白き祈り。
その空間に足を踏み入れたものを圧倒するのは、視界のすべてを埋める、荘厳なまでの冷たさを感じさせる白の世界だった。
そこは、聖都リーンバルクの中心にそびえる大聖堂「聖剣教会」内部。
床、柱、壁、そして見上げるドーム状の天井までが、聖王国西部のキリ山脈から切り出された、最高級の「白華大理石」だけで建造されている。
きらびやかな装飾は一切なく、徹底的に色彩が排除された世界。
まるで白銀の雪原に迷い込んだような錯覚すら覚えるその空間。
堂内にそびえる白亜の巨柱が天井へ向かい並ぶ様は、まるで凍り付いた深い森を思わせる。
その最奥の空間。背後の上部に開けられた丸窓から漏れる光がダイヤモンドダストの様に光を乱反射させている。それはガラスではなく、どこまでも透明な水晶を切り出して、はめ込んだものだった。
その最奥の祭壇。白華大理石の台座にあるのは、水晶で模された鞘。
「聖鞘 ルーングリン」のレプリカである。
その鞘の前に、ひざを折り、一心に祈りをささげる姿があった。
巫女姫 シェラザード
その空間に足を踏み入れた神官は、足音はおろか、吐息すらも漏らさぬよう細心の注意を払い静かにそこに佇んでいた。
やがて、シェラザードが祈りを終えて、静かに立ち上がる。
そして、ゆっくりと振り返り、神官に声をかけた。
「……それで、勇者様の訓練の様子は」
神官は深く一礼を返した後、静かに口を開いた
「はい。順調に進んでおられます」
「……そう」そう答えたシェラザードの声には何の温度もない。
「ただ、勇者様の魔力が思いのほか大きく、コントロールに少々時間がかかっている様子でございます」
そう報告をした神官は、シェラザードのアイスブルーの瞳が僅かに細められたのを見た。
「では、聖剣は良き勇者を選んだということね」
「聖鞘を満たすことができる……」
それは、まさに氷の微笑と呼ぶに相応しい、冷気を感じさせる微笑みであった。




