第41話「この町に咲き続ける桜」
「蓮さん、本当にありがとうございました。私達が抜けている間、和菓子の方を手伝ってくれて」
「大丈夫だよ、それより、完売したんだよ」
「えっ、本当ですか?」
「本当だよ、夜桜セット、大人気だったよ」
「抹茶ラテも、抹茶のほろ苦さと黒蜜の甘さがちょうどいいって評判だった」
「よかった……!」
その後、和菓子ブースの皆で「お疲れ様」と声を掛け合いながら、片付けを始めた。
「私も夜桜羊羹、食べたかったなぁ」
「俺、抹茶ラテ飲んでみたかった」
そんな声が聞こえてくる。
「ごめんなさい。まさか全部売り切れるとは思わなくて……」
桜子が申し訳なさそうに言うと、皆は笑った。
「何言ってるの。完売したんだから、喜ばないと!」
「そうだよ。大成功じゃん!」
「……うん!」
桜子も嬉しそうに笑った。
自分たちが作ったものを、たくさんの人が選んでくれた。そのことが、ただ嬉しかった。
そして、大学フェスの賑わいも落ち着いた数日後。
桜子と勇人は、フェスで協力してくれた和菓子店を訪れていた。
店の奥から、ほんのりと甘い餡の香りが漂ってくる
「二人とも、今日は来てくれてありがとう」
店主に案内され、二人は店の奥へ入る。
「いえ、こちらこそ」
「フェスでは本当にありがとうございました」
二人が頭を下げると、店主は笑った。
「実はね、今日は二人に話があるんだ」
「話、ですか?」
桜子と勇人が顔を見合わせる。
店主は二人を見て、ゆっくりと口を開いた。
「大学フェスで出した、夜桜羊羹なんだけどね」
「はい」
「正式に、うちの店のメニューに加えたいと思ってるんだ」
桜子は、何を言われたのかわからなかった。
「……え?」
「夜桜羊羹を、ですか?」
勇人も驚いたように聞き返す。
「それと、黒蜜をかけた抹茶ラテも評判がよかったからね。あの黒蜜のアイデアも面白い。あれも店で出せないか、考えてるんだ」
何度も失敗して、勇人と一緒に作り上げた夜桜羊羹。
大学フェスでは、たくさんの人が「美味しい」と笑ってくれた。
あの日だけで終わると思っていた。
けれど、これからもこの店を訪れた誰かが、夜桜羊羹を食べてくれる。
そして、あの日の人たちのように「美味しい」と笑ってくれるかもしれない。
そう思った瞬間、桜子の目から、ぽろりと涙がこぼれた。
「……勇人」
勇人を見ると、彼も笑っていた。けれど、その目元は少し赤くなっている。
「桜子、泣くの早いって」
「だって……勇人も泣いてるじゃん」
「俺は泣いてない」
「泣いてるよ」
「……ちょっとだけな」
二人は顔を見合わせた。
そして、同時に笑った。
「やったね、勇人……!」
「やったな」
「誰かに食べてもらって、喜んでもらえるって、こんなに嬉しいんだね」
桜子は涙を拭いながら、笑った。
「こんな気持ちを知れたのも、このお店と勇人のおかげだね」
「何言ってんだよ。夜桜羊羹を思いついたのは、桜子だろ?」
勇人は涙を拭う桜子を見ながら、大きく笑った。
「だから、桜子のおかげでもあるんだよ」
二人は顔を見合わせ、もう一度笑った。
あの夜に咲いた桜は。
これからも、この町で咲き続ける。




