勇者、名前を当てます。
縁も角も崩れ、もはや元の形すら留めていない石の祭壇。
台座には何かの文様か文字の様なものが刻まれてはいるが‥それすらも、崩れて読むことはできない。いったい、いつの時代からこの場所に、誰が、なぜ?
その祭壇の石の台座の上には、先程までは折れた剣が乗っていた。
‥今は砂の様に崩れ落ちた剣の名残の中に淡く光る緑の石だけが残されている。
「‥これが、まさか‥」その石を凝視した教会騎士が思わずといった風に呟いた。
「まさか?何かしら、教会はコレが何か知ってるの?」
キャリングがすかさず騎士へ問い質した。しかし、教会騎士は固く口を閉ざして、それ以上は何も語らなかった。
「殿下‥‥」キャリングは向きを変えて、シェラザードに問いかけた。
「‥教会もすべてを知っている訳ではありません」
シェラザードはため息を一つついて、キャリングへ向き直り、静かに口を開いた。
「我が教会が祀るのは『聖鞘ルーングリン』」
「‥‥そのルーングリンは元は剣があったと。そう伝えられています」
周囲は息をのんだ。聖鞘ルーングリン。その剣とは?
「待ってください殿下。それは理解できかねますわ」
「‥‥それではまるで、リーングリンとは別の‥」
「あれ?ここにあったルーングリンは?」
つい今まで、気持ちが悪いと言いながらコクロウの背でぐったりしていたアルトが、祭壇へ自分で歩いて近寄ってきた。
「‥‥ルーングリン?勇者様?なにを言ってるの?」
「え?」
周囲の空気が固まる。全員の目線がアルトを凝視する。
思いのほか冷たく硬いキャリングの声音に、アルトは困惑する。
「勇者様。あなたは何かご存じなのですか?」
シェラザードのいつになく緊張を帯びた声が響いた。
アルトは焦っていた。いったい自分の発言の何が、こんなにも周囲を緊張させたのか?
「勇者さん」オリバーがいつもと変わらぬ様子でアルトに声をかけた。
「勇者さんは、その、ここにあった、折れた剣が『ルーングリン』だと?」
「え?違うの‥」
「‥‥いや。なんであれが『ルーングリン』だと知ってたんかという事です」
オリバーの問いかけにアルトは首をひねる。
暫くして「あっ」と小さく声をあげ、自分の失態に気が付いた。
「だって、ほら、これ」と言って、慌てて聖剣を鞘ごと腰から抜いた。
鞘の緑の石も淡く光を発している。まるで、台座の石と呼応する様に‥
「ほら、この鞘と同じ石だから、あっちも『ルーングリン』だと思ったんだけど?間違えてた?」
「‥‥なるほど。そういう事ですか‥」オリバーはため息をついた。
「‥‥なるほどね。では、答え合わせをお願いしてもよろしいですか?殿下?」
「‥おそらくは、勇者様の答えが正しいのだと思います」
「では、あの折れた剣が本来の聖剣『ルーングリン』である可能性が高いという事ですか?」
キャリングがシェラザードを見つめながら、そう問いかけた。
しかし、シェラザードはそれ以上は何も語らなかった。




