15話 女原さんは元気
女原さんが倒れてしまった。
こんな状況になってしまったら、サウナの外に出すしかない。一緒に来た二年生女子にサウナの外へと出してもらい、普段は整う場所であるペンチのところへと寝かせる。他の二年生女子には、水風呂へと入ってもらった。
「これナニコレ、冷たいー……」
「こんな冷たいの、人間がやっちゃダメなやつじゃないかな……?」
初めての水風呂なのであろう。どうにか入ることはできたけれども、風呂の中でガタガタ震えて締まっているようだった。
「あ、あの、動かないでいると、不思議なことに温まってくるので、そこまでは我慢してみて下さい」
僕が水風呂のコツを教えると、二年生女子たちは素直にその場にとどまってくれた。そうすると、段々と身体の内側からやってくる熱さを感じ始めているようだった。水風呂の冷たさと身体の熱さ。その間で、難しそうな表情を浮かべていたが、しばらくすると落ち着いた表情へと変わっていった。ようやく水風呂の気持ち良い状態になってきたのだろう。
「とりあえず、水風呂は大丈夫そうだけど……」
横に寝かせた女原さんは、ずっとうわごとのように会長の名前を呼んでいる。
「会長、それ以上はダメですよ……。私にも限界っていうものがありますよ……。けど、もうちょっとだけならいいですよ……。私はまだできます……」
うーん……。会長になにをされているところを夢見ているのだろうか……。大丈夫なのかと心配になる気持ちもあるけれども、幸せそうに笑っている顔をしているところを見ると、きっと大丈夫なんだろうな……。とりあえず、水分補給はしてもらおうかな。
買ってきたスポーツ飲料のペットボトルを傾けて、少しだけロへと注ぐ。
「んぐんぐ……。か、会長! あぁ、ばばばばばば……」
「吐き出さないでください。しっかり飲まないと、危険な状態になっちゃいますから」
少し無理矢理だけれども、水分を含んだら顎を抑えて口を開かないようにする。咥内に入った液体を無理やり喉の奥へと流し込む。
「んぐぐん……。はい……。会長の液、とても美味しいです……」
もう、そろそろ起きてくれないかな……。このうわごと聞き続けて看病する、なんだかしんどいんだよな……。
「おっすー、滉斗? この人どうしたの? 倒れちゃったの?」
話しかけてきたのは、忍くんだった。軽く手を振って、僕のところまで近寄ってきてくれた。
「そうなんだよね……。暑さに強いっていうから熱波を浴びせてたら、こうなっちゃって……」
「そっか。それなら、ボクが看病しておこうか? 水風呂の人たちの次のステップを教えてあげないと、そろそろあの人たち身体震えてきてるよ?」
「あ、そうか、忘れてた。案内してくる。ごめん、任せちゃっていいかな?」
「大丈夫! ボクも看病得意だからね!」
頼りになることを言ってくれる忍くん。に見えちゃうな。素晴らしいよ。僕が女の子だったら、即惚れちゃってただろうな。彼は女子なんだけれども……。あれ、どっとして惚れるべき人なんだっけ……?
頭が混乱するから考えるのは辞めよう。
とりあえず、水風呂の二年生を……。
「二年生の皆さん、水風呂はそろそろ上がってもらって、少しベンチで休んでください」
「は、はははいいいい……」
身体の芯から震えてるのか。ちょっとまずかったな……。
整う状態を体験してもらいたかったけど、もう一度身体を温めてもらうために、このままサウナに入ってもらう方がいいかもだな。
「すこし水分補給したら、再度サウナへお願いします。冷えた体を少し温めましょう」
「わわわわ、わかりましたたたた……」
年上のお姉さんたちだけれども、ちょっと雑に扱っちゃったな。とりあえず、全員サウナに入ってもらって……。
全員入れ終わったところで、後ろから声を掛けられた。
「滉斗、女原さん復活したよー!」
声の方を見ると、こちらを睨みながら立っている女原さんがいた。
「なかなかな仕打ちをしてくれましたね……」
小さく呟く声。かなりのりがこもっている。
「あ、いや、僕はそんなことしてな……」
「このことは、会長へ報告させてもらいます」
ヤバいな、やってしまったか……。
僕は誠意を込めて対応していたというのにな……。こういう時は言い訳をするとドツボにハマってしまうから。すに謝らないとだな。
「申し訳ありませんでした。今度からはもう少し控えめにします……」
「いえ、あなた……。会長が来たら、私と同じことをやりなさい……?」
「へっ……?」
「これは、私からの指示ではないと思いなさい。あなたの意思で、会長をもてなしなさいと言っている」
強い表情の中に、何故だか恍惚とした表情が垣間見える。会長をもてなすために、女原さんが倒れるくらいの熱波を送れっていうことを言っているのか?
「さっきのをしたら、会長が蕩けるから……。あ、いや、気持ちが良くてびしょ濡れに……。いやいや、えーっと……。私が会長に口移しでラブスポーツ飲料を注いで……」
ろれつが回っていないし、やっぱり熱にやられてしまっているんだな。
「女原さん、もう少し休みましょう。一旦、浴室の外へ出ましょうか」
「いやだ! 私は今すぐ会長を呼んで…………」
喋りながら意識が遠のいたのか、直立のままフラッと倒れていく女原さん。間一髪のところで、後ろから忍くんが受け止めた。
女原さんを見つめる忍くん。王子様がお姫様を抱きかかえているような雰囲気を感じさせる。
「女原先輩、外へ行きましょう? ボクが連れて行きますから」
「えっ……、イケメン……。いやけど、私には想い人がいて……。私には会長がいて……。けどイケメン……」
「このままだと危ないので、連れて行かせてください。文句があれば、あとで聞きますんで!」
「ヤバい、イケメン……」
僕に目配せをして女原さんを運んでいく忍くん。
女原さんは忍くんに任せておいたらいいや……。僕個人的には、あまり女原さんの面倒は見たくないかなって思っちゃった……。
とりあえず、女原さんは彼といたら元気になるでしょう。いや、彼じゃなくて彼女か。




