第3話「会話って難しい」
三人は教室を出て、大学の中庭へ向かった。
神谷先生から出された課題はシンプルだった。
「三十分、お互いを観察すること」
「会話でも、歩くだけでも構いません。大切なのは、相手を知ろうとすることですよ」
三人はゆっくりと歩き始めた。
しかし――。
「ねぇ、課題なんだから何か話しなさいよ」
真司が腕を組む。
「ほら、勇人。あんたから」
「えっ、俺?」
勇人は困ったように頭をかいた。
「いや……何を話せばいいのか分かんなくて」
「だから話しかけるのよ」
「うーん……」
少し考えたあと、勇人は桜子へ向き直った。
「えっと……趣味とかある?」
「読書です」
桜子は淡々と答える。
「へぇ!」
勇人は明るく笑った。
「読書いいよね」
「俺、漫画しか読まない!」
「あっでも漫画も本だから同じじゃない?」
――。
――。
「あれ?違った?」
(今、将棋の対局でも始まった?)
三人の間には、それくらい長い沈黙が流れた。
真司は額に手を当てる。
「終わったわね」
「え?」
勇人は首をかしげた。
「会話が」
「え、なんで?」
「『どんな本を読むの?』とか、
『おすすめは?』とか聞くところでしょう」
「あっ……」 勇人は頭をかいた。
「そういうことか……!」
「なるほど!」
真司は深いため息をつく。
「今さら気付いたの?」
「姉ちゃんたち、いつも勝手に話してたからさ」
「だから女心が分からないって言われるのよ」
「じゃあ次は、しーちゃんの趣味ね」
桜子が尋ねると、真司は少し考えた。
「服を見ることかしら。デザインを考えるのも好きよ」
「それ、小学生の時にも聞いたよ」
「服のデザインをするのが好きって言ってたもんね」
「ええ。今も変わらず好きよ」
「へぇ、すごいな」
勇人が興味を示すと、真司は軽く肩をすくめた。
「まだ趣味みたいなものよ」
「しーちゃんがデザインした服、いつか見られるの楽しみにしてるね」
桜子が当たり前のように言う。
「……桜子は昔からそう言ってくれるわね」
真司は少しだけ嬉しそうに笑った。
「よし、真司の新しい一面も知れたことだし……じゃあ、俺もやり直していい?」
勇人がおそるおそる聞く。
真司は間髪入れず答えた。
「駄目です」
「えー?何で?一回勝負みたいになってるの?」
「そんなルールだった?」
勇人は慌てながら言った。
その姿に桜子は思わず吹き出す。
「ふふっ……」
「あっ」
笑ってしまったことに気付き、慌てて口元を押さえる。
勇人はその表情を見て、少しだけ嬉しそうに笑った。
「やっと笑ってくれた」
その一言に、桜子は少しだけ頬を赤くする。
「わ、笑ってないわ」
「いや、笑ってたよ」
「……気のせいだよ」
真司はそんな二人を見て、小さく笑った。
(桜子があんなに楽しそうに話すなんて……厄介ね)
まだ恋なんて程遠い。
けれど――。
最悪だった第一印象は、ほんの少しだけ変わり始めていた。




