24話 サウナに弱い会長
「キミ最高だね。やっぱり、死ぬ気で働いた人は違うわ」
「ありがとうございます。毎日頑張ってます」
とある組織のボスと、生徒会長へ連れられて、スパへとやってきた。学園内にスパがあるのは珍しいということで、体験をしてもらうことになったのだ。すべて会長が自然な流れで誘導していた。
見学ということで、全員が水着着用で見学をしていたこともサウナへの布石だったのであろう。実際に湯に入るには少しハードルが高いため、サウナぐらいが丁度良かったというところだ。
僕を連れて来たということは、元からサウナでボスのことをもてなそうと計画していたのであろう。
そして、僕が熱波を送ったことで、ボスからの賞賛の一声をもらえたというわけだ。
僕は日々の仕事の成果を示すべく、さらに気合いを入れた熱波を送る。
「かぁー! 熱いっ!!」
ボスは気持ち良さそうに熱さを楽しんでいた。一方で、僕の熱波を直接は浴びていないであろう会長にも、熱さが送られているらしい。会長は汗をダラダラ流しながら僕に言ってくる。
「意外と強いのね……、あなた……」
「毎日やってますから、このサウナの暑さに慣れたんですよ」
「暑さもだけど、あなたはめげないんだね……」
「こんなのでめげてたら、生きていけないですよ!」
「……その能天気さ、分けて欲しいくらいだわ」
会長は、こんな状況でも侮辱してくるのか……。まあいいけど。
サウナの熱さで、そろそろ会長も限界が訪れるんじゃないかな?
さらに熱波を送ると、会長らしからぬ言動に変わっていく。
「いつも頑張ってくれてありがとう」
「いや、あなたのためにやったわけじゃないですから?」
「…………知ってるわよ」
会長はプライドが相当高いらしく、あくまでも僕の上に立とうとしているようだった。
まぁそれでもいいか。僕はサウナの中では皆平等だと思っているから。対等に返答しよう。
僕と会長が小声で言葉を交わしている中、ボスは気持ち良さそうに汗をぬぐっていた。
「うーん、この熱波。一朝一夕にできるものじゃないよねー」
ボスは、顎に手を当てて少し考える素振りを見せる。
「キミ使えるね」
「ありがとうございます!」
人に必要とされるのは、素直に嬉しい。会長は僕を扱き使うくせに必要としている素振りなんて見せないからね。
「そうだなー、キミが協力してくれたら、この学園の処遇を考えないでもないよ?」
「協力?」
「うんうんー」
ボスは、僕じゃなくて会長へ向かって話しかける。
「ただの下っ端だと思って子が役に立つんだよ、キミの目も中々の目利きだったのかもね」
会長は少し不服そうに僕を睨んできた。僕は精一杯言われたことをやってるだけだっていうのに。
「理事長もどきちゃん、こういう時はどうするんだっけ? 人にお願いするときは?」
「……お願いします」
会長は、座っていた段から降りて、床に膝をつき、頭を地面ギリギリまで下げる。
「……どうか、お願いします番
「はは、そこまでしなくてもいいよ。僕が強要してるみたいじゃん?」
ボスは会長の土下座に対して、一瞬で興味を無くしたような目をしたと思ったら、僕の方へと向かってきた。
「君には期待してるよ! 僕を楽しませてくれる気がするもん!」
「が、頑張ります!」
「おおー、良い返事だね。そういうの好き好き。良ければ、このままキミが理事長になってもいいよ? 頑張る人に、僕は報われて欲しいからね!」
「い、いや、そこまでは……」
「うーん、もっとキミは調子に乗りなよ? その方が楽しいからさ。ほら、嬉しがって。ついでに理事長ちゃんになにか言ってやりなよ」
「い、いや……、それはちょっと……」
会長は首を少し回して、頭を下げた状態から僕のことを見上げてくる。
「あぁー、なんか理事長もどきちゃんが反抗的な目をしてるよねー。その目を辞めさせるために、今からコイツになにか言ってもらうから」
「い、いえ。会長も頑張っている人だと思ってるので、特にいいです……」
「……あぁ? 俺が言えって言ってんだけど?」
ボスの声色が変わった気がしたが、僕は続ける。
「サウナでは、心も体も裸なので、そういう感情は抜きにして、気持ち良くなってもらえれば十分です」
「ほーおー……。熱い気持ちだねぇー。まぁ、いっか」
ボスは引き下がってくれた。立場とかわからないけど、こんなに一生懸命な会長にこれ以上なにか酷いことを言うのは、人としてどうかと思うし。
会長の反応を見ようと、目線を落とす会長のと顔色が良くないのが目に付く。そろそろ暑さの限界なのかもしれない。僕の仕事は、サウナを快適に過ごしてもらうことだ。
「あの、そろそろ、一回外に出ませんか? 整うためには、一旦体を冷やす水風呂も必要なんですよ」
「なるほどね。じゃあ、案内してしてー」
ボスは、軽い感じでサウナ室を出ていく。すぐについていった方がいいかもだけど、その前に会長を助けないと。
「あの、会長……。起きてください」
「……私にかまうな」
「一旦外に出ましょう」
無理矢理肩を組む。こちらへ身体を預けさせながら上体を起こす。
「行きますよ」
「……やめろ。私に優しくするな。お前は奴隷で……」
「奴隷は、主人を助けるのが仕事ですので」
会長の身体を持ち上げようとしたところで、僕も足に疲労が来たようでよろけてしまう。体勢を崩しそうになったところで、会長の身体が急に軽くなった。会長の方を見ると、副会長が会長の肩を支えてくれていた。
「湯乃、一人で背負い込まない方がいいぜ? 人を信じて頼る。それが人の上に立つべきヤツのやることだから」
「埜乃……」
「いつでも頼ってって言ってるじゃん?」
何だか良いところを持っていかれた感じがするけど、これでいいか。そのまま副会長に連れられてサウナ室を出ていく会長。去り際に僕に言う。
「男子になんて頼りたくなんてなかったけど……。全然信じてもいないのだけれども……」
言葉に詰まる会長。副会長が肩をポンポンと叩くと、捻りだすように言葉が出てくる。
「…………助けて欲しい」
強がっていたけれど、やっぱり会長は困っている。
助けを求める友達がいるんだったら、手を差し伸べるべき。例え騙されてたとしても。それが本当の友達……。
「……わかりました。必要とあれば、僕が助けます」
それが友達を作るコツだって僕は信じてるから。
会長は安心して力が抜けたようで、副会長へ身体を預けてしまう。副会長は僕の発言に嬉しくなったのか、眩しい笑顔を僕に向けていた。
「いいね! アタシは、お前のそういうところ、大好きだぜ!」
僕と副会長、どちらがカッコいいと言えば副会長だろう。
逆に僕が惚れちゃいそうだよ……。




