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勇者、寒村へ向かいます。

聖都を囲む豊かな穀倉地帯を抜けると、道は次第に険しく細くなる。

湿った土と針葉樹の匂いが濃くなり、辺りは高原地帯独特の針葉樹と草地で覆われた風景へと変わる。


街道沿いにすれ違う荷馬車の数も減った。この辺りは聖都から馬で1日ほどの距離でもあるのに、小さな宿場町が一か所あるだけで、そこから先は寒村がいくつか点在するだけだ。

この国の聖都は、聖王国の国土の北端に近い場所にある。


街道の先は北方山脈へ抜ける国境へ続いている。遠くには灰色の岩肌を露出させた険しい山々も見えていた。


そう、この街道を通り、聖都を目指したのは、ほんの10日前。

あの時は、まさか、聖剣の勇者になってこの道を通るとは夢にも思わなかったんだけど…


「……ふぅ。空気が冷たくなってきた。このあたりの風の吹き方、ルリアスに似てる。山から吹き降ろす風の匂いだ」


馬の首を軽く叩きながら、上機嫌で周囲を見回す。まだ三日目だが、少なくとも普通に歩かせる分には、もう自分の足も同然――だと俺は思っている。流石!牧畜民だよね。


「……そうだな。だが、景色は似ていても流れている空気の質は違う。…おいアルト、あまり馬を急がせるな。この先の勾配はさらにきつくなるぞ」


ガレリア団長は、防寒用の外套(もちろん自国製)の襟を立て、険しい表情で北の空を睨んでいる。時折、胃の辺りを撫でているのは馬酔いだと思っておくことにした。


「あらぁ、二人とも元気ねぇ。アタクシの愛馬コロンも、この風でちょっとお肌が乾燥しちゃいそうだわ」


その後ろを行く軍務大臣キャリングは、巨大な黒鹿毛の牡馬の軍馬「コロン」を軽々と操りながら、こちらを見ている。

ちなみに愛馬の名前は、仔馬の時はコロコロして可愛かったかららしい。今のコロンは、普通の馬の1.5倍ぐらいありそうな大型馬だ。


その後ろには……。白い騎士服に身を包んだ一団が続いている。

聖剣教会所属の「聖剣騎士団」5名と騎士達に守られるように、その中に同じ騎士服に身を包んだ「巫女姫」シェラザードも白馬に跨り同行していた。

まさか、氷の王女様が同行するとは……。しかし、王女の強い希望で押し切られたとキャリング大臣は言っていた……。できたら近寄らずに済ませたいなぁ。


最後尾には、第一騎士団から選抜された騎士たちと、護衛に加わったカイルが続いていた。


一行が急な坂を登りきったところで、視界が開けた。

そこにあったのは「村」と呼ぶにはあまりにも寂れた雰囲気と粗末な家屋。


家々の屋根は低く、重い雪に耐えられるよう平たい石が積まれている。

王都で見かけたレンガ造りの建物は一つもなく、壁はすべて風よけの泥と木材を混ぜたもので塗り固められているようだ。


「……ここが、視察先の村ですか。ずいぶんと……静かですね」


ガレリアは周囲を見渡しながら馬を止めた。


「ええ。そうね。ここが魔素溜まりに一番近い集落『ハーゲン村』よ」

「誰か、村長を呼んできて頂戴ね」


キャリング大臣がコロンから下馬して騎士団へ指示を出す。短い返答と共に、そのうちの一人が馬を降りて駆け出した。


一同が馬を止めたのは 村の広場らしき場所だった。

しかし、枯れかけた井戸と、寒風にさらされて黒ずんだ掲示板があるだけ。

活気という言葉からは程遠く、あまり人の気配もしない。


ーどうやら村人たちは家屋の中でじっと息を凝らして様子を見てるようだ。


なにやら寂し気な雰囲気と緊張を感じながら、この先に何が起こるか、その時、俺はまだ何も知らなかった……。





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