬だった。


「名前はミストと言います。気性が穏やかで人が好きな馬なので、初めての馬ならこの馬が良いでしょう」


馬は「オウ任せろ」と言わんばかりに鼻を鳴らして、ゆっくりと駆け出した。

馬が駆ける度に、辺りに青い草の匂いが立ち込め、軽やかな振動が伝わる。そして風を切る感触、気分は最高だ!



しかし、楽しい時間は続かない。乗馬訓練から戻ると、硬い表情のガレリア団長とキャリング大臣、それにマルクス大臣までが揃って待ち構えていた。


…あー、なんか嫌な予感??勘違いでありますように!



              *     *     *



ーー王宮にある軍務大臣の執務室に集まった俺たち。


立ち去ろうとしたカイルを、キャリング大臣がしっかりと丸太のような腕で確保してくれた。


「ええ。俺は衛士隊ですよ?聖都の治安が俺を待ってます!」


「フフフ、大丈夫よ。カイル。軍のトップのアタクシが許可します。付いていらっしゃい」


執務室は意外と落ち着いたカラーで統一され、飾りや絵画など、余分なものは何も置かれていない。ただ、壁に大きく詳細な聖王国地図と聖王国軍旗が掲げられていた。


…キャリング大臣の趣味ならお花柄の壁紙とか想像してたんだけど…な。


大きな机の上には、壁に張られた地図よりは小さいが、やはり、詳細に聖都周辺の事が書かれた地図が置かれ、一か所、赤い丸印が付けられている。


「ここ、ここが今回問題になってる場所なのよ」


キャリングは大きな指輪がはめられた太い指でその場所をトントンと叩いた。


「後の説明は、あなたにお任せするわ」


キャリングはマルクス大臣へ視線を向けてゆっくりと椅子に座った。


「では、詳細は私から説明しましょう」


「我が外務部が全力で調べた結果、ここが聖都から一番近い魔素溜まりと判明しました」

「幸い、まだそこまで高濃度の魔素は検出されませんが、すでに周辺の野生動物に、少なからず影響が出ているという話も出ています」


「一度現地で影響を確認するため、軍による視察を計画しておりますがー」


「…それに、アルトも同行させるお考えですか?」


「…ええ。勇者殿にも魔素溜まりがどういうものか、知って頂く機会と考えています」


「危険ではありませんか?勇者と言えど、アルトはただの…牧畜民ですから」


「そこは、アタクシとカイルがこの身に代えても守るわ。いいわよね?カイル」


「はぁ。まぁ、それは守りますが…」


なんだか、肝心の勇者?まぁ俺だけど、その俺を置いて話は進んでいく。

あの〜。俺の話ですよね?みなさん?


ゴホン。軽く咳払いをする。全員の目がこちらに集まり、あっと言う顔になる。

そうだよね。忘れてたよね。ここに居るんですよ?


「その魔素溜まりって?前に言ってた、動物が狂暴になるアレ?聖剣の光で治るとか言ってたよね?」


「はい。そうです。勇者殿」


「ふーん動物ねぇ。どんな動物なんですか?」


「なんでも銀色に輝く毛色の鹿と、白銀の狼が出たとか」


「銀の鹿に白銀の狼!!それなら、俺、行ってみたい!」


「アルト、軽々しく言うな、危険も伴う事だぞ」


「だって、団長、銀の鹿ですよ、白銀の狼ですよ?気になるじゃないですか?」


「……銀の毛色……」


「ガレリア殿、国としても勇者殿の聖剣の力を確かめておきたいのです。どうか、お願い申し上げます」


そう言ってマルクスは深く頭を下げた。

流石にガレリアも外務大臣に頭を下げさせてまで反対することは難しく…


俺の希望もあって、魔素溜まりに最も近い村への同行が決まった。



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