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勇者、魔力を集牧します。

「それで、これから俺はどうすればいいの??」


目を覚ました医務室から場所を移され、

今はキャリング大臣の執務室にいる。


ガレリア団長はマルクス大臣の所へ戻った。

俺がとりあえずの形でも謝罪を受け入れた事と、二国間での問題が解決するかは別らしい。

明らかなルリアスの対する不当行為という形ではなく、何某かの落とし所にする為にも、保障の形がいるという事だった。難しい話だな~。


今後、俺が勇者として活動を続けるのに必要なことは、キャリング大臣が理解してるからと言う話。だから、ここに居るわけだ。


大きな特注椅子に腰を下ろして、キャリング大臣は俺の方を見て言った。


「勇者様、あなたには魔力操作を覚えてほしいのよ」


「魔力操作ですか?」


「ええ。あなたも感じたでしょう?あのルーングリンは使用者から魔力を奪う」

「‥‥吸い出すと言った方がいいのかしら?」


確かに、あの感触は『吸い出す』が近い。しかも驚きの吸引力だった。


「確かにそういう感じでした!」


「でしょう〜。だからね。アタクシとガレリア殿で話し合ったのよ」


「もし、あなたに勇者を続ける意思があるなら、魔導士の先生を付けて、魔力の使い方を覚えてもらおうと」


「‥先生ですか?」うーん。本国でも勉強は苦手だった。大丈夫かな?


「ええ。そうよ。実は‥王女殿下が、『勇者への指導は教会が行います』って言ったけども、ガレリア殿が却下したわ」


「『信用ならないからパス!』だそうよ。当たり前の話だわね」


キャリングは自分の顔の前で「ないない」と言わんばかりに、手をひらひらと振る。その度に大きな指輪の赤い宝石が輝く。


「それで、アタクシの知人の魔導士にお願いすることにしたのよ。‥元は軍隊所属の魔導士だったけど‥ちょっと色々あって」


「今は市井で魔導士として働いてるわ。彼なら魔力操作に関しては聖王国随一よ。明日から、王宮へ来てもらう事にしたから、頑張って頂戴ね」


という事で、明日から俺に先生が付くことになった。

勉強は苦手だけど、確かに、あの、教会で教わるよりは遥かに良さそうだ!


‥どうしてもダメな時は、その時に考えよう!




