05話 ようこそスパへ(※湯乃視点)
脱衣所で慌てている新一年生。
入学してくる生徒は全て覚えている。コイツの名前は、草津滉斗。
照後学園の高校部門を合併するにあたって、こちらの学園へ進学できる生徒はふるいにかけた。単純に学力が追い付かないこともあるし、素行が悪い場合もあったけど、最終的に女学園へ入学できたのはコイツだけ。
結局のところは、何人いようがこうする運命だったが。
水の中に落とされたアリみたい。
状況もなにもわからないまま、沈んでいくことしかできない、虫けら。
「さて、天国へと昇れる梯子を外された感覚はどんなものかしら?」
「あれ、これって、どういうことですか……?」
「騙されていたことに、まだ気付いてもいないのかしら?」
お人好しにもほどがある。
というか、無条件で人を信じすぎるなんて思慮が足りなさ過ぎる。愚か者ね。
「ここまで歩いてきた道は、さぞ楽しかったでしょう?」
「はい。みんなでお風呂に入るって経験無かったので。すごく楽しそうだなって思って……」
純粋な瞳をこちらに向けてくる。捨てられた子犬みたいな、必ず助けてくれるだろうと思って救いを求める瞳。なんだかペースが狂うな……。
けど、そんなの関係ない。
目線で合図を送ると、副会長の竜宮埜乃が腕を背中の方向へと引っ張り上げる。
「……痛っ!」
腕と肩の関節を締められた滉斗。
締めあげられた腕の痛みを逃そうと、顔が地面へと落ちる。
「ふふ、無様」
男性を見下す感覚。溜まらないですわね。
男子は女子よりも下であるべき。こうでなくっちゃ。女子の方が上に立つべき。この感覚……、気持ちいい……。
ゾクゾクとエクスタシーの波が押し寄せてきているところで、腕を締めている埜乃と、書記の女原阿弥がニヤニヤと嬉しそうな表情を浮かべている。
「こんなにも目的通りに動いてくれるなんて、簡単でしたね」
「簡単すぎて、つまらなかった」
埜乃と阿弥は、滉斗の腕をぐいぐい締めたり緩めたりしながら、反応を楽しんでいるようだった。
滉斗は私たちの話を聞いて、少しずつ顔色が変わってきた。やっと、騙されていたことを確信したのね。トドメをさしておきましょう。男子に希望なんて持たせない。
滉斗の苦痛に歪む顔をみるため、少ししゃがみこんで伝える。
「覗きは犯罪ですよ?」
「覗きなんて、してないよ……。みんなでお風呂に入ろうって……」
「ここは女子風呂だぞ? お前は男子。これが覗きじゃなくてなんなんだ?」
「捕まって当然なのだが?」
脱衣所で取り押さえたものだから、新しく出入りする女子たちが怯えた表情で見てくる。
「覗きは現行犯で取り押さえたので大丈夫です。皆さん、早く服を着て寮へ戻っていてください。私たちがコイツを処分しますから」
「ありがとうございます、会長!」
「流石です!」
生徒会メンバー及び、少数にしか伝えていなかった作戦。
着替えを見られてしまった女子には申し訳ないけれども、これで男子の弱みは握れたわけだから。多少の犠牲はしょうがない。
けど、こんなにも上手くいくなんてね。自然と表情も緩んでしまう。
「ふふ、少し場所を変えましょうか?」
滉斗を抑え込ませたまま、脱衣所から出てリラクゼーションスペースの一角へと移動させる。畳張りのスペースで、寝転がってのんびり過ごすことが出来るスペースだ。漫画なんかも揃っていたり、小さなちゃぶ台もあるので、ここで勉強をしている生徒もいる。
滉斗を端へと歩かせる。人が少ないところで、畳の上へ正座させる。再度腕を後ろで縛り上げさせると、再び顔は畳へとへばりつく。その姿はまさに時代劇の罪人。埜乃と阿弥が男子の隣で押さえつけているが、滉斗はもう逃げる気力も失っていそうだ。トドメを刺していきましょう。
「それでは、男子の処遇を決めていきます」
スパに訪れた女子たちが、遠巻きに眺めている。これぞ、『公開処刑』といったところだろう。
「……」
何も信じられないという目ね。それでいい。私たちも、男子のことなど鼻から信じていない。阿弥が片手で眼鏡をクイッと上げる。
「白昼堂々と女子脱衣所に入り込み、覗きをする行為。並びに、それをクラスの女子に責任を擦り付けるという往生際です。この罪は重く受け止めてもらいたい。処分はかなり重くなるかと」
「そうですね。これが学外だとしたら、即少年院送りは免れないでしょう」
