第17話「心を許す相手」
大学イベントが終わり、夕焼けに染まるキャンパスを三人は並んで歩いていた。
「楽しかったね!」
桜子は満足そうに笑う。
「思ったより疲れたけどな」
勇人は肩を回しながら笑った。
真司も二人を見て微笑む。
「せっかくだし、少し寄って帰る?」
「どこ行く?」
勇人が尋ねる。
「BAR Lampとか?」
桜子は目を輝かせた。
「やった! また行けるんだ!」
「じゃあ決まりだな」
勇人も笑った。
三人はBAR Lampの扉を開ける。
カラン、と小さなベルが鳴る。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうで、夜空が優しく微笑んだ。
「また三人で来てくれたんだ。」
「今日は大学イベントだったの」 桜子が嬉しそうに答える。
夜空は穏やかに笑う。
「キッチンカーや物づくり体験、それに企業との交流企画なんかがあるイベントだよ。毎年、協力してくれる企業や団体が変わるから、内容も少しずつ違うんだよね」
「そうなの!」
「すごく楽しかった!」
「それは何よりだ。」
「今日は何を飲む?」
三人はメニューを見つめる。
「種類がたくさんあるね」
「どうしようかな」
夜空はそんな三人を見て微笑んだ。
「何を飲もうか迷ってる顔だね。」
「よかったら最初の一杯は俺に任せてみる?」
「おすすめってこと?」
勇人が尋ねる。
「ああ」
「三人に合いそうなのを作るよ」
「三人はお酒でいい?」
「私はノンアルコールで。」
「今日は飲まないわ。」
「わかった。少し待ってて」
「お願いします!」 桜子は楽しそうに頷いた。
しばらくすると、色鮮やかなグラスが三人の前に並ぶ。
「桜子さんは飲みやすいように度数は控えめ」
「勇人はさっぱりした味」
「真司くんは香りを楽しめる一杯」
「ありがとう」
三人はグラスを手に取る。
「大学イベント、お疲れ!」
「乾杯!」
グラスが軽やかな音を立てた。
桜子は一口飲むと、ぱっと笑顔になる。
「美味しい!」
「お酒ってこんなに飲みやすいんだ」
その笑顔を見て、勇人も真司も自然と笑みをこぼした。
夜空はそんな三人を眺めながら、小さく微笑んでいた。
「えへへ……。」
「蓮しゃん、もう一杯……」
桜子は少し赤くなった頬で笑う。
「桜子飲み過ぎ」「今日はここまでよ」
「あっ」 「しーちゃん♥」 そう呼びながら、真司の腕にそっと寄りかかった。
真司は少し驚く。
「桜子」
「今日は少し飲みすぎたわね」
真司は桜子の体をそっと支え、そのまま優しく頭を撫でた。
桜子は安心したように笑う。
「しーちゃん、やさしい……」
その笑顔を見た瞬間。
真司の表情が変わる。
優しい笑顔ではない。
桜子だけに向ける、一人の男の顔だった。
そして、小さく呟く。
「……そんな顔、他の男に見せんなよ」
勇人は、その表情を初めて見た。
(……。)
真司は小さくため息をつく。
「……もう、仕方ないわね」
「今日は私が送っていくわ」
「二人とも、気をつけて帰るんだよ」 「またゆっくり飲みにおいで」
夜空は苦笑しながらグラスを片付ける。
勇人は一瞬だけ口を開きかけた。
「……俺が」
その言葉は最後まで出なかった。
桜子は真司の腕に寄りかかったまま、安心したように笑っている。
(俺が送る、なんて言えないよな。)
真司は桜子を支えながら立ち上がる。
「じゃあ、行きましょう」
「うん……しーちゃん」
「蓮しゃん、勇人……またねぇ」
ふと、夜空の言葉が頭をよぎる。
『酒に酔うと、人は理性が少し緩む。だから、心を許している相手には、自然と甘えてしまうことがあるんだ。』
(心を許してる相手……。)
(胸の奥が、少しだけ痛んだ。)
(……そうか。)
(桜子が本当に安心できるのは、真司なんだ。)
勇人は静かに目を伏せた。




