第28話「初めての遊園地デート」
デート当日。
「お待たせ」
待ち合わせ場所へやって来た勇人に、桜子は慌てて首を振る。
「ううん、私も今来たところ」
本当は十分前から待っていた。
少しでも早く会いたくて、家を予定より早く出てしまったのだ。
勇人は桜子の姿を見ると、一瞬目を丸くした。 それから少し照れたように笑う。
淡いピンクのワンピースに、白いカーディガン。
肩には小さなショルダーバッグ。
いつもより少しだけ大人っぽい桜子に、思わず見惚れてしまう。
「……その服、すごく似合ってる」
「えっ……」
桜子の頬が一瞬で赤く染まる。
「……ありがとう」
照れながら小さく笑う桜子を見て、勇人もつられるように微笑んだ。
そして、少しためらいながら、さりげなく腕を差し出す。
「えっと……はぐれないように」
桜子は一瞬きょとんとしたあと、ふわっと笑った。
恥ずかしそうに勇人の腕へそっと手を回す。
「行こうか」
「うん!」
二人は並んで遊園地へ向かった。
入園すると、色とりどりのアトラクションが目に飛び込んでくる。
「わぁ……!」
桜子は子どものように目を輝かせた。
「何から乗る?」
「えっと……あれ!」
最初に乗ったのはコーヒーカップ。
「凄い回るよ」
「はははっ」
「回し過ぎだよ!」
勇人が勢いよくハンドルを回す。
「きゃっ、ちょっと待って!」
コーヒーカップはくるくると回り続ける。
降りる頃には、二人とも少しふらふらだった。
顔を見合わせると、思わず笑いが込み上げる。
「勇人回しすぎ!」
「桜子も楽しそうだっただろ?」
「それは……そうだけど」
二人は笑いながら次のアトラクションへ向かった。
しばらくして、大きなジェットコースターが現れた。
桜子の笑顔がぴたりと止まる。
「……これ?」
「苦手?」
「ちょっとだけ……」
「無理しなくてもいいぞ?」
桜子は少し考えたあと、小さく頷いた。
「でも、せっかくだから乗ってみたい」
「よし」
二人は席に座る。
ガタン。
ガタン。
ゆっくりと上へ登っていく。
「ゆ、勇人……」
「大丈夫だよ」
その言葉に少し安心した次の瞬間。
「きゃああああっ!」
勢いよく落下する。
桜子は思わず勇人の腕をぎゅっと掴んだ。
降りたあとも足が少し震えている。
「ご、ごめん……」
「なんで謝るんだよ」
勇人は優しく笑った。
「俺が乗りたそうにしてたから、合わせてくれたんだろ?」
桜子は少し驚いて目を瞬かせる。
「……うん」
「ありがとうな」
勇人は桜子の頭を優しくなでた。
「……っ」
その瞬間、桜子の頬は一気に赤く染まる。
「も、もう……」
「もうすぐ昼だし、お腹すいたろ?」
「うん、ちょっと」
勇人は園内マップを広げた。
「何食べたい?」
桜子は真剣な表情でパンフレットを見つめた。
「あっ、ここ!」
「洋食レストラン?」
「オムライス美味しそう」
「じゃあ決まりだな」
勇人は自然に桜子の手を握った。
「行こう」
「うん」
「いらっしゃいませ。二名様ですね」
窓際の席へ案内される。
メニューを見ながら二人で何を食べるか相談し、注文を済ませた。
しばらくして料理が運ばれてくる。
「いただきます」
「いただきます」
「はむっ」
「美味しい」
勇人も一口食べる。
「うん、なかなかいけるな」
食事をしながら、大学のことや好きな映画の話をする。
特別な話ではない。
それでも、一緒に笑っているだけで幸せだった。
「ごちそうさま」
桜子は財布を取り出した。
「私も払うよ」
勇人は首を横に振る。
「今日はデートだから、俺におごらせて」
桜子は照れくさそうに目をそらし、小さく微笑んだ。
「……ありがとう」
二人はレストランをあとにし、お土産ショップへ向かった。
「わぁ、可愛い」
桜子が立ち止まった先には、ハリネズミのグッズが並んでいた。
ぬいぐるみやキーホルダー、小さなマスコットまである。
勇人は少し嬉しそうに笑う。
「俺、ハリネズミ好きなんだ」
「知ってる」
勇人が驚いたように桜子を見る。
「覚えててくれたんだ」
「うん。好きなものくらい、ちゃんと覚えてるよ」
桜子は並んだハリネズミを眺めながら、ふふっと笑った。
「最近ね、ハリネズミを見ると勇人を思い出すの」
「俺?」
「うん。勇人に取ってもらったハリソンも部屋に飾ってあるし……」
「だからかな。前よりハリネズミが可愛く見える」
桜子は恥ずかしそうに言った。
「……それ、俺のこと好きすぎない?」
「っ……!」
桜子の頬が一気に赤くなる。
「もう! そういうこと言わないで!」
勇人は嬉しそうに笑いながら、並んだキーホルダーを一つ手に取った。
「じゃあ、これ。お揃いにしようか」
小さなハリネズミが笑っているキーホルダーだった。
桜子の表情がぱっと明るくなる。
「うん!」
答えてから、桜子はキーホルダーを手のひらに乗せて、嬉しそうに眺めた。
勇人と同じものを持てる。
それだけなのに、なんだか特別なものをもらったような気がした。
夕方になると、園内にイルミネーションが灯り始める。
「綺麗……」
色とりどりの光が二人を優しく照らす。
夜になると、パレードが始まった。
音楽に合わせて華やかなフロートが進み、キャラクターたちが手を振る。
桜子は目を輝かせながら見つめていた。
「すごい……」
「おとぎ話の世界に入ったみたい」
勇人はそんな桜子を見つめて微笑んだ。
「来てよかった」
パレードが終わると、二人は観覧車へ向かった。
ゆっくりとゴンドラが空へ昇っていく。
街の灯りが少しずつ遠くなっていく。
静かな空間。
二人だけの時間。
勇人が口を開く。
「今日は楽しかった?」
桜子は大きく頷いた。
「うん。今までで一番楽しかった」
勇人も嬉しそうに笑う。
「俺も」
少しだけ沈黙が流れる。
桜子は勇気を出して、そっと勇人の手に触れた。
勇人は驚いたように桜子を見る。
すぐに優しく握り返した。
指先から伝わる温もりに、桜子は幸せそうに微笑む。
「また来よう」 勇人が穏やかに言う。
桜子は嬉しそうに頷いた。
「うん。また二人で、この景色を見たいな」
観覧車はゆっくりと地上へ戻っていく。
出口を出ても、二人はどちらからともなく手をつないだままだった。 夜風が心地よく頬をなでる。
「今日は、本当に楽しかった」
桜子がそう言うと、勇人は優しく微笑み、繋いだ手をそっと握り返した。
離したくないと思えるほど心地よかった。
今日という一日は終わる。だけど、この思い出は、二人の新しい毎日の始まりになる。




