08話 任せたよ(※浴乃視点)
……知らない天井だ。
目を開けると、白いカーテンに囲まれた部屋。そこのベッドで、私は寝ているようだった。
どこかの病床みたいな仕切られたスペース。
ここはどこなのでしょう?
どこか病院に運ばれたのかしら……。
周りを見渡すために、ベッドから起き上がろうとした瞬間、違和感に気付いた。
「……!?」
起き上がろうとしても身体に力が入らない……。
一体何が起きたっていうの……。
横を向くために寝返りをしようとしても、それもできない。
どうしてなの。私はどうしちゃったんだっけ……。なにが起きたか、ゆっくり思い出そう……。
たしか、滉斗くんを追いかけてて。お姉ちゃんのことを止めてもらおうと、お姉ちゃんのやってきたことを打ち明けようと思って……。
「だーかーらー!! 男子が保健室に入ってくるなっていうの! 面会なんてダメに決まってるでしょ? まず寝顔を見られたくないでしょう! あと、寝てる子に何をしでかすのかわからないじゃない!」
「僕は何もしませんって。何とかお願いします。浴乃さんが無事なのかを確かめてからじゃないと戻れないです!」
力ーテンの外から、滉斗くんの声が聞こえる。そうか、私はさっきまでサウナにいて……。
「……滉斗くん……」
かろうじて声が出たけど、これじゃあ聞こえない……。
外では口論が続いている。
「これ以上無理やり入って来ようとするなら、訴えるぞ?」
「それでもいいですよ! 僕はもう訴えられてるようなものなので!!」
なんだか強い口調の滉斗くん……。私がサウナ室で倒れちゃったから来てくれたんだ……。
こんなにも一生懸命になってくれてる。私なんて、どっちつかずで滉斗くんを嵌めちゃったりしたのに……。
「ちょっとちょっと!! ダメだって言ってるでしょ! 本当に警察呼びますよ?!」
段々と足音が近づいてくる。
カーテンの前で止まると、すぐにカーテンが開けられる。そこに立っているのは険しい顔をした滉斗くん。私を見ると、パッと明るい顔に変わった。
「浴乃さん! 意識が戻りましたか?」
「……うん」
「良かったです! 本当、倒れた時はどうなる事かと思ったんですよ」
なんだか、サウナにいた時よりも、喋り方が清々しい気がする。何か憑物が落ちたような雰囲気を感じる。
滉斗くんは私の手を取り言ってくる。
「僕は、この学園でやるべきことを見つけました!」
目を輝かせて力強く宣言してくる。
「何にもできない僕ですけど、サウナでこの学園を更生して見せます」
「……サウナで?」
よくわからないけど、なんでサウナなのかな?
私がお願いした「お姉ちゃんを止めて欲しい」っていう願いを聞き入れてくれての回答が、それ……?
問い詰めたい気持ちもあるけれども、滉斗くんは輝く瞳のまま自分の主張を続けてくる。
「話してもらったことも解決したいと思うんです。けど、久しぶりにサウナに入って。この学園の人たちにサウナを楽しんでもらいたいって、そう思いました」
決心したような滉斗くんは、力の入らない私の手をギュッと握る。
「浴乃さんも、きっとサウナだからこそ、すべてを話してくれたと思うんです」
「そ、そうなのかな……?」
私自身はあまり感じていなかったのだけれども、サウナにはそういう効果もあるのかもしれないのかな……?
ちょっと思っていた方向とは違う気もするし、疑問に思うことは多々あるけれども、滉斗くんの様子はたくましく思えた。この人にならこの学園、お姉ちゃんのことを任せられるかもしれないかな。
「サウナには、人の心を開放する力があるんです」
「そうなのかな……?」
滉斗君は、ギュッと私の手を握ってくる。それは、私が騙そうとして握っていた時のおどおどした手とはまるで違っていた。力強い意思がこもっている。
「僕は、サウナからこの学園を綺麗にしてみせます! サウナで老廃物を出しつくように、この学園の悪い部分を全て流し出して、綺麗に整えます!」
滉斗くんの真っすぐした決意が見える。滉斗くんも、サウナによって悪い部分が流れ出たのかもしれない。元々は、この学園に対する負の気持ちがあったかはわからないけれども、一切の迷いがなくなっている。この学園もお姉ちゃんも、どうしようもない状況だったけど、小さな希望に賭けてみてよかったかもしれない。
この人なら、本当にお姉ちゃんを救ってくれるかもしれない。
滉斗くんは、真っすぐに私を見つめてくる。
「お姉さんが、どんなことをしてこの学園を守っていたかはわからないです。どんな思いなのかも、どれだけ苦労しているのかも。何にもわからないです。けど、学園や生徒たちを守りたいという気持ちは伝わってます。どんな手を使ってでも、学園を守ろうという姿勢。それはそれで、素晴らしいことだと……」
滉斗くんが熱く語っているところを、保健委員が止めに入ってくる。
「だから、男子はダメだったんだって!」
「浴乃さんが迷惑がってるでしょ!?」
「それも保健室で五月蠅くしやがって、早く出てけーー!!」
保健委員が仲間を連れて来たのだろう。数人がかりで滉斗くんを私から引きはがして、保健室の外へと追いやる。
「滉斗くんって、あんなに熱かったんだ……」
誰もいなくなった保健室でつぶやく。
滉斗くんに触れていた両手が熱を帯びてしまっている。自分だけじゃなくて、人の気持ちも熱くしてくれるような、そんな人なのかもしれないな……。
本当にどうにかなるのかもしれないと、希望を与えてくれたかも……。
「滉斗くん、任せたよ……」
保健委員たちが文句を言いながら戻ってくる。眉間の皺を見合わせている。
「本当、男子って何考えているかわかんないよね」
「サウナの何がいいんだっての! 暑いだけじゃん!」
「浴乃さん、騒がしくなってごめんなさい。もう少し休んでいってね」
保健委員のこんな表情を見るのも初めてかもしれない。今までが平和だっただけに。
滉斗君が来て、何かが変わっていこうとしているのかな。
「……期待して待ってるぞ。滉斗くん」




