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聖剣、抜いたら勇者でした。

ガレリア団長と、あの胡散臭い大臣代表ことマルクス大臣に責められた俺。

だって、聖剣が手から離れたんだから。終わりでしょう?この騒動…

しかし、まだ、そうはいかないらしい。なんで?


――パン。乾いた音があたりに響いた。

氷の王女様が手を打った音だった。


「勇者様。どうかあちらへ…」


そう手を後方に差し出した。その方向に二人の神官が控えていた。


「これから陛下との謁見がございます。まずはお召し替えを…」


「え!?服ですか。着替えって?」


俺は自分の服を見た。多少は汚れてるけど旅装だから、こんなもんでしょう?


「うーん。これじゃダメですか?」


王女は俺の頭の先から足の先まで、ゆっくりと視線を動かした。

…アイスブルーの瞳が冷たく俺を見つめている。なんか怖いなぁ、この王女様。


「…どうかお召し替えを…」


どうやらダメらしい。めんどうくさいなぁ。でも、逆らったらダメな奴だ…たぶん。


「そうですな。この聖王国の勇者殿の初お目見えでもあります。それなりにふさわしいお姿になって頂かないと」


マルクス大臣も頷きながら王女に同意してる。

その横でガレリア団長は苦虫をかみ潰したような顔だ。


「あなたの衣装のご用意もさせましょうか?ガレリア殿。王との謁見に付き従うおつもりでしたら、ですがね」


「…当然です。うちの団員の事ですから。ただし、衣服はこちらで用意があります、お気遣いは無用」


そう答えると、団長は端に控えていたカイルと何かを話し始めた。

俺はそれを傍目で見ながら、神官たちに半ば引きずられるように連れていかれた。



そして今…白を基調とした騎士服に白銀の胸当て。薄紫のマント。

うわぁ。これ、いったいどこの騎士様だよ!?

しかもこのマント!これもシルクだよね?シルクのマントで戦うとかって?

ないわー。汚したり破いたらどうすんだよ?


俺は落ち着かずに何度も身じろぎした。腰に差したリーングリンも揺れる。

リーングリンの奴。鞘に納めてから、やけに大人しい。静かだ。

と、そこにマルクス大臣とガレリア団長が訪れた。


「おお。見間違えましたな。これならば問題なく我が国の勇者と見えましょう」


「…ほう。馬子にも衣裳だな。アルト」


「団長〜。こんな高そうな服怖いですよ!これ汚したらいくら弁償?」


「ははは。そのようなことは心配ご無用です」


団長はいつもの営業スマイルに戻っている。その服装はルリアスの伝統衣装だ。

豪華な刺繍の長衣に太いベルトがアクセント。美しい。

―やっぱりルリアスの伝統工芸は素晴らしい。毛織物万歳!