          *    *    *



「どうも!なんか知らん間に先生やることになってました」


「名前はオリバー・オロボス。『光の魔導士オロボス』なんて名乗って、今は記念撮影の助手をしてます 」


飄々とした雰囲気の人物が片手をあげて挨拶してくれた。

グレーのローブは着古した感じがあり、どことなく薄汚れている。

あれ?記念撮影と言うと‥もしかして


「あの!もしかして、あの時の、念写の人の横にいた‥?」


「おお!よー覚えてるねー。流石、勇者さん!。はい。居てました。こう、サクッと剣抜いたの見てました」


「あれ、最高やった。いやー面白い物、見せてもらいました」


やっぱりそうか〜。あの時、念写師さんの横で「写真撮りまくれ!」って言ってた人だ。


‥それにしても、この人の言葉って、もしかして‥


「あの〜。もしかしたら南の『交易都市 ナンダ-ム』の人?」


「ああ。この言葉?いやー、僕はここの下町育ちですよ。ただ親がナンダ-ム出です」


「そうなんですか!ナンダ-ムいい所ですよね~」


「お、ご存じで?僕も何度か親と行きました。おもろい街ですよね」


二人でナンダ-ムの話で盛り上がる。

でも、あの街って面白いんだよね。いろんな国や地方の人と文化の交差点‥らしい。

行ったことないけどさ。行ってみたいんだよね〜。


パンパン。と軽く手を打つ音が聞こえる。


「ふたりで盛り上がってる所に悪いんだけどいいかしら?」


キャリング大臣が軽く笑みを浮かべながら、大きな手でその人物の背中を軽く叩いた


「勇者様の指導に当たるオリバーよ。よろしくね」


オリバーは少し咽た後に頭を掻きながら、


「元は、軍で働いてましたが、ちょっと色々ありまして、今は民間人してます。まぁ、魔力操作にかけては自信があります。そこはホント。泥船に乗ったつもりで任せて!」


「‥相変わらずねオリバー」


半ば呆れたように呟く軍務大臣をしり目に、オリバーはニヤニヤと笑みを浮かべている。

なかなか個性的な人だな。でも、堅苦しい相手よりは100倍マシだからいいや。



「じゃあ、後はお願いね」そう言い残し、キャリングは仕事に戻った。


ーーー俺はオリバーと二人で訓練場へ


オリバーは俺のほうを向くと「そしたら始めましょか」と言った。


「まずは、身体の中の魔力の流れを左手に集めるイメージで。魔力の流れ、わかります?」


「‥なんとなく、かな?」


俺は左手を握ったり開いたりしながら答えた。


「ふんふん。なんとなく。いいですよ。その、なんとなーく。の魔力を左手にこう、集めるみたいに‥できそうですか?」


「うーん」集める、が、よくわからない‥魔力はわかるけど、難しいな。


「よし!こうしましょう」


そう言って、オリバーは懐から「方位磁石 コンパス」を取り出した。


「コンパスです。見た事はありますか?」


「はい!って言うか、すごく綺麗な細工ですね~」


そのコンパスは美しい光沢の木材に花の模様が細かく彫り込まれていた。


「ああ。この国は木材加工が盛んです。これも綺麗ですよね。まぁ、それは、置いといて。こう、手に乗せてください」


「この針には微量の魔石が仕込んであります。魔力を近づけると反応する訓練用です」


そう言いながら、俺の左手に乗せてくれた。

ゆらゆら揺れる針は、北の方角を指している。


「こう、針を動かすつもりで、魔力を動かしましょ。まずは、コンパスへ意識を集中させてください」


手のひらに乗せられたコンパスに意識を集中する。

この木材はパーシモンかな?磨きこまれた光沢が美しい!溜息出そう。

彫り込まれてるのは‥‥わかった。ブーゲンの花だ。南国調のデザインだな。


「ちょっと、待った」オリバーが待ったをかけた。


「勇者さん、集中するの針です。コンパス自体の査定してませんよね?」


「へ?あーーはい。すみません。つい、木目の美しさとブーゲンの彫がいい出来だと‥」


「‥‥商人あるある、ですね。おかしいな?勇者ですのに‥」


「ははは。勇者というより、牧畜と毛織物や伝統工芸品の取り扱いが本業なんですよ!」


「ほー。なら勇者は副業みたいな感じですか?」


「うーん。隙間時間のバイト?みたいな?」


「なるほどね〜。そうやったら、どうですか?いい儲け話があります」


「え?儲け話‥ですか?」


オリバーは少しだけ悪い笑みを浮かべ、軽く手招きをして俺を傍に呼んだ。


「大きな声では言えませんけど‥簡単な誰にでもできる仕事です。ちょっと、笑顔でですね、立っててくれるだけのお仕事」


「オプションで『勇者と記念撮影プラン!』どうです?」


「ええ!オプション?記念撮影って!まさか?あの聖剣の丘でやってた?」


「そうそれそれ。こんだけ出しますよ」オリバーが片手を提示する。


「ほー。それってーー。いたたたっ!」


二人でコソコソと話を続けていたら、いきなり背後から頭を鷲掴みにされた。

ギリギリと頭に食い込む指の感触。これは‥間違いない!


