第5話「初めてのハンバーガー」
昼休み。
「お腹すいたなぁー!」
勇人が大きく伸びをする。
真司が呆れたように笑う。
「さっき講義終わったばかりなのに」
「講義って頭使うじゃん」
「使ってた?」
「使ってたよ」
「俺、こう見えて頭使ってるし」
「私には全然分からなかったわ」
桜子はそんな二人を見て、小さく笑った。
「二人はいつの間にか仲良くなってるね」
「そんなことないわよ」
勇人がふと思い出したように言う。
「あっ」
「そうだ。駅前に新しくハンバーガー屋できたんだよ。」
「行ってみない?」
真司は腕を組んだ。
「私はいいわ。十三歳から十八歳まで海外にいたから、ハンバーガーは食べ飽きたの。」
「コールスローとブラックコーヒーだけお願い。」
「了解!」
勇人は桜子を見る。
「桜子は?」
桜子は少しだけ目を伏せた。
「……食べてみたい」
「よし、決まり!」
三人は店へ向かった。
店内は昼時で賑わっている。
「俺、席取ってくる!」
勇人は空いている席を見つけて荷物を置いた。
「注文は俺が行くよ」
そう言ってカウンターへ向かった。
メニューを見ながら一人でぶつぶつ呟く。
「俺は期間限定の玉子バーガーセット一つと」
(桜子もこれ好きそうだな)
「『この特別な日に』の限定バーガーセットを一つ」
(ポテトも飲み物もLでいいよな)
「どっちもLサイズで。あとはコールスローと、ホットのブラックコーヒーを一つずつください」
「これでよし!」
数分後。
「お待たせ!」
トレーを持って戻ってきた。
真司は目を丸くする。
「ちょっと」
「え、何?」
「ポテトL?」
「うん」
「ドリンクもL?」
「うん」
「誰が飲むのよ」
「え?」
勇人はきょとんとした。
「大きい方がお得じゃん」
真司は額に手を当てる。
「そういう問題じゃないのよ……。」
桜子は思わず小さく笑った。
「ふふっ」
勇人はバーガーを差し出す。
「はい、桜子」
「ありがとう」
桜子はとても嬉しそうに受け取った。
包装紙をゆっくり開く。
ふわっと漂う香ばしい香り。
(テレビの中でしか見たことがなかった、あのハンバーガー。)
子どもの頃から気になっていた。
テレビで見るたびに食べてみたかった。
でも。
『栄養が偏るから駄目。』
父と母はいつもそう言っていた。
だから一度も食べたことがない。
(私から提案した訳じゃないし、問題ない!)
「いただきます」
桜子は小さく息を吸い、一口かじった。
――その瞬間。
目が大きく開く。
柔らかいパン。
香ばしい肉。
とろりと流れる半熟玉子。
甘みと塩味が口いっぱいに広がった。
「……っ」
ぽろっ。
一粒、涙がこぼれた。
勇人は固まる。
「えっ!?!?」
「泣いてる!?」
そして、
真司が勢いよく立ち上がる。
「勇人!」
「泣かせたわね!」
「桜子に何したのよ」
「えぇぇ!? 俺!?」
店内の視線が一斉に集まる。
「ケンカ?」
「泣いてる……」
「どうしたんだろ」
勇人は青ざめた。
「違います!!」
桜子は慌てて首を振った。
「違うの!」
「勇人は悪くないんです!」
涙を拭きながら笑う。
「ずっと……食べてみたかったの。」
「でも、お父さんとお母さんに『身体に良くないから』って言われて、一度も食べたことなくて……」
もう一口食べる。
また涙がこぼれる。
「こんなに……」
「美味しいもの、初めて食べた……」
店内が静まり返る。
「そういうことか」
「びっくりした」
「あぁ」
「よかった……」
勇人は胸をなで下ろした。
「寿命縮んだ……。」
「本当に大丈夫?」
「うん、本当に美味しい♥」
真司も椅子に座り直す。
「もう」
「そんなに食べたかったなら、言ってよ」
「私も付き合うから」
桜子は照れくさそうに笑う。
「ごめん」
勇人も笑った。
「そんなに喜んでもらえるなら、誘ってよかった」
桜子はバーガーを見つめる。
(勇人が誘ってくれなかったら、この味を知らなかった。)
(……ありがとう。)
胸の奥が少しだけ温かくなる。
勇人はLサイズのポテトを差し出した。
「ポテトも食べる?」
桜子は一本手に取る。
「……これも美味しい」
「だろ!」
勇人は自分のことのように嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、桜子も自然と笑っていた。




