30話 サウナでの強制契約
生徒会室にいたメンバーは強制的にサウナへと連れてこられた。サウナへ入ると、段へと座らされる。僕もサウナの温度調節はさせてもらえず、ボスの近くに座らされる。
「サウナ室で落ち着いて交渉の続きをしようか。みんな気楽にしてってねー」
無理やり中に入れられたサウナ。ここで交渉しようと言われても……。僕がいればいいだけじゃないのか?
会長を連れてくるのはわからないでもないけど、他の生徒会メンバーはどういうことなのだろうか。みんなでサウナを楽しもうというよりも、なんだか違う雰囲気だし……。
ボスのペースに乗せられまいと、会長が切り出す。
「とりあえず、先程言っていた契約の話ですけど……」
「まぁまぁ、落ち着きなって。まずはサウナを楽しもうー」
相変わらずボスは話をはぐらかす。サウナといえば、みんなで楽しむべきものだけれども。ボスはみんなを楽しませようとしているようには思えない。自分用に温度を高く設定しているし。こんな高い温度では、みんな耐えられないのではないだろうか……。
女原さんも察したらしく、ボソリと呟く。
「私たちは気にしなくていい。交渉している間は耐えてるから」
「えぇー? そんな言い方しなくてもいいじゃん? 僕は別に嫌がらせをしようってわけじゃないからさ。交渉事は、こういう環境の方が捗りやすいでしょ」
軽い口調で言うことが、逆に怪しさを増している。サウナを管理出来ない僕からしたら、動きたくて仕方がない。僕からボスへ、やんわりと伝える。
「サウナ室では、交渉しやすくはないと思いますけど……。こんな過酷な環境で。フラフラして判断力も鈍ってしまうでしょうし……」
「キミ、答え言ってるじゃん?」
「えっ……?……っ! そういうことか……!?」
判断を鈍らせて、不当な条件で契約を成立させることが、こいつの目的ということだろう。やはり契約書には不当な制約が書いてあるということだ。僕をこき使うために……。
けど、会長がそんなことは阻止するだろう。
こいつの思惑通りにはさせない。このまま冷静に。丁寧に断るよう、サウナで話し合いをしよう。会長も、ボスの企みがわかったようで、僕にアイコンタクトを送ると交渉を始める。
「俺さ、この学園が欲しいんだよねー。超ブランド学園だからさー」
「手に入れてなにをするっていうのかしら? 貴方には宝の持ち腐れになるわ」
「いやね、うちで働きたいっていう志願者って、高校生もいるわけなんだよね。そんな子達、普通じゃ使い物にならないけど、ここの学園に裏口入学でもさせれば箔が付くじゃん?」
「裏口……」
「この学園ですこーしだけ学んでもらって。うちの店の中では、『輝舞女学院の現役生』って言えば、客が喜ぶわけだよ」
「そんな店で現役生を働かせたら、この学園の生徒達にも良くない噂が立ちます。実際に働いてない子達にも……」
「そうねー。そしたら、その達にもうちで働き口用意してあげるよ」
「そんなの望む人なんていないでしょう!」
「キミは、人のことわかってないなー? 経験も無い、未熟な子が考える理想像よりも、なんでも知ってる大人が提示する未来の方が幸せなことが多いわけだよ。だから、そこを間違えないように、こっちが強制して働かせてやる。それでハッピーになれる」
「そんな考え、間違ってます!」
会長が立ち上がると同時に、女原さんがゆっくり倒れてしまった。瞼は開けられないで、浅い呼吸を繰り返している。
「大丈夫ですか?!」
僕は女原さんの元へ駆け寄ると、副会長も一緒に来てくれる。二人で協力して女原さんを横にする。
顔色を見る限り、これ以上サウナにいるのはまずい状況だろう。
「それじゃあ、契約なんだけど。湯乃ちゃんに言っても埒が明かないからさー。キミに直接言うけど、受け入れてくれるかな?」
「今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!」
ボスの言葉は無視する。
まずは動かす前に、状態確認が最優先。女原さんを運ぶ前に、サウナ室のドアを開けて温度を下げようと思いドアを押したが開かなかった。
サウナ室のドアは、警備員によって外から塞がれていた。
「この契約内容、外部に漏れたら困るからさー。僕が出るまで絶対に開けないでって言い聞かせて来たんだよね」
「それってもしかして……、契約するまでここを出さないってことですか……」
「おぉー、正解。キミはすぐに話が通じていいねー。やっぱりうちに欲しい逸材だよー」
判断能力が鈍るとか、そういう次元じゃない……。サウナ室で落ち着いて契約をさせるつもりなんかなかったんだ。契約をさせるための脅しだ……。
そんなものには屈したくないけれど、このままじゃ……。
荒々しい息遣いをしていた女原さんだったが、その息が止まってしまったようだ。
「…………それであれば。僕が契約してしまえばいい。それで解決ですよね」
「ダメだよ! そんなことしたらキミが……」
会長が止めに入ってくれる。けど、それじゃあ女原さんを救えない……。
こいつとの我慢比べに勝てる人はいたとしても副会長くらいか……。副会長でさえ負けてしまうかもしれない。全員が昏睡状態になる前に早く手を打たないと……。
「……僕の人生の一部なんて安いものですよ。命には代えられないです。コイツは目的のためなら、なんだってするようなやつなんでしょう?」
「だから、ダメだから!! 自分を大事にして!!」
「会長だって、もうフラフラじゃないですか……。サウナ苦手なはずなのに……」
「私は大丈夫だから……」
はたはたと手を振るボス。
「んー? なんだか俺が悪者みたいじゃない? 俺はみんなハッピーになる方法を提案しに来たわけだよー?」
「貴方の提案は正しくないから……。本当に人に寄り添っている提案じゃないから……」
ボスは首を傾げる。
「キミは頭が堅いなぁ。例えばだけど、『サウナ』を体験させてあげるみたいなものだよ。最初は過酷な環境に入れて強制的に汗を流させてあげるでしょ? その方が実際、整うじゃん? 最初から正攻法を身体に教えてあげてるだけ。そうやって体験させてあげると、やっぱり気持ちいいんだよ」
「人には人にあった整い方がありますから……」
「んー、わかんないかなー……。人って、屈服させるのが気持ちいいし、される方も気持ちいいわけだよ? キミだってそうだったわけじゃん? 湯乃ちゃんに屈服させられて奴隷みたいに働かされてる」
「僕は屈服させられたわけじゃないですから。会長が僕を思って居場所をくれただけ。人を思う気持ちがあったからこそ、楽しく働けていた」
「うーん、考えが合わないなぁ。まぁ、ここから出たかったら、契約してもらってからだからね。ささっと、契約書書いちゃって」
どんなに押してもやはり入り口は塞がれていて出れない。
こうなったら、やはりサインを書くしか……。
腹を括って、ボスが差しだしたペンを手に取ろうとしたところで、なぜかドアが開かれた。
「ひょひょ。キミ達、遊びに来たぞいー、お前さんが言っていたサウナ施設がここかのぉ? ここにもなかなかいいサウナがあるじゃないか」
「おじいさん……?」