「い痛いです!団長~~はなして~」


「いい加減にしろ!アルト。これ以上おかしな事をす・る・な!」


「それに、勇者を隙間バイト感覚で語るな!」


鬼の形相のガレリア団長が俺の頭を片手でギリギリと締め付ける。

その姿を見たオリバーは、足音を消して、静かにゆっくりと後退って行くがーー


「オロボス殿。お待ちを」氷点下の声が辺りを凍り付かせる。


「ひっ!すすみません。ちょっと魔が差しました」


オリバーはペコペコと団長に対して頭を何度も下げる。

その姿を冷ややかに見守りながら、団長は懐から薬瓶を取り出した。


「あれ?薬瓶、新しいやつ?」


「ああ。持参薬はなくなったから、マルクス殿が手配をしてくれた」


団長は俺の頭から手を放し、薬瓶の中から素早く丸薬を数粒取り出し口へ入れた。


「では、訓練を再開してもらいます。いいですね、オロボス殿、アルト」

「真面目にやる事。いいな二人も」


「はーい」「はい」二人で仲良く良い返事を返した。怖いからね。



「では、気を取り直して、行きますか」


オリバーが、コンパスの針を指さして言った。


「体の中を流れる魔力はわかるなら、そこから体の魔力を手のひらに追い込む。ゆっくりでいいです。どんどん左手に集める感じです」


魔力を追い込む?感覚が難しいなぁ~

当然だけど左手に乗せられたコンパスには何の変化も見られない。


「うーん。追い込む感じ?わからないなぁ?」


「そうですね。勇者さんは『追い込む』で何を想像します?なんでもいいですよ」


「追い込む」を考えてみる。うーん。追い込む、そうだな追い込むのは‥‥


「ヤギ。放牧の後に集める「集牧」いつも大変なんだ」


「ははは、ヤギですか。では、体の中の魔力をヤギの群れだと思いましょ。ヤギ、中には言うこと聞かなくて、暴れるのもいますよね。それを一匹一匹、丁寧に柵の中へ導く感じです」


ヤギを導く感じ。それなら!俺は投げ縄で逃げ出そうとするヤギを捕まえては柵へ押し込むイメージで魔力を左手の手のひらに集める。


おお。なんか左手に魔力が集まりだした!


「うんうん。行けそうですね。しかし、なんか、すごい魔力ですね」


いつの間にか、コンパスがカタカタと手のひらの上で揺れている。


「すごいな……。まあ、上に逃がす分には大丈夫でしょう。僕も横で見てますから」


オリバーがコンパスを見ながら小さくつぶやいた。


「勇者さん、今、左手の中に魔力が集中してます。それを、コンパスの針を動かすイメージで、一点集中して放出してみてください」


「ええですか、まっすぐ真上に出す感じです」


左手の魔力を針を動かすイメージで、放出する。方向は真上!

更に集中を高める。コンパスの針がぐるぐると高速回転を始めた。


「いやいや、勇者さん、ちょっとーーー」


「よーし!いけ!!」


「うわぁ。まぶしい!!」


その時、俺の手のひらから、真上に伸びる、光の柱がたった。


「うわっ!なんだこれ!?」


真っ白なその光は、あの、大広間でリーングリンが出した光に似ている。


「……ははは、すっご。驚いた、なんですか、それ?」


オリバーは空に伸びる光を見ながら呆れたような声を出した。



「アルト!魔力を押さえろ!」


ガレリア団長の声も焦って聞こえる。


光はすぐに収まり、一瞬、空に浮いたコンパスが手のひらに落ちてきた。

それを左手でしっかりと握り込んだ。


「‥‥‥いや、どうも失礼しました勇者さん、体のほうはどうですか?怠いとかないですか?」


「へ?いや別に、驚いただけで、何もないです」


「‥そうですか、うん。それにしても、勇者さんの魔力属性、やっぱり光でしたね」


「光?魔力属性??」


オリバーは一人で頷きながら、何かに納得するように言葉を続けた。


「はい。魔力には基本的な属性があります、いうても、魔力の性格みたいな感じです。実際に使うときは、それに術者の念じる属性を付加する感じですが‥。自分の属性以外の魔法は、そこまで威力出ません。‥だから、聖剣のエフェクト見て思いました」


