第26話「ずっと、伝えたかった。」
(今日こそ桜子に気持ちを伝える。)
そう決めて送ったメッセージ『話したいことがある』
約束の時間。 勇人は公園で桜子を待っていた。
しばらくして、小さく駆け寄る足音が聞こえた。
「勇人!」
桜子が笑顔で手を振る。
「待った?」
「全然待ってないよ」
勇人も自然と笑みを浮かべた。
二人は並んで歩き始める。
少しだけ沈黙。
勇人は足を止めた。
「桜子」
「うん?」
「話ってなに」
桜子は静かに勇人を見つめる。
その肩が、ぴくりと小さく揺れた。
勇人は小さく息を吸った。
「初めて見たときから目が離せなかった」
勇人の声に力が入る。
「ずっと一緒にいたい」
桜子は何か言おうと口を開きかけて、また閉じた。
「俺と付き合ってほしい」
桜子の瞳が揺れた。
「……うん」
「私も勇人が好き」
桜子はそっと胸に手を当てた。
(好きな人がいるって、こんなに嬉しいんだ……)
勇人を好きにならなかったら、きっと知らないままだった。
心臓が痛いくらい早く動いている。
その一言だけで十分だった。
勇人の張り詰めていた気持ちが、ふっとほどける。
勇人は安心したように笑った。
「よかった……」
桜子もつられて笑う。
「そんなに緊張してたの?」
「めちゃくちゃ」
「ふふっ」
二人は顔を見合わせて笑った。
「そういえば」
「お腹空いたね」
「そうだな」
「ハンバーガー食べに行こ?」
「賛成」
近くのハンバーガーショップへ入り、窓際の席に座る。
注文したハンバーガーが運ばれてきた。
「いただきます」
「いただきます」
勇人は大きく一口かじる。
桜子は幸せそうに、ハンバーガーを食べている。
「あむっ」「美味しいね」
「だな」
(あんなに嬉しそうに食べて可愛いな)
「勇人、口元にソースついてるよ」
桜子はじっと勇人の口元を見つめた。
「どこ?」
(……近い。)
勇人の胸がどきりと高鳴った。
「ここ」
桜子がそっと顔を近づける。
ペーパーナプキンが口元に触れる。
あまりの近さに、勇人の鼓動がまた少し速くなった。
「あっありがとう」
勇人も思わず笑う。
「うん」
「ふふっ」
さっきまでの緊張が嘘みたいに消えていく。
そんな穏やかな時間が心地よかった。
食べ終えて店を出る。
夕方の風が二人の間を通り抜ける。
勇人は少しだけ照れながら手を差し出した。
「……その」
「手、つなぐ?」
桜子は少し驚いたあと、嬉しそうに笑う。
「うん」
そっと手を重ねる。
指先から伝わる温もり。
勇人は少し照れくさそうに笑った。
「なんか、照れるな」
「私も」「勇人の手大きいね」
「そうか?」「当たり前だけどさ」
二人は顔を見合わせて笑う。
「そろそろ帰るか?」
桜子は勇人の服の袖をそっとつかんだ。
「……まだ、帰りたくない」
勇人は少し目を丸くする。
「……わかった」
「じゃあ、もう少しだけ」
二人は遊歩道のベンチに腰を下ろした。
川面に街灯の明かりが揺れている。
「夜になると、綺麗だな」
「ここ、いつも通るのに」
「今日は違って見えるね」
桜子は髪を耳に掛けながら、静かに川を眺めた。
「寒くない?」
「うん、大丈夫」
二人は静かな遊歩道を眺める。
「……静かだね」
「そうだな」
勇人が桜子を見つめる。
桜子も見つめ返した。
「キスしてもいい?」
「えっ……」 「うん」
桜子は少し恥ずかしそうに目を閉じた。
唇がそっと重なる。 柔らかな温もりが伝わる。 一瞬なのに、胸がいっぱいになる。
桜子は思わず勇人の手をぎゅっと握った。
お互いに近い距離のまま見つめ合う。
「勇人、顔赤いよ」
桜子は照れたように笑う。
「桜子だって赤くなってる」
一瞬見つめ合ってから、 二人は思わず笑った。
少しだけ沈黙が流れる。
勇人はそっと桜子の髪に触れた。
桜子は潤んだ瞳で勇人を見つめた。
勇人は照れ笑いを浮かべた。
「……その顔、反則だろ」
「……もう一回、いい?」
桜子は小さく頷く。 「うん」
勇人は桜子の手を離さないように握ったまま、そっと引き寄せる。
もう一度、そっと唇を重ねた。
「そろそろ帰ろうか」
「……うん」
手をつないだまま駅まで歩く。
別れ際。
勇人が少し名残惜しそうに笑う。
「また、連絡するから」
「うん」
「今度はちゃんとデートしよう」
「ふふっ、今日もデートだったじゃん」
「今日は告白で頭いっぱいだったから」
「次はもっと楽しませる」
桜子は嬉しそうに笑う。
「楽しみにしてる」
二人はもう一度だけ手を振って、それぞれの帰り道へ歩き出した。




