07話 止めて欲しい
「会長を止めるってどういうことですか……?」
サウナの熱で、はぁはぁと息を切らせている浴乃さん。身体が強そうな方ではない。長い時間サウナにはいられないだろう。それでも、この場で伝えてこようとしてくる。
「お姉ちゃんは、学園の経営を回しきれていないの。それなのに、無理やりにでも、この学園を維持しようとしてる……」
「それは経営者として、立派な事なんじゃないですか?」
「いえ、私のお姉ちゃんは、危ないことにも手を出し始めてて……。私からすれば、立派な犯罪です……。だから、お姉ちゃんを止めて欲しいの」
「会長は、一体なにをしてるんですか……?」
聞いてはみたものの、浴乃さんは首を横に振った。さすがに言えないくらい危ないことなのだろう。
そう言われると、会長のことが悪い人に思えてきたな。鋭い目付きで威嚇するように睨んできた顔が脳裏をよぎる。
僕をサウナに閉じ込めるようなことをするのだから、もちろんそれ以上に酷いことをしているのだろう。
「私は、お姉ちゃんに経営者になって欲しくないんです。あんなに苦しんだ顔をするのなら、この学園なんて……」
「そうなんですね。僕にできることなら協力したいけど……」
こうやって一生懸命話に来てくれる浴乃さん。お姉さん相当思いなのだろう。僕も協力したいけれども、僕に出来ることなんてたかが知れてるし……。
「いっそのこと、この学園なんて売り払ってしまえばいいんです」
「それはそうかもしれないですけど、そう簡単な話じゃ……」
「……暑い……」
長いこと話を聞き過ぎてしまったかもしれない。時計を見ていなかったけど、浴乃さんはもう限界だ。今にも意識が飛んでしまいそうな表情を浮かべている。
かろうじて座れているけれども、上半身がフラフラして今にも倒れてしまいそうだ。目も虚ろになってきて、これ以上ここで話しをするのは危険だ。とりあえず、外へ連れ出さないと……。
ただ、身体に触れるのは、また新たな罪を重ねることになりそうだけれども……。……けど、そんなことを考えてる時間は無い。
「あの、良ければ、僕の肩を使ってください。一旦外へ出ましょう」
僕の申し出に、浴乃さんは俯いてしまう。
「……私にそんなことしていいんですか? また騙そうとしているかもしれないですよ?」
「僕は貴方に一度騙されました。けど、今は違うと信じてます。二人きりになるためにこんなところに来て、こんなに辛そうな顔をしてまで伝えてくれて……。人命優先です!」
僕は無理やり、浴乃さんの肩を自分の首へ回した。胸のふくらみがバスタオル越しに僕の身体へと当たる。傍から見れば、強引な痴漢行為だろう。
「あ、あの、ごめんなさい……! 身体が当たってしまうのは、不可抗力と思ってください」
「……はい」
浴乃さんの身体を支えて、サウナの外へと出す。サウナ外、浴室には数人の女がいるようで、キャっと小さく悲鳴を上げた。
しかし、浴乃さんのぐったりした様子を見て声を飲み込んだ。
「急病人ですので、急いでいます。僕は何も見ないですので、通させて下さい」
「はい!」
ずっと僕のことを蔑んで見ていた女子の目が少し和らいだ気がした。バスタオルを巻いた一人の女子が、先に脱衣所へと入っていき、大声で注意を促してくれた。
「今から急病人が来ますので、服を着てください。救命係の男の人が来ますので、注意してください!」
とてもありがたい。この学園の女子たちは、基本的には良いお嬢様だろう。ただ、自分たちの領域に来た男子に対して、敵対心を抱いてしまっただけかもしれない。
自分たちを助ける意思があると分かれば、しっかりと協力してくれる。脱衣場の女子が大声でこちらへ教えてくれる。
「女子はもういないです。こちらへお願いします!」
「ありがとうございます」
脱衣所につくと、新しくバスタオルを引いてくれていたので、そこへ浴乃さんを寝かせる。
「大丈夫ですか、意識はありますか?」
「……はい」
応急処置、僕はそれを心得ていた。過去に経験済みだ。
「手に力は入りますか? 手を握って開いてと動かしてみてください」
力無く落ちる浴乃さんの手。
これは、明らかに力が入っていない。脱水症状がかなり進行している。水分だけじゃだめだ、多めのミネラルも合わせて摂取させないと。
「協力してもらったところ申し訳ないです。もう一つ協力お願いしたいです」
「はい、言ってください。何をすればいいですか?」
「外へ出て、自販機でスポーツドリンクを買って来て欲しいです」
「わかりました」
「浴乃さん、もう少し頑張ってくださいね!」
「……はい」




