06話 助けてください
どうにか覗きの罪は、すぐには罰せられないようだった。
その点については、助かったのだけれども。
まさか、浴乃さんが生徒会長の手先だったなんて。簡単に人を信じてしまうのはダメだったのか……。友達になれると思ったんだけれども……。
教室で浴乃さんと目が合うと、俯いてしまい申し訳無さそうにしているようだった。
浴乃さんにも事情があるのだろう。あの生徒会の連中なら各々の生徒の弱みを握って何かをやらせるなんて簡単だろう。きっと、浴乃さんも何か弱みを握られて無理矢理されていたのだろう。
なんにしても、退学だけは免れることができたので一安心だ。一時はどうなることかと思った。高校中退の少年院上がりなんて、社会的にかなりまずいだろう。
「お、いたいた!」
元気の良い声と一緒に副会長が教室へと入ってきた。他の女子と比べると頭一つ分は違うだろう。身長は僕よりも高く170センチはあるだろう。しかも、暴力的なスタイルもしてるし……。そんな目で副会長の身体を見てしまったら、腕の一本でも折られそうだけれども。
きっと力も強いだろうし、どうやっても逃げることが出来なかった相手。苦手だな……。
「お前の働く場所が見つかったぞ。今日の放課後から、しっかり取り組むように」
「は、はい?」
副会長は、それだけ言うと帰っていった。僕の処遇はアイツらの手の中ってことだな……。
◇
放課後、呼び出されたのはスパであった。
もうこのスパは懲り懲りなのだけれども。
副会長が風呂の暖簾の前で手招きしている。まさかとは思うけれども、僕が働く場所って……。
「おす、それじゃあこっちで働いてもらうから。ついてきな」
「はい……」
暖簾をくぐって進んでいく副会長。僕は案内されるまま進んでいく。今日は騙されるっていうことはないと思うのだけれども、警戒して俯いたまま歩いてついていく。
着いたのは、風呂の中。
女子が数人いるようだったけれども、目線は合わせないように下を向いてる。また嵌められてるなんてことないよね……?
「あ、もちろん、この前と同じように、女子の裸を見たら、慰謝料をそれぞれ払ってもらうことになるからな。気をつけとけー」
「え、えっと、それじゃあ僕は常に目をつぶって過ごすしか……」
「そうだな。私が手を繋いで歩いてやろうか?」
イタズラっぽく笑う。この人の場合、小悪魔と言うよりもキングデビルだな。可愛さよりも、強さが勝ちすぎている。
「まぁ、それは冗談だけどな。借金が払い終わるまでここで働き続けるか、学園を退学して豚箱に入るかのどちらかだからな。見ない努力をしておけー」
あの生徒会長は、本格的に僕を逃がす気はないらしい。
ここで働くってことは、常に借金が追加されるリスクが隣り合わせってわけだ。副会長は歩みを進め、浴室の中にある、とある部屋へと案内してくれた。
「この中で働いてもらうから」
ドアを開けると、大量の湯気とともに熱が押し寄せて来た。立派なサウナ室。こんなものもスパにあるなんて、学園の金周りは鳴っているのだろうか。
副会長は早くしろと言うように、「ほら」と手を引いてくる。
どうやら、僕が働くのはサウナ施設のようであった。
「この中で何をしろって言うんです……?」
「最近サウナが流行りだろ? だから、この中で温度を管理したり、具合が悪い生徒が出ないか監視するのが仕事だな」
「そんな仕事があるんです……」
「最近、学園側も事故に敏感なんだよ。一つでも不祥事が起きると入学者が減っちまって、学園自体を維持できなくなる。学園の維持費も馬鹿にならないらしいぜ」
「そんなに維持費がかかるのって、こんな施設をバンバン作ってしまったのが悪いんじゃ……?」
「まぁ、その辺りは会長に聞いてくれ。お前は、ここで働く。ここから出て行くと、女子が裸で湯に入っているわけだからな。気を付けた方がいいぞ?」
つまり、サウナの中で働かせるということは、サウナの中から出さないで閉じ込めるということに等しい。これじゃあ、まるで拷問のような状況じゃないか……。
「会長の趣味だからな、男子をいじめるのが好きらしいから。まぁ、頑張れよ!」
爽やかに副会長は僕の背中をぼんぼんと力強く叩く。
ここで働く……。
これは、どうしたものか……。僕にサウナの管理が務まるのだろうか……。
何か対策を考えないと。副会長は帰ってしまい、僕は一人サウナ室へと置いていかれた。とりあえずサウナにいるしかない。どうにかここで生き延びる方法を考えないと……。
サウナの中は、壇上になっており、二段階の席がある。席の前には、テレビモニターも付いているようで、学外の情報なんかは問題なく得られそうだ。端の方には、サウナの熱を作り出す石が熱せられている。
とりあえず、サウナの中を点検していく。段を上がり、二段目へ行くとより熱を感じられそうだ。滞在するなら、出来るだけ低い位置がいいだろう。うろちよろと、サウナの中で過ごせる場所を確認する。
おそらく、一番安全なのは、入口付近だろう。外の涼しさも感じられる。僕は入り口に陣取っていると、ノックする音が聞こえた。
「失礼しますー……」
「あ、はい、ちょっと待ってください! 中に男子がいるので、タオルは巻いてください!」
慌てて伝える。そうしないと、僕は借金まみれになってしまうから。
入ってきたのは、浴乃さんだった。
「私、謝らなくちゃいけないと思って……」
「い、いえいえ……。少し驚きましたが、大丈夫です。何か事情があったのでしょう?」
「いえ、謝らせてください」
「そうはいっても、こんなところで……? サウナ室……」
「二人きりになれる場所じゃないとダメなんです。誰が聞いてるかわからないですし……」
切羽詰まったような口ぶりで浴乃さんは続ける。
「生徒会長、私のお姉ちゃんは昔からああなんです」
「お、お姉様!?」
「生徒会長は、私の姉です。この学園の理事長の娘」
「えっと……、情報が多くって、どういうことです……?」
浴乃さんは、汗ばんできているようだった。滴り落ちる汗が胸元のバスタオルに吸収されていく。
「暑いですけど、落ち着けるように座って話しましょうか」
「あ、いえ、僕は……」
「いいから来てください」片手でバスタオルを抑えながら、もう片手で僕の手を引っ張る。柔らかく優しい手の感触は健在だった。僕は手を引かれ、言われるがまま座ってしまう。浴乃さんのいうことには、何だかいつも逆らえない。よくわからないが、僕を惹きつける魅力が詰まっている。それに加えて、サウナの熱にやられ始めている僕は、今言われたことを無条件で聞いてしまうだろう。
浴乃さんは、バスタオルに当てていた手を離して、僕の手を両手で握りながらお願いしてきた。
「どうか、お姉ちゃんを止めて欲しいんです!」