「……そんな……。僕はただ友達が欲しくて……」
「罪人は口を開くな」
埜乃へ合図をし、すぐに腕を捻り上げてもらう。
「……痛い、痛い!」
体育会系、バスケ部のエースの埜乃に勝てる男子なんて、早々いないから。崩れる滉斗の体制を抑える。私も鬼ではないので、情状酌量の余地を与えないでもない。
「ただ、これを公にして退学させてしまうのは、少し軽率な気がしますが、どう思いますか?」
「その通り。今退学させてしまうと、男女共学の要請を受けるために頂いている助成金が無くなるのは良くない。退学させてしまえば、共学として成立しなくなってしまう。退学にはまだ早いです」
阿弥が理路整然とまとめる。腕を締め付けている埜乃も意見を言う。
「それではいかがしましょうか。鉄拳で制裁加えますか?」
「暴力を振るうような野蛮なことでは解決しないですよ」
「……うぇい」
埜乃には、少し茶番を挟んでもらって。
こうやって、どんな制裁が下るのか、男子の気持ちを泳がせてから、裁きを下す。
滉斗は事の顛末を黙って見守っている。
「それでは、あなたに判決を下しましょう。まず、あなたには留年してもらうことにします」
「留年……!?」
「今回の件は大目に見て差し上げますが、退学して逃げることは許しません」
「けど、留年って……」
泳がせただけあって、意見してくるわね。ふふ。
「そもそも、学園の学力についてこれなくて、留年するのは確定しているようなものでしょう? なので、今まで通り学費は収めてもらい、この学園で勉強を続けてもらいます。学力が足りなければ、留年。もしも、どうしても退学したいと言うのでしたら、覗きの件は公にして書類送検させてもらいます」
これでこいつは、この学園から逃げられない。どんなに虐げられようとも、この学園に居続けるしかない。完璧な計画ね。
「これで、助成金も学費も両方が入るようになるのですね。さすが、会長!」
「ふふ、コイツを好き勝手、『奴隷』としても使えますよ?」
「いいねー! やるね、会長!」
「……僕は、ただ友達とお風呂に……」
まだ言っている。いつまで信じているのかしらね。あの子たちも、私たち生徒会の差し金だというのに。
「この学園に居続けるにあたって、着替えを見られた生徒への医療費として、一人当たり二百万円払ってもらいましょう。あなたと顔を合わせる度に、精神的苦痛を味わってしまうので」
「え……、二百万円……。脱衣所に、十数人はいたかもしれないから……、数千万円……。あの……、そんなに払えないです……」
「ふぅん? そんなこと言って同情を買える相手に見えるのかしら?」
滉斗から、瞳の光が消えていく。
あぁ、気持ちいい……。
「それを払うと、僕はこの学園にいられないです……。うちは、貧乏なもので……」
「そんな額、お小遣いでもらっている額でしょ?」
阿弥がグイと腕を締める。
女学園のお嬢様たちにとっては、端金ね。
「認めたくないのはわかりますが、そのくらいは払ってもらって」
「いえ、本当になくって……」
「まぁ、そんな命乞いしてもね。覗かれた女子たちの心の傷は消えないので。お金が無いなら、うちの学園のために働いてもらうことも条件に入れましょう」
『奴隷』って、良い響き。
これで、永遠にこき使える奴隷の完成。
「そうですよね……。僕がやったことが罪だとしたら、なんでもします。どうか許してもらいたいです」
滉斗は自ら頭を下げる。滉斗は自分の罪を認めたのか、真っすぐな態度を示してくる。今まで出会った男性は、もっと悲惨な表情をしたり、こちらに対して怒りを向けて来たのに。
「償いの機会を下さい」
やっぱり、なんだか調子が狂うわね……。
「まぁいいわ……。この学園のために働いてくれれば」
「これで、一石三鳥ですね。在留してもらい、学費は予定通り払ってもらう。それにプラスして、学園で働いてもらう!」
「けど、会長。男子を働かせるなんていいんですか……?」
「いいわ。誰もやりたがらない雑用もたくさんありますし」
コイツはどうやっても、辞められない。辞めた時点で少年院に入れさせられる。
学園では、それ以上の地獄を見せてもやっても、こいつは学園を辞められないから。
「ふふふ。よろしくね? 辞めたくても辞めれない、逃げたくても逃げられない。キミは、お嬢様たちのオモチャ。ようこそ、女性が支配する地獄へ」




