26話 旅館でのもてなし
旅館の中。
長い廊下を歩いて連れていかれた先は、宿泊部屋の一室であった。
清掃が行き届いている、綺麗な畳が敷かれている部屋。グレード的にもとても良い部屋なのであろう、窓から見える外の景色は、竹林が広がっており、趣がある部屋だった。
こういう老舗旅館は初めてだけれども、僕が普通に暮らしてたら一生泊まることが出来ない部屋だろう。
けど、まさかとは思うけど、二人で一部屋なんてことないよね……。
「良い旅館でしょ? 仲居さんも素晴らしいし。ここのサービスを隅々まで、貴方にも見習ってもらいたいの」
「はい」
深い意味は無いのだろう。旅館の一室に通されたとしても、泊まるとかじゃなくって。サービスを教えてもらうっていう部屋なのだろう。
「失礼します」
優しい声掛けをして、仲居さんがドアを開けて入ってくる。
ただ、よくよく見ると、先ほどの仲居たちとは少し雰囲気が違う。一段と綺麗な着物を召している。
「あ、女将さん!」
「湯乃ちゃん、久しぶりー!」
仲居さんではなく女将さんのようで、どうやら二人は知り合いみたいだ。両手でハイタッチをしたかと思うと、二人で抱き合ってキャッキャと楽しそうにしている。歳はかなり上だろうけど、かなり気が合う相手ということだろうか。
「また一段と、お母様と似てきましたね」
「ありがとうございます」
会長は少しお淑やかな雰囲気になった。この女将さんは、会長の過去からの付き合いが長そう。きっと、学園の理事をやることになった経緯なんかも知ってそうだな。僕はその部分には立ち入らないようにしようかな……。
「カッコいいボーイフレンドも連れて来ちゃって。若い子の成長は早いねー」
「コ、コイツは違いますからっ! 勘違いしないでください。こいつはただの奴隷です!」
奴隷という言葉に、女将さんは一瞬ギョッと反応したが、まだ子供なんだなというような優しい目つきで会長を見つめていた。
「うんうん、素直になれない年頃なんですよね」
「違うってば! こいつは、学園の地下でこき使ってるヤツなの。これからの経営の切り札として、ここでサービスのノウハウを……」
「あら、経営を手伝ってくれているっていうことですか? 良いですね。将来の『パートナー候補』っていうことですね。うんうん」
「ちがうってば!!」
会長は仲居さんのことをポカポカと叩きながら、反論している。会長らしからぬ雰囲気。なんだか子供っぽい。
「アンタも勘違いするんじゃないからね! アンタはタダの奴隷! ここに来たのだって、アンタの意思なんかなくって。私が無理やり協力させてるだけだから!」
「はい、わかってます」
会長の面目が潰れないように、しょうがないので肯定してあげる。
「そうそう、旦那は尻に敷くのが良いですよ。旦那さんも気を遣って尻に敷かれてくれているし。良い関係ですわね」
僕の振る舞いもしっかり理解してくれているようだった。
仲居さんは会長のことを微笑ましく見ている。この仲居さんには、なにを言っても効果ないだろうな。最初っからそういう目で見てそうだし、仲居さんの頭の中では、僕が彼氏っていうことで認識しちゃってると思われる。困ったことにね……。ははは……。
「……とりあえず、コイツに旅館のノウハウを叩き込みたいんです」
「あらあら、それは良いこと。将来の旦那さんも、旅館業が大事ですからね」
「もう、否定するのも疲れるから、それでいいから。学園のスパをさらに良いものにして、集客を狙うの」
「ふむふむ」
女将さんは会長の思惑に対して、どうするのが良いか考えてくれているようだ。少し頭をひねると、良い案が思いついたのかポンと手を叩いた。
「それでは、一番は温泉に行ってみてもらうのがいいですわね」
「わかりました。それじゃあ、行きましょう!」
「はい。まずは、お二人とも温泉に入って気を休めてからです。話はそれからです」
「えっと、お風呂でノウハウを教えてもらうってことじゃなくって……? 気を休める……? 必要ということであれば、ぜひ行きましょう」
この女将さんは本当に頼りになるのだろうか……。
洞察力が鋭くて、会長の状況や、僕の立ち位置のことを察知してくれているのかと思ったけれども、違うかもしれない。ただ単に、お気に入りの娘さんが男を連れて来たとしか思っていないかも?
僕と会長をくっつけようとしているだけに見えなくもないけど……。さっきから、ずっとニヤニヤしているし……。
会長は乗り気のようだけど、僕と二人で温泉に入ることになったりはしないよね……?
二人きりで温泉に入るとか、そんなことがあっていいわけないから……。
「必要なことであれば、私はなんでもします! ほら、奴隷。温泉に行くよ!」
「いやいや、本当にこれはサービスを学ぶ上で必要なことなんです……?」
「当たり前でしょ」
僕と会長のやり取りを見て、仲居さんは頷いている。
「うんうん、若いっていいわね」
いやいや……。
やっぱりこれ、本当にただ混浴するだけになりそうな予感ですよ……。
「お二人とも、仲良く二人きりで入ってくださいね」
「わかったわ! 二人きりで仲良く入る!」
会長……。
素直を通り越して、おバカなんじゃないか……?
「奴隷、わかってると思うけど、逃げたらどうなるかわかってるんでしょうね? 仲良く二人で入るのよ?」
「大丈夫です。逃げれないですから……」
僕の身になにかあったら、誰かに証言してもらいたいです。
僕は無理矢理、会長と二人きりで混浴させられるんです。
会長が言う通り、仲良くお風呂を楽しめるよう、頑張ります……。




