第22話「答えを急がないで」
勇人はカップを両手で包みながら、小さく息を吐く。
「俺、一人で答えを決めつけてる気がして」
BAR Lampには、穏やかな音楽が流れていた。
夜空は静かに頷いた。
「話してごらん」
勇人はゆっくりと口を開く。
大学イベントのこと。
桜子が酔って真司くんに寄りかかっていたこと。
安心したような笑顔。
そこから距離を置き始めたこと。
今日、桜子に呼び止められたこと。
神谷先生の『思い込み』という言葉。
黒田先生の『結果だけで判断するのは危険』という話。
全部を話し終える頃には、コーヒーから立ち上る湯気も少しだけ薄くなっていた。
夜空はしばらく黙っていた。
そして、静かに笑う。
「勇人」
「カクテルって、不思議なんだ」
勇人は顔を上げる。
「同じ材料でも、分量や順番が少し違うだけで、まったく別の味になる」
「途中を見ずに、最後の一口だけ飲んで『この味だ』って決めることはできない」
勇人は黙って聞いていた。
「人の気持ちも、少し似てると思うんだ」
「一つの場面だけで、本当の気持ちまでは分からない」
勇人はカップへ視線を落とす。
「……でも」
「桜子は、あんな安心した顔をしてた」
夜空は優しく頷いた。
「そうだね」
「それも、一つの事実だ」
「でも、それだけが全部とは限らない」
静かな沈黙が流れる。
夜空はコーヒー豆を挽きながら続けた。
「人はね」
「新しい景色を見せてくれる相手を、特別に感じることがある」
勇人は夜空を見る。
「初めて見る景色や経験」
「そういう時間は、心に残るものだからね」
勇人の胸が小さく揺れた。
桜子と一緒に行ったバーガーショップ、ゲームセンター、ショッピングモール。
三人で笑い合った帰り道。
BAR Lampで過ごした時間。
何気ない毎日。
その一つ一つが頭に浮かんでくる。
「だからね」
夜空は穏やかに笑った。
「焦って答えを出さなくてもいい」
「本当の答えは、ちゃんと本人の口から聞くのが一番だから」
勇人は静かに目を閉じた。
(俺は、答えを聞くのが怖くて、桜子を傷付けてしまったかもしれない。)
しばらくして、勇人は言った。
「蓮さん」
「ありがとう」
夜空も穏やかに笑った。
「少し顔が明るくなったね」
ほっとしたように頷く。
「よかった」
「いつでも話を聞くよ」
勇人はカップに残った最後の一口を飲み干す。
「また飲みに来るよ」
夜空も笑う。
「ああ、いつでも待ってる」
勇人は店を出ると、星のない空を見上げた。
次に会ったら、今度こそ桜子の言葉を聞こう。 そう心に決めて、ゆっくりと歩き出した。




