祈りの中の問い。
「さて、これくらいかしら」
キャリングは出来上がった書類に目を通して、そう呟いた。
それは、ルリアスへ向かう親善使節団――という名目の調査隊に必要な書類の数々だ。
親善使節団として内外に示す公式書類は、外務部が用意する。
キャリングが整えて、実務に落とすのは、あくまでも軍関係のみだ。
それでも、多くの案件や計画が必要であり、法的な手続きもいる。
軍を動かす、特に他国へ向かわせる事は難しい。
「オリバー」キャリングは隣室で控えていた魔導士を呼んだ。
「お呼びですかぁ」少し気の抜けた返事が返り、隣室へ続く扉が開いた。
小さく欠伸をして背伸びをしながらやって来る姿に「こいつ寝てたな」と思いながら、出来上がった書類を差し出した。
「あなたも目を通しなさい」そう言いながら、オリバーに次々と書類を押し付ける。
「はぁ。僕なんかが見てもええもんですか?」
オリバーは手元の書類の多さにうんざりした声でそう言った。
それを見て、フンと鼻を鳴らして、キャリングは椅子の背もたれに体を預けた。
「今回の調査隊、アタクシは行けないのよ。わかるわよね」
「だから、ルリアスを客観的に見て、分析して報告できる人材を送り込む必要がある。それ、あなたにお任せするわ。嫌だけど」
「‥嫌な割に評価が高い気がしますね」オリバーは呆れた様に言った。
「適正評価よ!残念だけど」
キャリングはそう言いながら机の上のコーヒーを飲み干した。
既に冷えたコーヒーは、それでもいい香りで鼻腔をくすぐった。
「おそらく、春までは動けないわね。その間の殿下をお願いするわ」
「うわ。責任重大な奴ですやん」
オリバーはしかめ面でそう言い返した。
「ちょっとは上司に対して気を使いなさい!」
「表向きの僕は民間人ですから」
「いいわ。春になったら軍属に戻してあげるわよ」
キャリングはニヤリと笑いながら言った。
「うわ。最悪ですやん」
オリバーの表情に今度はキャリングは声を出して笑った。
* * *
夜の聖剣教会は、静寂に包まれていた。
昼とは違う趣で、蠟燭の明かりが揺れる幻想的な空間を作り出していた。
昼には光を受け、ダイヤモンドダストのように煌めく祭壇も、今は蝋燭の明かりだけに照らされている。
祭壇に置かれた水晶でできた聖鞘ルーングリンの形代。
それもまた、蝋燭の光を反射して昼間とは違う輝きを見せている。
シェラザードはいつもの夜の祈りの言葉を口にして‥思った。
聖鞘ルーングリン
聖剣リーングリン
偉大なる王 ルーン・グリン
私は何に祈りをささげているのだろうか‥
それは、五歳で教会に来て以来、初めて祈りの中に残った問いだった。




