25話 旅館へ
「協力しなさい」
生徒会長が自ら僕の教室へとやってきたかと思うと言ってきたのだ。いきなりやってきた訪問者に、教室中がざわめいていた。会長はどこへ行っても人気ようだ。
クラスの女子たちの黄色い声には耳を傾けず、真っすぐに僕のことを見つめてくる会長。
いつもだったら、妹に頼んで生徒会室へと連れて行かれるところだと思うのだけれども。そんなに大事な話ということなのだろうか。
「協力って言っても……。これ以上、何を協力すればいいんでしたっけ……? ボスをもてなしてからも、毎日スパで頑張ってますけど……」
「それは知ってる。……ありがとう……」
語尾に向かうにつれて声が小さくなっていったが、しっかりとお礼を言ってくる会長。どういった風の吹き回しだろうか。なんだか会長の様子がおかしいけれども、この前のボスの件が効いてるのだろうか?
ボスが言っていた理事長交代の件は、あれから何の進展もない状況だ。嵐の前の静けさと言ってもいいかもしれない。ただ、僕にとっては、ボスの件のおかげで、女子寮での一件はうやむやになったから良かったけれども。本当に訴えられてたら、ヤバかったよね……。
会長は再び僕に強く言ってくる。
「しばらくのサウナ施設は休んでいいから。私と一緒に来なさい」
「い、いいですけど、何するんですか?」
「やることは、いつもと変わらないから」
説明が少なくて、押しが強いのは相変わらず。なんで、肝心なところを教えてくれないんだろうな。
けど、最近になってわかってきたけれども、会長って普通に口下手なんだろうな。
僕から会長へ聞き返して押し問答が続くかと思ったが、そこへふらっと副会長も教室へと入ってきた。
「湯乃ー。内容が全然伝わってないって。なんでコイツの前だと口下手になってんの? ちゃんと言えばいいだろ?」
「……う、うん。……それはそうなんだけどね。……あのね」
会長がしどろもどろで説明を始める。
「ちょっと、先輩方に助けを求めに行きたいんです」
「助け? 先輩?」
「旅館にいって、先輩達の協力を得たいんです……」
やっぱり訳が分からない。
情報がごそっと抜け落ちてしまっているのではないかと思い、副会長の方を向くと、やれやれと首を振っていた。
「この学園の卒業生が立ち上げた温泉施設があるんだけどな。うちの経営が行き詰っているから、そこの女将さんに相談しに行きたいってことらしいよ」
副会長が補足してくれる。やっぱりボスが言っていた買収をどうにか阻止しようということだろう。
「この学園は、まだ私が理事長だから。次の入学志願者数が勝負になるの。男子女子問わず、入学者を倍に増やせれば……。アイツらからの負債が返済できれば、アイツらを追い返せるの……」
「まぁ、簡単に言うと、『学園のスパ施設をさらに充実させて、入学者を倍増させるぞ作戦』ってことらしいよ。そのための入れ知恵をしてもらいに、旅館へ行こうってこと。そういうことでしょ会長?」
「そうよ」
副会長、実は有能だったんだな……。
会長の説明に比べて、私情をはさない分、わかりやすい。
副会長に小さく会釈すると、爽やかにピースサインを出していた。副会長、やっぱりイケメンだな……。
「とりあえず理解しました。それであれば、協力しましょう!」
「……お礼は、成功したら言うわ」
僕と副会長は目を見合わせて、やれやれと首を振った。
◇
「旅館って、ここであってます? すごい老舗に見えますけど」
学園の生徒が始めた旅館だというから、もっと新しい今時の旅館を想像したけれども。僕たちがたどり着いた旅館は、昔から代々続いているような厳かな雰囲気があった。
「良い旅館だから、粗相のないようにね」
会長は緊張しているのかと思ったけど、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
僕は荷物は持たないで来てしまったのだが、会長はコロコロとキャリーバックを転がしながら、旅館へと向かってしまう。
「そんなに荷物っているんでしたっけ……?」
もしかしてとは思うけど、泊まったりしないよね……?
「その大きな荷物って何ですか?」とは聞けずに、ここまで来ちゃったけど。旅館にキャリーバックって言ったら、お風呂入ったり、そのまま止まったりっていうための着替えが入っているとしか思えないんだけど……。
会長は授業終わりになると、キャリーバックを転がして僕のクラスへとやってくるものだから、クラスメートがビックリしていたんだよね。忍くんに関して言えば、「会長のお泊りの従者するの? 大変そうだね」なんて同情してくれたけど……。
もしも泊まりだとしても、せめて副会長がいてくれたらよかったんだけどな。いや、もちろん変な意味じゃないけど。
教室を出る時、副会長が付いて来てくれるかと思ったら、教室に顔だけ出して「私は部活だから、後は頼んだ!」っていなくなっちゃうし。あの人は、部活命だから仕方ないけども……。
僕が考え事をして止まっていると、会長が早く来いと手招きしてきた。
僕は、会長の彼氏か何かになったかと勘違いしちゃうな……。
「今行きますよー」
最近、色んな会長の顔が見える気がする。
意外と感情が顔に出ちゃう人らしい。緊張の中にも、嬉しさが見え隠れして。この旅館が好きだったりするのだろう、きっと。
「遅い。減点。給料から減らしておきます」
「すいません、ちょっと考え事していて……」
僕の粗相にも、会長はそこまで機嫌を悪くしていないようだった。むしろ、旅館に来れたことが嬉しいという感情が勝っているように見える。
「ここ、私の思い出の旅館なんだ」
「良い旅館そうですね」
「当たり前でしょ?」
会長は、少し笑いながら答えてくれる。
いつもの強気な様子の会長にも見える。調子が戻ってきたようだった。
一緒にいると、会長の素直な一面がドンドン見えてくるものだな。会長は、意外と可愛い性格をしているのかもしれない。
旅館の入り口へ着くと、大勢の仲居さんが出迎えてくれた。
「ようこそ、おいで下さいました」
一糸乱れぬ動きで、お辞儀をする仲居さんたち。その光景は圧巻であった。
全員美人なのは、輝舞女学院卒業生も多く在籍しているのかもしれない。
会長は、嬉しそうに頷いていた。