「団長!そのダウナ――ルリアス伝統の長衣、すごく綺麗!織り手はだれ?……まさかマーガレット婆ちゃん?」


「…確かに随分と美しいですな」


大臣も団長の衣装を眺めながら呟いている。


「我が国の伝統織物ですよ。どうですか?ご婦人用の物もございますよ?」


「そうそう。女性用は、もーーっと刺繍もカラフルで豪華なんです!!」


「ほぉ。あ、いや。その話は謁見の後にでも…」


「そうですね。他にもゆっくりとお話いたしましょう。マルクス殿」


団長はニヤリと笑ったが、目が素早く何かを計算してる。団長得意の高速演算ですね。うん。


「いってらっしゃいませ。勇者様」カイルは軽く手を振ってくれた。


「あれ?カイルさんは行かないんですか?」


「俺はここで勇者様のお帰りをお待ちしてますよ」


「え?なんで?」


カイルさんは苦笑している。そこへ、胡散臭い大臣改め、マルクス大臣が口を挟んだ。


「その者は衛士ですから、謁見の間に入る資格はありません」と言った。


「え?なんで?」そう言いかけた俺にガレリア団長は


「アルト…控えろ。国ごとの決まりがあると言っただろう」とだけ言って黙った。


…そういえば、聖王国は厳密な身分社会の国家だと習ったな…

そういう事なんだ。めんどくさい。嫌な感じ。ルリアスだったら、お祝い事は衛士も兵士も一緒に宴会だよ。



こうして俺たちは、神官に先導されて謁見に向かう事になった。



ギィィ……と重厚な音を立てて、高さ五メートルはある金装飾の扉が開かれた。

広大な謁見の間の突き当たり、高い玉座に座るのは、聖王国の絶対君主のカーディナル3世。

…そして、先ほど別れた氷の巫女姫様のお姿もあった。

その周囲には、文官や高位の騎士たちが居並び、全員が「伝説の再来」を一目見ようと待ち構えている。


そのほかにも、左右には身なりのよい御貴族様らしき人々が、大勢並んでいる。

うぇ〜。この中を進むの?マジですかぁ……。


勇気を出して先導する神官に続き、謁見の間に一歩を踏み入れた。


「アレが勇者?随分若造だな…」「なんでも北方の蛮族の出とか…」

「嫌ですわ。野蛮人が我が国の勇者とは嘆かわしい…」


多くの人の声が聞こえる。一人一人の声は小さいが、重なってさざ波のようだ。

思わず後ろを振り返りそうになる。その時、ここに来る直前にガレリア団長に言われた言葉を思い出した。


「いいか。アルト。俯くな。振り返るな。それがルリアスの誇りだ」


俺は、グッと手を握りこんで前を見た。

ちくしょうー!怖くないぞ。それになんだよ、よく見たら、ここの絨毯、ロシュ織の最高級品じゃんか。

今すぐここでゴロゴロしたい。手触りを確かめたい。頬擦りしたい!!

俺はあふれる心の声を必死に押さえ込んだ。

後で絶対ここで大の字になってやる。頬擦りもする。そう心に誓った。



俺たちは深紅の絨毯の上を進む。マルクス大臣に声を掛けられ俺と団長だけが王の前に進み出た。


「ルリアス共和国使節団、ガレリア・ド・ルリウス……並びに、勇者に選ばれましたアルトでございます」


団長がこれ以上ないほど鮮やかな、教科書通りの礼を決める。 俺も慌てて頭を下げて聖王国風の礼をした。緊張する!


ドン!と、王杖で床を鳴らす音が聞こえた。


「……面を上げよ」


王の声は重厚で、部屋全体に響き渡った。


「150年経て、聖剣リーングリンが選んだのは、北方の小国の若者であったか」

「皆の者。聖剣が選びし者が我が国の勇者だ。そのことは今も昔も変わらぬ。心せよ!」


先ほどまでのさざ波のような声はもうない。皆が王の声に聞き入る。

…すごいぞ!王様!何たる威厳!カッコイイです!



「さぁ、勇者よ…。その聖剣を高く掲げるがよい」


「は、はい! 喜んで!」


俺は元気よく返事をして左手でリーングリンの柄を握って…。

…あれ?硬い。なんで?おい…まさか、鞘から離れたくなーい。とか思ってないよな?

お仕事の時間だぞ?いいから抜けろ!俺は心の中でリーングリンに言い聞かせながら

勢いよく剣を抜き去り、高く掲げた。



ピカァァァ! と、謁見の間がホワイトアウトするほどの閃光が走る。


「ま、眩しいぃぃぃ!!」「目が~目が~」「目がくらむ!!」


辺りから悲鳴に近い声が上がる。その時。


「…静まりなさい。陛下の御前です。

 そして、目を開けなさい。これこそが聖剣の聖光。勇者の祝福です」


氷の巫女姫シェラザードの、鈴を鳴らしたような澄んだ声が広間に響いた。

聖剣の光は、いつしかいつものキラキラエフェクトに代わり、広間中に降り注いでいる。


「おお……!」「なんという神々しさだ!」「これぞ救世の光!」


雰囲気一転。人々は皆、有難がってキラキラを押しいただいている。現金だね~。

王の周囲に並ぶ文官や騎士様も、不思議そうに降り注ぐキラキラエフェクトに手を伸ばす。

その中で目を細めた王様が高らかに宣言した。


「うむ。勇者アルトよ。天晴である。今日、この時より、そなたが我が国の新たなる伝説となる。その聖剣と末永く共に有らんことを!」


「おおお!新たなる勇者の誕生だ」「勇者アルト!」「祝福の聖剣万歳!」


周囲から割れんばかりの喝采が上がり、謁見の大広間が揺れているみたいだ!



………ん?ちょっと待った!!


ダメじゃん!なんで?勇者アルト?違う違う。剣が離れたんだから、王様にお返しして終わりじゃないの???


「ええええ!?俺が勇者になるの?嘘でしょう!」


俺の魂の叫びは広間の歓声にかき消されていく………。

そして、ノリノリでキラキラを撒き散らす聖剣リーングリンと俺との共同生活が始まったのだった。






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