第15話「好きのサイン」
翌日。
講義が終わると、三人はいつものように教室を出た。
「今日は暑いね」
桜子が手をかざして空を見上げた。
「本当だな」
勇人は笑いながら歩き出す。
真司もその隣を歩きながら、昨夜の夜空との会話を思い出していた。
――恋をしたら、誰だって少しはらしくなくなるさ。
(……そうなのかもしれないわね。)
そんなことを考えていると、桜子が小さく立ち止まった。
「あっ」
「どうした?」
勇人がすぐに振り返る。
「講義室にノート忘れてきちゃった」
「取ってくるね」
桜子が戻ろうとすると、勇人はすぐに首を振った。
「いいよ。」
「え?」
「俺が取ってくる」 「結構距離あるし、俺が行ったほうが早いよ」 そう言うと、返事を待たずに駆け出していく。
「勇人!」「あっ、行っちゃった」
桜子が慌てて呼ぶが、勇人は笑って手を振るだけだった。
その背中を見送りながら、真司は静かに目を細める。
(こういう人なのね。)
(桜子のことになると、迷わない。) (でも……。)
少しして戻ってきた勇人は、ノートを桜子へ差し出した。
「はい」
「ありがとう!」 「助かっちゃった」
桜子は嬉しそうに笑う。
(今日は本当に暑かったから。)
(勇人がいてくれてよかった。)
勇人は少し照れくさそうに頭をかく。 「そんな大したことじゃないって」
(勇人が桜子を見た瞬間の顔を、私は今でも覚えている。)
桜子はノートを抱えながら、嬉しそうに笑う。
「勇人って、いつも言葉より先に動いてくれるよね」
その笑顔を見た瞬間、勇人も自然と笑っていた。
作った笑顔ではない。 心から安心したような笑顔だった。
(……やっぱり。)
(でも、今は違う。)
(あの頃とは比べものにならないくらい、その想いは深くなっている。)
真司も微笑む。 「そうね」
口では笑っている。
けれど胸の奥は、少しだけ痛かった。
(桜子。)
(あなたは、まだ気付いてない。)
(勇人の優しさは、誰にでも向ける優しさじゃない。)
(全部、あなたに向いているのよ。)
桜子は何も知らず、勇人と笑い合っている。
(二人とも、本当に鈍いんだから。)
真司は苦笑しながら、小さく空を見上げた。
「そういえば、明日から大学イベントだったね」
真司が思い出したように言う。
「今年は結構規模が大きいらしい」
「楽しみ!」 桜子は満面の笑みを浮かべた。
勇人も、その笑顔につられるように笑った。




