19話 女子寮へ忍び込む
「ほら、今なら触り放題だよ? 少しと言わず、ほらほらー?」
なぜ、浴乃さんが率先して攻めてくるのかというところを問い詰めたいのだけれども……。
この子の頭の中はどうなっているんだ……?
「それにしても、過ごしやすいですねー」
「アロマ良い感じですよ」
浴乃さんが押せ押せで来るから、白崎さんと黒崎さんは逆に引いているようだった。北風と太陽の話だったら、こういう太陽的にドンと構えている方に軍配が上がるんだよなー。
白崎さんと黒崎さんは、つんつんと僕をつついてくる。
「とりあえず座りな?」
「まだ先は長いからさ?」
「は、はい……」
浴乃さんを端に追いやって、モデル二人に囲まれる。二人から醸し出される香りは、アロマよりもいい匂いです……。
浴乃さんをちらっと見ると、こちらを睨みつけてきている。さっき僕は、「助けて」って言ったはずなんだけどな……。
「ちっ……」
……聞こえるように舌打ちしているし。
どういうことかは理解しかねるけれども、浴乃さんにべったりしたら良かったということだったのかな……?
作戦がわかりにくいですよ、浴乃さん……。
浴乃さんは少し考える素振りを見せると、立ち上がってサウナの外へと出て行ってしまった。
作戦を思いついたのであれば、僕に耳打ちでもしてくれればいいのにな……。
あっけに取られていると、再びサウナ室のドアが開かれる。
入ってきたのは、一年生たちだった。やってくるなり、目の色を変えて白崎さんと黒崎さんの元へと歩み寄ってくる。
「あ、白崎さん! 初めて生で見ました!
「いつも応援してます!」
「生で見ると、すっごい綺麗な肌!」
「黒崎さんも、スタイル良いです!」
「憧れちゃうー!」
いきなり来た一年生たちに戸惑う白崎さんと黒崎さん。
「あー、はいはい。ありがとー」
「勝手に触るのとか、握手とか。そういうのはだるいから、やめてねー」
愛想笑いは浮かべているけれども、先ほどとは違い、心の扉を閉ざしてしまったようだった。明らかに冷たい対応だ。
一年生たちは、そんな塩対応さえも尊く感じているようで、目を輝かせて二人のことを見つめていた。
「はぁ……。一旦こでの勝負はお預けにしましょうか」
ハニートラップを仕掛けに来ていたが、引き下がるようだ。浴乃さんの作戦が大成功かもしれない。
最初はどうなることかと思ったけれども、グッジョブだ。
「そうだよね、こんな状態じゃあれだから、今夜私たちの部屋に来てよ」
「……えっ?」
首をかしげて聞いてくる。
一年生に対する態度とは打って変わって、モデルパワーを十二分に発揮した魅力を放っている。
この誘い、絶対に罠じゃないか……。
一年生に混じっていた浴乃さんが言ってくる。
「行くんだったら、私も一緒に連れて行きなさい? 今度こそ絶対に落として見せるから」
「い、いやいや。なんでそうなるんです……?」
「いいから、言うことを聞きなさい!」
姉と同じような血が流れているのだろうか、僕に向けての敵意が姉と同じだと感じられる。無理やり従わせようとする辺りもそっくり。
「はい、わかりました……」
僕はそう言うしかない。
「それじゃあ、二回戦。逃げないで来てよね?」
「約束だからねー?」
そう言い残すと、白崎さんと黒崎さんは早々にサウナを後にしてしまった。
◇
「ごめんね。あそこでは、ああ言うしかなくって肤重
呪う、うん。いきなり言われてびっくりしたけど。どっちが本当の浴乃さんなのか、わからなくなっちゃうよね……」
サウナの営業を一時的に休止にして、僕は浴乃さんと一緒に学園を出ていた。「二人きりで話がしたい」と言われた時は、僕を誘惑する続きなのかと思って少しドキっとしたけれども、そういうわけではなかった。
「私は、ずっと滉斗くんを救うためにやってたんだ……。信じて欲しいのっ!」
訴えてかけてくる瞳は、純粋そのものなんだよな。まさか二重人格なんていうことは無いと思うけれども……。
けど、浴乃さんのことは信じているから。
「大丈夫です、信じてますから」
「……ありがとう」
浴乃さんは、少し照れて俯いてしまった。やっぱり純粋そのものだろう。
浴乃さんに連れられて行く。着いた場所は女子寮であった。
「あれ……、なんでここへ……?」
明らかにハニートラップの誘いだったのに。白崎さんたちを追い払えたのだから、あえて自分からハニートラップにハマりに行かなくたっていいのに……。
豪華なお城のような佇まいをしている女子寮。
ここへ一歩でもこれたら、僕は本当に犯罪者認定されることだろう。それでも、この中へと入れようとしてくるということなのか……?
「緊張しないで大丈夫だよ?審
「いや、緊張というよりも……。自ら罠に入りに行くようなことは控えたいというか……」
「あ、そうか。そうですよね。ちょっと待っててください」
浴乃さんはそう言うと、一人女子寮の中へと入っていった。僕は寮の前で待たされることとなる。
この状況こそ、一番危ない気もしないでもない。女子寮の前で、なんの目的があって立っているんだっていう。いかがわしい目的以外考えられないだろう。
女子寮へと入っていく女子がこちらをチラチラとみて、ひそひそと話している。
この女子たちの誰かが警察に通報したとしても、おかしくないだろうけど……。
一応僕は、この学園のパンツスタイルの制服を着るようにしたから、部外者として訴えられはしないだろう。最近、サウナに集まる人も多くなったし、僕がサウナで働いているのはみんな知っているだろうから。通報だけはしないでいてもらいたいな……。
祈りながら待っていると、浴乃さんが寮の中から出て来た。
「じゃーん。これを来てもらえれば、この寮に入れるよ!」
「えっと、これを着るんです……?」
浴乃さんがもってきたのは、明らかに女子もの制服だった。
「これって、誰のですか……? というか、どういう目的で持ってきてます……? これを着る?」
「ごめんね、私のだけど……」
浴乃さんの制服を着る?
それって、どんなプレイをさせられるんです、僕……?
「へ、変な目で見ないで下さい……。私だって、恥ずかしいんですから……」
頬を赤らめて、俯いてしまう。悪いことを言ってしまったか?……というか、やっぱり浴乃さんには悪気なんてないのがわかる。
「男子の格好のまま入ってしまうと、捕まりやすいんで、バレないようにって思って……」
「そ、そういうことだよね。僕も着替えてくるね!」
「手伝います」
そう言って、浴乃さんが手伝うように衣服のチャックを開けてくる。僕は身を預ける。
確かに一人だと、女子制服なんて着方もわからないんだよな。手伝ってもらうしかない。
浴乃さんの「恥ずかしい」気持ちと、僕の「恥ずかしい」気持ちのぶつかり合い。
これで、もしも浴乃さんもハニートラップを仕掛けてきているとしたら、僕はまんまと騙されてしまっているわけだ。
浴乃さんの手伝いで、ゆっくりと女子制服を身に纏う。
もしもこれがハニートラップだとしたら……。
さすがに人には言いづらいプレイをしている時には捕まりたくはないな……。女子制服を着ている状態なんかではね……。そこだけは、流石に頼みますよっていう気持ちです。
僕の心配は余所に、無事に着替え終えることができた。
「これで大丈夫。とってもかわいいよ!!」
「ありがとうございます?」
これで晴れて、女子寮へ入ってもバレにくいというわけだ。
行くしかない状態に追い込まれている気がしないでもないけども……。
着替えてしまったのであれば、行くしかないか。