「勇者さんは光属性ちゃうかなって」


「まぁ、単純な話で、エフェクト、キラキラしてましたしね。でも今ので確信に近くなりました」


先ほどまでのおどけた雰囲気を消して、真剣な顔のオリバーは、俺の顔を見ながら言った。


「……光属性って?どういう?」


オリバーの話では俺は光属性らしいけど、いきなりそう言われても‥

そもそも、魔力に属性があることも初めて知った。

ーー??あれ、そう言えば、属性の話は昔に「ひいばあちゃん」から聞いたような‥


興味のない話は、いつもすぐに忘れてしまうんだよね~


「‥‥そうですね。アルトは光属性だと彼の部族長からも聞いてます」


「それが何か、問題でも?」


ガレリア団長は少し考えてオリバーに確認をしている。


「いや。光属性自体は珍しいもんじゃ無いです。僕もそうですから」


「へーそうなんだ。それで、光属性なら何ができますか?」


「光、出せます」オリバーはきっぱり言った。


「?光ですか?」


「はい。僕が今やってる仕事、キラキラエフェクト光魔法。あれも光魔導士なら誰でも出来ます。勇者さんも覚えたらできますよ」


ああ、なるほど。そう言えば、最初に見かけた時も、


「オプション エフェクト魔法 (光、雷光)」


とパンフレットに書いてあったな。あれか。

‥‥それだけしか使い道ないのかな?光魔法?まさかね。


「‥あの〜。もしかしたら、光魔法って‥使い道‥それだけだったり?」


「....光。キレイですよね。キラキラ〜。目立ちますよね‥‥」


「‥‥それだけなんだ」


あ。オリバーさんがイジけた。

肩を落として小さく背を丸めたオリバーがぶつぶつと何か言ってる。


「ええです。光魔法は綺麗です。それだけでも価値はあ・り・ま・す」


「‥‥それやのに、軍部のあほタレガキんちょお貴族様の子倅共は、僕の研究を‥‥」


ついに何か恨み言まで言い始めた。これ、どうしたらいいの?団長!ヘルプ!

ガレリア団長は何か可哀そうなモノを見るような生暖かい視線でオリバーを見ながら


「‥‥それで、アルトの魔法制御は上手く行きそうですか?」控えめにそう聞いた。


オリバーは居住まいを正すと、キリっとした表情を作った。遅い!今更!


「はい。少々、並外れた、馬鹿げた、呆れた、魔力量に驚きましたが。まぁ、なんとか行けるでしょう。はい」


「へーそんなに多いかな?団長!魔力多いって」


「‥‥そうだな、ルリアス人はみんな魔力は多目だとは思うが‥」


「まぁ、確かにアルトはルリアス人でも多目なのかもしれんな」


「へー。気が付かなかった。ルリアスでは魔法は使わないからね~。でも、光魔法覚えたら、暗い山道では重宝するかも?」


「‥‥普通にランプを使えばいいと思うぞ。それに、危ないから日が落ちる前には山から帰れ!」


それもそうだ。はい。


「しかし、驚きですね。勇者さんの魔力が特別扱いじゃないとか。こんなに、すごい魔力、初めて見ましたよ。これやったら光魔法だって、使い道、今よりもありそうです」


そういえば、といった感じで、少し考える様に、オリバーが聞いてきた


「ルリアスは魔法文化はあまり、その、進歩はしてない感じですか?」


「ええ。そうですね。ルリアスは小さい国ですから。魔法に頼らなくとも、全部が何とか回る国ですね」


「は〜、もったいないわ。研究したいなぁ。ルリアス行きたいなぁ」


「そうですね。状況が落ち着いたら、ぜひどうぞ」


「うん。オリバーさんなら俺も歓待するよ」


俺とガレリア団長は、少々、オリバーの様子に戸惑いながらも、そう答えたのだった。


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