第11話「初めてがいっぱい
講義が終わり、三人は大学を出た。
勇人が大きく伸びをする。
「今日は午前で終わりか」
真司が笑う。
「せっかくだし、駅前のショッピングモールでも寄っていかない?」
「いいね」
勇人が頷く。
桜子も嬉しそうに微笑んだ。
「行ってみたい」
三人は並んでショッピングモールへ向かう。
「花屋だ」 「入っていい?」
二人はいいよと頷いた。
店内へ入ると、桜子はふと足を止めた。
色とりどりの花が並び、優しい香りが漂っている。
桜子は一輪の小さな花を見つめた。
「この花、可愛い」
色鮮やかな花々の中で、小さなスズランが静かに咲いていた。
勇人が隣から覗き込む。
「そっち? あっちのバラの方が目立つけど」
桜子は小さく首を振る。
「お母さんがね、どんな花でも、周りの花を上手に生ければ、その花の良さがちゃんと伝わるって教えてくれたの」
「だから私は、どの花も好き」
「桜子の考え方って、お母さんの教えなのね」
「花言葉もあるのかしら」
真司は優しく微笑み、スマホを取り出した。
「ちょっと待って」
「スズランの花言葉は『幸福の再来』ですって」
「ふふっ」
「素敵だね」
桜子は嬉しそうに笑った。
勇人は花ではなく、花を見つめる桜子へ目を向けた。
(こういうところが可愛いんだよな。)
花屋をあとにすると、今度はゲームセンターから賑やかな音楽が聞こえてきた。
「あ」
勇人が立ち止まる。
「ハリネズミだ」
クレーンゲームの中には、丸いハリネズミのぬいぐるみが並んでいた。
桜子は目を輝かせた。
「可愛い……」
「あの中に入ってる」
「なんだか、救出したくなる」
真司がくすっと笑う。
「救出って」
「勇人、好きそうね」
「好きだけど」
勇人は思わず笑った。
「よし、救出するか」
勇人はクレーンゲームの前に立つ。
真司が腕を組む。
「失敗したら笑うわよ」
「しねぇって」
勇人は真剣な表情でレバーを動かした。
最後にアームがぬいぐるみを持ち上げ――。
コトン。
見事に取り出し口へ落ちた。
「やったぁ!」「凄い!!」
桜子がぱっと笑顔になる。
「はい。」 勇人は少し照れくさそうにぬいぐるみを差し出した。
「ありがとう」
「この子、外に出られたね」
「名前は?」
勇人は少し考えて答えた。
「ハリソン」
真司は吹き出す。
「急に洋風なのね」
「なんとなく似合うだろ」
桜子はぬいぐるみを見つめ、ふわりと笑う。 「ハリソン」 「よろしくね」
そう言って、ぬいぐるみを大事そうに胸へ抱きしめた。
勇人は思わず頬を緩める。 「そんな顔されたら、取った甲斐があるな」
ゲームセンターを出る頃には、少し歩き疲れていた。
真司が周りを見渡す。
「何か飲まない?」
勇人が近くの店を指差す。
「タピオカあるぞ」
桜子は首をかしげた。
「タピオカ?」
「飲んだことないの?」
「うん」
真司は微笑んだ。
「せっかくだし、飲んでみよう」
三人はそれぞれ飲み物を受け取った。
桜子は恐る恐る太いストローを口に運ぶ。
勢いよく吸った瞬間――。
「んっ!?」
「ごほっ、ごほっ!」
勇人が慌てる。
「大丈夫か!?」
真司は思わず吹き出した。
「勢いよく吸いすぎなのよ」
桜子は目を丸くする。
「急に丸いのが口の中に飛び込んできた……」 「何これ?」
勇人は笑う。
「だから、それがタピオカだって」
「これが……タピオカ?」
真司はくすっと笑った。
「最初はみんなびっくりするのよ」
桜子はストローを見つめ、少しだけ頬を膨らませた。
「びっくりした……」
三人は顔を見合わせ、思わず笑い合った。
桜子は辺りを見回した。
「あっ、まだ行ってないお店がある」
「もう少し見てもいい?」




