23話 おもてなしへ
「いきなり入って来てなんですか? 学園の中に不審者が現れてますよ、警備員さん」
「あー、警備員さん。俺は平気だよね? 雇い主だから」
「何を言って……」
「うちも、代替わりしたんだよねー。これから俺がこの学園の面倒を見ることになったからさ。よろしくー」
はたはたと手を振っている。
軽そうに見えるけれども、威厳があるようにも見える。年齢で言うと、かなり若い。まだ二十代だろうか。下手すれば学生にすら見えてしまうかもしれない。
「警備員さん、少し強すぎるから弱めてあげて? 可哀想っしょ?」
「でも、コイツは性犯罪者で……」
「あぁ? 聞こえなかった? 耳遠いの?」
段々と派手な男の態度が変わってくる。緩い感じだったのに、ピリッとした空気が部屋をつつむ。唐突に、男が椅子を思い切り蹴飛ばした。勢いよく飛ばされた椅子は壁にぶつかって、床へと転がる。
「俺のこと、誰かわかってるよね?」
「は、はい……」
「組の長は、俺なわけ。従わないと、組織が成り立たないでしょ? わかる?」
「はい」
「下っ端は、その辺り意識してもらわないと」
この人は、組織に属している人のようだ。
警備員たちは、彼の言う通り拘束を解いてくれる。
男は満足そうに頷くと、キリっと再び顔を引き締めた。
この人のおかげで拘束が解かれたけれども、何が狙いなんだ……。普通の職業ではないだろうけども……。
「そんなに警戒しなくていいよ。僕は、一般人には優しいから!」
「は、はい……」
僕に向かっては気さくに話しかけてくれる。けれども、節々から感じる、関わってはいけないようなオーラだ。この雰囲気は、会長のやり方がぬるく感じられてしまうかもしれない程のオーラが漂っている。
「キミには、これから働いてもらわないといけないからね。怪我無く健康でいてもらわないとね。そうだよね、理事長?」
「あなたが組の長になったのですね……。おっしゃる通り、そいつにこの学園のPRを行ってもらう予定です」
二人の視線が僕へと集まる。どちらも、僕のことを奴隷のように働かせる気なのだろう。少しでも助かるかもと思ってしまった自分が悔しい。二人は満足そうに僕を眺めると、再び向かい合って話し合いに戻った。
「うんうん、いい子見つけたね。ありがとうね」
「前のボスからの引き継ぎは既に終わっていると思ってよさそうですね。計画は以前から話している通りです。助成金が降りるので今年分も問題なく払えますので、ご心配なさらずに」
会長が毅然とした態度で対応する。
僕に対する時とは違うが、それでも強気な態度はそのままであった。
「そうそう、男子が入ってきたことで、国から助成金が出るっていうやつだね。良い感じだよ、すごいすごい」
「はい、計画通りです。さらに、これから行うPR活動を入学願書配布時期に合わせて行っていけば、来年はさらに利益を……」
「うんうん。まぁ、来年の話とかはいらないや。ご苦労様」
「順調ですので、その報告を聞きに来たのでしょう? ここからさらなる成長をしていきますので」
「まぁ、そうなんだろうけどさ。もう大丈夫だよって言ってんの。キミは解雇するから。お疲れ様ー」
「へっ……?」
新しいボスという男から言い渡された宣告に、会長の言葉は続かなかった。不穏なことを言われた会長は、みるみる顔を青ざめていった。
「どういうことですか……? 順調に進んでいるじゃないですか……?」
「うーん、それじゃあ、つまんないんだよねー」
ボスは会長へと近づいていくと、顎のあたりをグイッと掴む。
「もっとスリリングに進めないとさ? 生ぬるいって」
「……くっ、やめろ」
いつも強気だった会長が、この男にはやられっぱなしだ。力関係があるのだろう。
「俺の提案した案があったじゃん? この学園にいる現役の学生をうちの店で働かせてよ。一人働かせれば、今年分の額を一月で稼げるよ」
「いえ、この学園の生徒には手は出させません……」
「誰でもいいんだよ? そっちで立ってる子たちなんて適性抜群じゃない? モデルさんみたいに綺麗だし。稼げた額に応じて、しっかり給料出してあげるから」
お金の話が聞こえてきたからか、白崎さんが食いついてきた。
「給料いいんですか?」
「もちろん、小規模な芸能事務所よりも夢のある世界だと思うよ?」
会長はボスを睨みながら、白崎さんを守るように前へと出る。
「白崎さん、やめておいた方が良いです。何をされるかわからないから……」
「キミにはもう関係ないことでしょ? 理事長ごっこはもうお終いだって」
会長とボスは睨み合い、しばらく硬直状態が続いた。ボスが会長に近づいてガンを付けてくるのだが、どんなに睨みつけられても生徒会長は引き下がろうとしなかった。
「まぁー、気持ちはわかるけどさ? とりあえず、この学園見学させてよ。どちらにせよ、僕の物になるわけだし」
「いえ。そうはなりませんから」
ボスは頭を振ると、会長に折れる形でこの場を収めるようだった。
「わかったよ。一旦君の物ってことでいいから、案内してよ」
「わかりました」
会長はなにかを思いついたのか、僕の横を通るときに耳打ちをしてくる。
「私の言うことを聞いて欲しいのだけれども、この人をサウナでもてなして欲しい。あなたは、いま私の使える最高のカードだから」
「なんで僕が……」
「お願いだから助けて…………」
僕が答える前に会長はドアを出ていってしまう。
そんなことを言われてしまっては、僕も付いていくしかないじゃないか……。




