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『第一印象、マイナス100点。 ―最悪な出会いが、最高の出会いになるまでの物語。』  作者: 季波


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19/30

第19話「分かってないのは、誰?」

「あの」

「神谷先生」



「勝木さん、どうしました?」



「あの……少し聞いてもいいですか?」



「もちろんいいですよ」



真司は少し迷ってから、口を開いた。



「家族みたいに大切に思う『好き』と、恋愛の『好き』って……やっぱり違うものなんですか?」



神谷先生は少し意外そうに真司を見た。

「難しい質問ですね」



「私は……家族みたいに大切に思う『好き』も、誰かを愛している『好き』も、同じものだと思ってたんです」



真司は視線を落とす。



「大切で、ずっとそばにいたいって思う気持ちに、違いなんてないと思ってたから」

「でも……違う人もいるのかなって」



神谷先生は穏やかに微笑んだ。



「そうですね。人によって、『好き』という気持ちの捉え方は違います」



「心理学を学べば、人の心を理解するためのヒントは得られると思います」



「でも――誰かを好きになる気持ちに、ひとつの正解があるわけではありません」



「……正解」



「家族のように大切に思う人が、恋愛の相手になることもあります。ならないこともあります」



「それを決めるのは、心理学ではなく、その人自身の気持ちです」



真司は黙った。



桜子の顔が浮かぶ。

そして――勇人の顔も。



ずっと好きだった。

簡単に諦められるはずなんてなかった。



「ありがとうございます」

真司は小さく頭を下げ、その場を離れた。



校舎を出ると、少し先を歩く勇人の姿が見えた。

一人だった。



真司はその背中を見つめる。



桜子を好きな気持ちは。

そんなに簡単に、手放せるものではなかった。



その答えを、真司はまだうまく言葉にできなかった。



「勇人」

後ろから声をかける。



勇人が振り返った。



真司はまっすぐ勇人を見つめる。



「少し、話せる?」



勇人は一瞬だけ驚いたあと、小さく頷いた。



「……あぁ」

二人は人気の少ない中庭へ歩いていった。

しばらく沈黙が続く。



先に口を開いたのは真司だった。

「昨日のこと、気にしてるんでしょう?」



勇人は苦笑した。

「分かるか」



「ああ」

再び静かな沈黙が流れた。



勇人は空を見上げる。

「昨日さ、桜子がお前に寄りかかってただろ」



真司は何も言わない。



「見ていて思ったんだ」

「やっぱり、お前なんだなって」



夕焼けの風が二人の間を吹き抜ける。



「俺が入り込める場所じゃない」



真司はゆっくり首を横に振った。

「違う」



「違わない」

勇人は寂しそうに笑う。

「桜子、すごく安心した顔してた」

「俺じゃ、あんな顔にはならない」



真司は勇人を真っすぐ見つめた。

「桜子は恋愛感情で寄りかかったわけじゃない」

「幼い頃から一緒だった私だから、安心して甘えただけ」

「桜子自身も、そう言ってた」



(……分かってる。)

(桜子が私に向けてくれる『好き』と、恋愛の『好き』は違う。)

真司は一度、言葉を飲み込んだ。



けれど、寂しそうにしていた桜子の顔が浮かんだ。

「だから……」

真司は少し迷ってから、口を開いた。

「あんたが勝手に身を引く必要なんて……ないのよ」



勇人は少しだけ目を伏せた。

「でも」

「本人も気づいてない気持ちって、あるんじゃないかって」

「俺には、そう見えた」



「だから」

「少し距離を置いたほうがいいと思った」



真司の表情が曇る。

「勇人」

「それは違うんだ」



「いや」

「桜子は何も分かってないよ」

勇人は穏やかに笑った。

「……俺さ」

「もしかしたら」

「ずっと邪魔してたのかもしれない」



「だから違うって言ってんだろ」

思わず真司は、勇人の胸ぐらをつかんだ。

自分でも感情より先に、こんな行動を取ることに驚いた。



「離せよ」



「お前何もわかってないだろ?」



「うるせぇな」

勇人は苦しそうに眉を寄せた。

「わかってないのは、真司だろ」

(好きな人が幸せなら、それを受け入れてやるもんだろ)



「俺はわかってるよ」

「だから、こんなに……」

真司は顔を歪め、勇人の胸ぐらから手を離した。



「桜子を泣かせるようなことだけは、するなよな」



それだけ言い残し、真司は去っていった。


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