18話 ハニートラップに勝つために
「あぁーん……。暑いー……」
「あんまりサウナ来たことないんだよねー……?」
空いたサウナ室へモデルの二人を案内する。ハニートラップと言われたとしても、普通にもてなす必要はある。
サウナで汗をかいていってもらうといっても、こんな華奢な身体だと、すぐに倒れてしまうだろう。すでに、限界そうな顔をしているし。既に汗が出なくなってきている。
「滉斗くーん。サウナって、なにを楽しめばいいんでしたっけー?」
「私たちを独り占めしたいからって、こんなところに閉じ込めてるんですかー?」
二人は立ち上がって、僕の肩を掴むと段の上へと座らせてくる。
「い、いや、閉じ込めてるとか、そういうわけじゃなくってですね……。サウナはドアを閉めないと温度が下がってしまって……」
「いいんだよ? 少しくらい触ってくれても?」
「そうしてくれた方が、既成事実として訴えやすいもんね。触ってみる?」
華奢な身体に見えるけれども、スタイルは抜群に良い。全体のバランスが整っていて、それでいて肌が綺麗。精巧に作られた作り物なんじゃないかと錯覚してしまう。身体のどこであろうと、見てしまうだけで吸い込まれてしまいそうだ。
質感が絶対に良いとわかる肌。
珍しい質感をした雑貨があるとついつい触りたくなってしまうような。それと同じような感覚だ。気を抜くと、ついつい興味本位で触ってしまいそうで怖い……。
そこに性的な意味合いはなくって。どれだけ肌がすべすべしているんだろうなって気になってしまって……。
いや、うーん……。
我ながら、言い訳が下手かもしれない。性的な魅力は120%ある。バスタオルからこぼれそうな胸と、隠しきれていない下半身……。柔らかそうな質感の太ももによって、かろうじて隠されているけれども……。
「一回だけなんて言わないからさ? 好きなだけ触っていいんだよ?」
白崎さんが、僕の手を取ってくる。
「いいから、いいからー?」
「うん」と頷いてしまいたくなるけれども……。僕は……。屈してしまいそう……。このままじゃ……。
「あのー、失礼しますー……」
ゆっくりとサウナ室の扉が開かれると、おそるおそる浴乃さんが入ってきた。僕と目が合うと、あわあわと慌てて一歩下がって、顔だけサウナ室へ入った状態で話しかけてくる。
「あれれ……。もしかして、お取込み中だったでしょうか……?」
「いやいや、そういうわけじゃないです!」
「お邪魔なようなので、私はこれで……」
僕は立ち上がって、白崎さんと黒崎さんペアから離れる。
サウナを出て行ってしまおうとする浴乃さんを引き止める。
「あらら、そっちの子には触れるのに?」
「私たちには触れないのかしら?」
かなりの誘惑だけれども、僕は浴乃さんとの約束を守らないと。そのためにも、僕はサウナで頑張っているから。
浴乃さんに耳打ちをする。
「この二人は、生徒会からの刺客なんだ。ハニートラップで、どうにか僕を嵌めようとしてきて……。助けて欲しい」
浴乃さんになら素直に打ち明けられる。一度騙されたというのもあるけれど、この子になら心を許せると思ってしまう。
「なるほど……。お姉ちゃんてば、こういうことするんだから……」
浴乃さんは、むっとした表情をして、サウナの中へと戻ってきてくれた。きっと良き協力者になってくれるだろう。白崎さん黒崎さんペアにも勝てるであろう浴乃さんと僕ペア。これで、どうにか切り抜けよう。
僕は決意を胸に、顔を引き締める。浴乃さんを見ると、彼女も少し目の色が変わった気がする。ハニートラップに対しての嫌悪でもあるのだろうか、どこかのスイッチが入ってしまったらしい。
「滉斗くん、私も一緒にもてなしてくださる?」
「あ、あれ……? どういうこと……?」
僕は浴乃さんに助けて欲しいとお願いしたと思うんだけど……?
ハニートラップを仕掛ける側と同じ態度というか、それよりも横柄な態度を取っている気がするのだけれども……?
「私が、滉斗くんを楽にしてあげるから。いっぱい触りに来なさい?」
いきなりの豹変ぶりが理解できない。白崎さんたちと同じく、バスタオルを巻いている状態の浴乃さん。その胸元を出したり隠したり、チラチラと見せつけてくる。動くものを目で追ってしまう習性というものは、人間のオスにもありまして。闘牛だけじゃないんですよね。
そんなに誘惑してきたら、僕でも猪突猛進で突っ込んじゃいそうですよ……。
「あはは、一年生なのに私たちと張り合うの? いいねー!」
「それじゃあ、滉斗くんに最初に触ってもらえた人が勝ちね!」
「望むところです。ルール無用でお願いします!」
「えっとー……。何の勝負です、それ……?」
これは、大変な勝負が始まってしまっているのではないか……。
僕に触らせようと誘惑してくるっていうことだよね……?
どんなことをされてしまうのか……。
「勝負、乗りますよ!」
「滉斗くん、少し熱いので調整してくださる?」
「確かに。滉斗くん、少し冷やして!」
サウナの温度を下げろって。要望されたら、それに従うしかないけれども……。
それをしてしまうと、暑さによるタイムアップがなくなっちゃうじゃないか……。
白崎さんと黒崎さんの二人は、ちょっと危ない状態だから良いタイミングか。
僕は、自分のやることに集中しよう。二人が倒れてしまわないように、かなり温度を下げてしまおう。あと、気分が良くなるように、アロマオイルでも追加してみよう。ロウリュに、アロマオイルを数滴入れるのがいいらしいって、月刊『熱波師』っていう雑誌で見かけたから。
「なんだか良い匂いがしてきましたか?」
「これ、なんかリラックスするかもー」
「これはですね。シトラス系のアロマを少し入れてまして。リラックス効果が増すと思います」
「すごーい。キミって結構気が利くね」
「ありがとうございます」
よし、僕にも対抗手段がある。
やられっぱなしになってしまうと、学園に入れないどころか、この先の人生がどうなってしまうかわからない。
僕は、『もてなし力』で対抗させてもらおう。
絶対にハニートラップにはかからないように。サウナ効果で卑しい気持ちを無くさせて、スッキリと清楚に整ってもらうぞ……。




