第18話「同じ『好き』じゃない」
大学の正門前で、桜子はいつものように手を振った。
「おはよう!」
「おはよう」
真司が微笑む。
少し遅れて、勇人もやって来た。
「おはよ」
いつもと変わらない挨拶。
……のはずだった。
「あっ、勇人! 昨日はごめんね」
「私、酔っぱらっちゃったみたいで……」
「昨日?」
「ほら、BARで」
勇人は少しだけ目を逸らして笑った。
「別に。」
「気にしなくていいよ」
その笑顔は優しかった。
だけど、どこか距離を感じた。
(……あれ?)
桜子は小さく首をかしげる。
(なんか変……?)
講義が終わり、昼休みになる。
「二人とも、学食行こう!」
桜子が笑顔で言うと、勇人はバッグを肩に掛けた。
「悪い」
「今日はやることあるから」
「えっ?」
「先に行ってて」
そう言うと、そのまま教室を出て行ってしまった。
桜子は勇人の後ろ姿を見つめた。
「どうしたんだろう……」
「私はしーちゃんのこと、家族みたいに思って接してた……」
「それが誤解されたのかな……」
「……家族、か」
真司が小さく呟いた。
「え?」
「ううん、なんでもない」
真司は笑ってみせた。
けれど、胸の奥が少しだけ痛んだ。
昨日、桜子を抱きしめた時。
もしかしたら――と。
ほんの少しだけ、期待してしまった。
ずっと好きだった。
子どもの頃から、ずっと。
けれど桜子にとって、自分は家族なのだ。
分かっていたはずなのに。
改めて言葉にされると、思っていたよりも苦しかった。
それでも、そんな気持ちを桜子に悟られたくなくて。
真司はいつものように微笑んだ。
「ほら、早く食べないと冷めちゃうわ。」
「冷めないうちに頂きましょう」
「うん」
「いただきます」
桜子は、静かにシチューを口に運んだ。
真司もパンを手に取った。
けれど、桜子の言葉が頭から離れなかった。
(私が桜子に抱いてる『好き』とは、違う)
(愛情にも種類があるってことなのかしら)
真司は考え込んだ。
翌朝。
桜子はいつものように正門で待っていた。
「今日は勇人まだ来ないのかな。」
真司は時計を見る。
「もう少ししたら来るんじゃない?」
(……やっぱり。勇人のこと、ずっと気にしてる。)
数分後。
勇人は一人で校舎へ向かって歩いてきた。
「あっ、勇人!」
桜子が手を振る。
勇人も笑顔を返した。
「おはよう」
「おはよう!」
「一緒に行こう!」
桜子が駆け寄る。
勇人は少しだけ足を止めた。
「ごめん」
「先生に呼ばれてるんだ」
「先に行ってて」
「そっか」「わかった」
桜子は少し寂しそうに笑った。
「またあとでね」
「ああ」
勇人は軽く手を振る。
その背中を見送りながら、桜子は小さくつぶやいた。
「最近、勇人忙しいね……」
(……なんだろう。少しだけ遠い気がする。)
それから季節が少し進んでいた。
「ねぇ、桜子」
「ここのショップの新作アイテム、可愛かったよね」
真司はファッション誌を広げて言った。
桜子はぼんやりと誌面を見つめたまま、返事をしない。
「ちょっと、聞いてる?」
「あっ、ごめん」
「何だっけ?」
「はぁ……大丈夫よ」
真司は、そんな桜子を静かに見つめた。
(勇人といた時の笑顔は、私じゃ引き出せないのね)
(桜子には、笑っていてほしいのに)
真司はずっと、桜子のことが大切だった。
桜子も、自分のことを大切に思ってくれている。
それは今も変わらない。
だけど――。
(でも、桜子にとっては……違うのかな)
(私に向けてくれる『好き』と、勇人に向けている『好き』は――)
(やっぱり同じじゃないのかしら)
真司は小さく息を吐いた。
そして、ふと顔を上げる。
その視線の先には、神谷先生の姿があった。
「あの」
「神谷先生」
「勝木さん。どうしました?」
「あの……少し聞いてもいいですか?」




