勇者、今度は倒れません!
リーングリンは空を飛んだ。
ヒュンっという軽い風切り音をあげながら空へ。
合流したばかりの大鷲四羽の真下2m。
手に握った鞭の先にあるリーングリンを意識する。
離れていても、不思議と聖剣の存在ははっきりと感じられた。
そこへ向かって魔力を流すイメージを作る。
俺の手から細い光の筋が伸び、リーングリンへ届いた。
そして、聖剣が‥‥ブワッと大鷲のいる真上に‥‥
祝福をまき散らした。
巻きあがる多量のキラキラエフェクトが大鷲たちを包む。
突然のキラキラ攻撃に慌てた大鷲が風魔法を使おうと嘴を開いた‥‥が
先程まで真っ赤な怒りを帯びた瞳の色は、穏やかな澄んだ青に戻っている。
開いた嘴からは、ピューっと高い鳴き声が出るだけ。
‥‥その鳴き声を残して、大鷲たちは泉のほうへ飛び去って行った。
「よし!上手くいった!」
俺は空から落ちてきたリーングリンを手繰り寄せて回収した。
周囲の視線が痛い。なんで?上手くいったよね?
「あのですね。勇者さん、理屈はわかります。しかし、投げますか?」
「‥‥そうね。アタクシも投げるとは思わなかったわ」
「ははは‥‥良かった言うべきなんだけど‥」
「‥‥」
俺はまだ小刻みに震えるリーングリンを撫でて落ち着かせた。
「どうどう。よくやった。空は楽しかっただろう?」
そんな事あるか!と言いたげに、聖剣はもう一度大きく震えた。
もしかしたら、高所恐怖症なのかな?
とりあえず、祝福は上手くいき、大鷲は飛び去った。
その後を追うように、俺たち一行は泉へと急いだ。
暗い針葉樹の木立の先に、その泉はあった。
日の光を集める美しい水面のはずが‥今は濁った群青色に染まり、辺りに魔素が流れ出している。
その奥の枝には、先ほどの大鷲たちも羽を休めているが、水面からは離れている。
「ここが、今回の魔素溜まり?」俺の質問に
「うわー、なんて嫌な気配。これは、あかんあかん」
オリバーが顔をゆがめて首を大きく振った。
「そうよ。ここが魔素溜まり。そうですよね?殿下?」
キャリングの問いかけにもシェラザードは答えない。
「殿下‥」周囲の教会騎士に促されて、ようやく我に返ったように
「‥そうです。ここです」と答えた。
「よし!それじゃあ、やりますか!」
俺は鞘ごと聖剣を構える。ルーングリンの緑の宝石がきらりと光を放つ。
「勇者さん、わかってると思うけど、残す事を考えてください」
「まぁ、あかん時はこの前みたいにしますけど‥」
俺はルーングリンを見ながら
「うん。実はさっきのあれで、試したい事ができたんだ!」
その一言にシェラザードが肩をピクリと震わせた。
「勇者様!」
いつにない、強い口調で彼女は言った。
「どうか聖鞘に対して手荒なことはお控えください」
お願いいたします。と頭を下げた。
俺はルーングリンを構えなおすと、そのまま心の中で。
よしよし、今度は全部渡さないからな!と思いながら
そして‥「頼む、ルーングリン、泉を浄化しろ!」と叫び、
泉に向かい聖剣を振りぬいた!
ルーングリンの緑の石から強い光が放たれる。
そして、「ウッ!」体中から魔力を吸いだされる感触がする。
その時、左腕を通して剣に流れていく魔力を、その最後の一部を、鞭の先を返すように、投げ縄を手元に戻すように、クイッと引き戻した。
光が泉を包み、浄化してゆく。
周囲から「おおー」という安堵の声が聞こえた。
泉は青い澄んだ水を湛え、キラキラと水面に輝きが残っている。
俺は小さく「ふぅ」とため息を漏らすと聖剣を腰に戻した。
やった!成功!今度は気を失ってない!
「おお~、やりましたねぇ。勇者さん、魔力残りましたやん」
オリバーは小さく手で拍手をしながら嬉しそうに言った。
カイルも「良かった。今度は倒れなかったね」と、俺の肩に手を置いた。
ふふん。俺だって、進化してるのですよ。みなさん。
「‥勇者様」シェラザードが声をかけてきた。
「この度も、無事お役目を果たされました事、お慶び申し上げます」
そう言って、騎士たちと礼をしたが‥
なぜか、シェラザードはどこか疲れた顔をしていた。
ーーーこうして、俺の二度目の浄化も無事終了したのだった。




