第6話「ハリネズミ」
大学の講義が終わる。
「終わったぁー!」
勇人は大きく伸びをしながら教科書をカバンへしまう。
その時だった。
ころん。
小さなハリネズミのぬいぐるみが床へ転がった。
「あっ」
勇人が慌てて拾おうとするより早く、真司がひょいと拾い上げる。
「……何これ」
「か、返して!」
勇人は珍しく焦っていた。
真司は口元を緩める。
「へぇ」
「男のくせに、可愛いもの好きなんだ♥」
「悪いかよ」
勇人は頭をかいた。
「姉ちゃんが三人いるし、ぬいぐるみ好きで」
「俺もいつの間にか好きになってたんだ」
「こいつは俺の相棒なの」
真司は少しだけ目を丸くして笑った。
「持ち歩く程好きなんだ」
「これカバンにつけられるし」
「男が持ってたら、そんなに変かよ?」
「別にいいんじゃない」
「男のくせにって言ってる私も人のこと言えないし」
「女装してるし」
「意外と可愛いところあるじゃない。」
「姉ちゃんたちにも同じこと言われるんだよなぁ」
勇人は照れくさそうに笑いながら、ぬいぐるみを受け取った。
その様子を見ていた桜子が、小さく呟く。
「……かわいい」
桜子は慌てるように視線を逸らした。
「え?」
勇人が顔を上げる。
「ハリネズミ」
桜子はぬいぐるみを見つめた。
「すごく、かわいい」
勇人は嬉しそうに笑う。
「だろ?」
桜子は少しだけ視線を落とした。
「実家でも一つもなかったから、なんとなく買ったことがなくて」
「そうなのか?」
「うん。」
「母がよく言うの」
「『本当に美しいものは、足し算じゃなくて引き算なのよ』って」
「だから実家には、必要なものしか置いてなくて」
「そのせいか、私も今まで買おうって思ったことがなかったの」
勇人は少し驚いたように頷く。
「へぇ、そんな考え方もあるんだ」
桜子は少し照れながら微笑んだ。
「だから、少し憧れる」
勇人は何も考えずに笑う。
「じゃあ今度、一緒にゲーセン行こうよ!」
「可愛いハリネズミのぬいぐるみ、いっぱいあるかもしれないぞ!」
真司は即座にツッコんだ。
「今の話、聞いてた?」
「え?」
「家が引き算の美学だって話だったでしょ」
「いや、三人で!」
「人数の問題じゃないのよ」
桜子はそんな二人を見て、くすっと笑った。
「ふふっ」
勇人はハリネズミをカバンへ戻す。
「名前あるんだ」
「え?」
「ハリー」
真司は即座に言った。
「そのまんまじゃない」
「しかも名前まで付いてるし」
「分かりやすいだろ!」
三人の笑い声が、昼下がりの大学に響いた。




