↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『第一印象、マイナス100点。 ―最悪な出会いが、最高の出会いになるまでの物語。』  作者: 季波


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/53

第49話「気づかなかった気持ち」

BARLampに着いた。

ドアを開けると夜空がいつも通りの笑顔で迎えてくれた。

「桜子さん、いらっしゃいませ」

「一人で来るなんて珍しいね」


「こちらにどうぞ」

カウンター席に案内された。

「なんか読む?」



「はい。今日は、ノンアルコールをお願いします」



「了解。じゃあ、さっぱりしたものを作るね」

夜空は氷をグラスに入れ、ライムを軽く搾る。 トニックウォーターを静かに注ぎ、最後にミントを添えた。

「どうぞ。ノンアルコール・モヒート」



「ありがとうございます」

「いただきます」

グラスを持ち、一口飲む。

「美味しい」

ミントの爽やかさが、張り詰めていた桜子の気持ちを少しだけ和らげた。



「それは良かった」



「あの、今日って先生達は来てませんか?」



「今日も来てるよ」

夜空は店の奥のテーブル席に目をやった。

「今日は結構飲んでるみたいだけどね」



つられて桜子もそちらを見る。

学生たちが夏休みに入ったせいか、二人ともいつもより気が緩んでいるようだった。



テーブルには空になったグラスがいくつも並び、すっかり出来上がった二人の話し声が聞こえてくる。



「今日という今日は言わせてもらいますよ」



「なんですか? 神谷先生」



「黒田先生はいつも、化学は実験で検証できるからこそやり甲斐があるって」



「その通りです」

「心は目に見えない、不確かなものだ」



「そこにロマンがあるんですよ!」

「何回言えばわかるんだ、あんた」



「おや、ついに本性が現しましたね」



「あんたがいつも嫌味を言ってくるからだろ?」



「心の先生が感情的になるとは驚きだな」



「心理学で何でもかんでもわかるわけじゃないんだぞ!」



「誰のせいだと思ってるんだ?」



「最初からそう言えばいいんですよ。」



「ふふっ」

夜空は笑った。

「あっ、すみません」

「お二人とも、本当に仲がいいですね」

「相手に分かってほしいからこそ、本気でぶつかるんでしょうね」



「そういえば先生に用があるんじゃなかった?」



「えっと」

桜子は、手元のグラスに視線を落とした。

(分かってほしいから……)



勇人と言い争ったときのことを思い出す。

『だから、俺のこと信用してないってこと?』



違う。信用していないわけじゃなかった。

(勇人はそんなことしないってわかってる)

それなのに、どうしてあんなに嫌だったんだろう。



他の女性にも声をかけるかもしれないと思ったこと。 花火大会で、知らない女性と楽しそうに話していたこと。



そのたびに、胸の奥がざわついた。

(私は……何が嫌だったの?)



桜子はグラスを両手で包む。

勇人が他の女性に笑いかけること? 親しそうに話すこと? 自分と同じように、誰かに声をかけること?



そこまで考えて、桜子の指が止まった。

(……同じ?)

自分だけだと思っていたものが、自分だけのものではなくなる。それが、嫌だった。

(私……)



ようやく、胸の奥に引っかかっていたものに名前がついた。

(本当は、勇人に私だけを見てほしかった)



その気持ちを口にすることが、どこかはしたないことのように思えていた。 だから、自分でも気づかないふりをしていたのかもしれない。



「大丈夫です」

「私……自分が何を嫌だと思ってたのか、やっと分かった気がします」



「そっか」

夜空は桜子の表情を見て、微笑んだ。

「少し顔が明るくなったね」



「ありがとうございます」



「俺は何もしてないよ」



桜子は小さく笑った。

勇人に、ちゃんと伝えたい。

今度は、自分の気持ちを自分の言葉で。

「あ……私、行かなきゃ」



「勇人のところ?」



桜子は少し驚いて、それから頷いた。

「はい」



「そっか。行ってらっしゃい」

「もう暗いから、気をつけてね」



「はい。ありがとうございました」

桜子は席を立ち、BAR Lampをあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。