第36話「夜桜セット」
大学フェスの準備中。
和菓子班では、本番に向けた最後のメニュー決めが行われていた。
テーブルの上には、これまで試作を重ねてきた和菓子が並んでいる。
あんみつ。
くず切り。
大福。
そして――夜桜羊羹。
透明な寒天の中で咲く、淡い桜色の花。
その下には、小豆色の羊羹が重なっている。
「やっぱり、綺麗だね」
桜子は夜桜羊羹を眺めながら、嬉しそうに笑った。
何度も失敗して。
桜の花が端に寄ったり、気泡が入ったり。
勇人が一人で試作を続けて、熱まで出してしまった。
ようやく完成した、大切な和菓子だった。
「これ、フェスでも絶対人気出ると思う」
班の一人が言う。
「うん、でも、せっかくだから夜桜羊羹をメインにしたセットを作れないかな」
桜子はテーブルの上を見渡した。
「大福とセットとか?」
「それだと、ちょっと甘いものばかりになっちゃうかも」
「じゃあ、飲み物とか?」
その言葉に、桜子は顔を上げた。
「飲み物……」
少し考えてから、桜子は口を開く。
「抹茶ラテはどうかな?」
「抹茶ラテ?」
「うん。和菓子にも合うと思うし」
さっそく、試しに抹茶ラテを作ってみることになった。
出来上がった抹茶ラテを、夜桜羊羹の隣に置く。
鮮やかな緑色。
その色を見つめていた桜子が、小さく呟いた。
「……芝生みたい」
「芝生?」
「うん。」
桜子は夜桜羊羹と抹茶ラテを交互に見る。
「春の夜に、芝生の上から桜を見てるみたいじゃない?」
「ああ、確かに」
「でも、もう少し何か欲しいね」
みんなで抹茶ラテを見つめる。
「何か飾る?」
「桜の花?」
「それだと羊羹と同じになっちゃうかな。」
「……あ」
桜子が何かを思いついたように顔を上げた。
「金粉は?」
「金粉?」
「うん。抹茶ラテの上に、ほんの少しだけ散らすの」
桜子は指先を動かしながら、楽しそうに続ける。
「緑の抹茶ラテが芝生で、その上に金粉を散らしたら……星屑みたいに見えないかな?」
「星屑……」
班のみんなが、もう一度抹茶ラテを見る。
春の夜。
芝生の上にきらめく、金色の星屑。
その向こうには、夜に咲く桜。
「いいかも!」
「絶対、写真映えするよ!」
「夜桜羊羹と並べたら綺麗そう!」
次々と声が上がる。
桜子も嬉しそうに頷いた。
少し考えて、
「じゃあ、『夜桜セット』はどうかな?」
「いいね!」
「分かりやすいし、可愛い!」
こうして、大学フェスの目玉メニューが決まった。
「よし、じゃあ金粉も発注しておかないとね」
「私、注文しておくよ」
班の一人が注文表に金粉を書き加える。
その横では、ほかのメニューの確認も進められていた。
「あんみつも出すんだよね?」
「うん。あと、くず切りと大福も」
「じゃあ、黒蜜は多めに必要かな」
テーブルの上には、大きな黒蜜のボトルが置かれていた。
桜子は少しだけ味見をする。
「……おいしい」
「桜子、黒蜜好きだね」
「好きだよ、わらび餅にも合うし」
「今回はわらび餅ないけどね」
「……残念」
桜子が本気で残念そうな顔をする。
「そんなに好きなんだ」
「うん。大好き」
みんなが笑った。
メニューも決まった。
夜桜羊羹。
夜桜セット。
あんみつ。
くず切り。
大福。
必要な材料も、少しずつ揃っていく。
「いよいよだね」
桜子が呟く。
「うん」
「楽しみになってきた!」
桜子は、もう一度テーブルを見る。
夜桜羊羹の隣には、鮮やかな緑色の抹茶ラテ。
本番では、この上に金色の星屑が散りばめられる。
きっと、綺麗な夜桜の景色になる。
「たくさんの人に、見て食べてもらいたいな」
桜子は嬉しそうに笑った。
準備は、着々と進んでいた。




