第29話「桜と和の大学フェス」
デートから数日後。
朝の陽射しがキャンパスを照らしていた。
桜子は勇人と並んで講義室へ向かっていた。
「おはよう」
「おはよう」
恋人になってから初めて交わす朝の挨拶。 それだけなのに、桜子の胸は少しだけ高鳴った。
いつもの通学路が少しだけ特別に感じられた。
お揃いのハリネズミのキーホルダーが、お互いのバッグで仲良く揺れている。
そこへ先生が入ってきた。
「おはようございます」
先生は教壇に立ち、教室を見回した。
「皆さん、今年の大学フェスについてお知らせがあります」
「今年は、少し違います」
「隣町に大型商業施設ができてから、駅前商店街のお客さんが減ってしまいました」
「そこで今年は、商店街を盛り上げる目的も兼ねて、大学と商店街が協力してフェスを開催します」
教室が静かになる。
「今年の大学フェスは、三年生が中心となって企画・運営を担当します」
「テーマは――『桜と和』です」
学生の一人が手を挙げた。
「桜と和……ですか? 具体的には、どんなことをするんですか?」
「浴衣ファッションショーや、和菓子と抹茶を楽しめる飲食ブース、
日本文化を体験できる企画などを予定しています」
教室がざわつく。
「浴衣ファッションショーでは、アメリカを拠点に活動している和服ブランド『ORIHANA』から、衣装を提供していただけることになりました」
「えっ、ORIHANAって、あの?」
何人かの視線が真司へ向かう。
真司は少し困ったように笑った。
「……父のブランドなんだ」
「しーちゃんのお父さんのブランドは、フォーマルだけじゃなくて、普段着も手掛けてるんだよ」
真司は照れくさそうに頭をかいた。 「……ちょっと恥ずかしいんだけど」
「へぇ、すごいね」
教室のあちこちから感心した声が上がった。
先生は頷き、話を続ける。
「飲食企画では、商店街の和菓子店にも協力していただく予定です」
「この街は桜並木が有名ですから、それにちなんだ限定和菓子を皆さんに考えてもらう予定です」
その言葉に、桜子の表情がわずかに明るくなった。
「それでは、希望する企画ごとに分かれてもらいます。希望する企画を決めた人から、移動してください」
桜子は迷うことなく、和菓子企画の方へ視線を向けた。
「……やってみたい」
思わず小さく声が漏れた。
「俺も和菓子に興味あるし」勇人は笑って桜子の隣へ並んだ。
その想いを胸に、ゆっくりと一歩を踏み出した。




