13話 第一の刺客(※女原視点)
「会長、ご報告です。草津滉斗が属する一年一組について、クラス全員でサウナに入っていたという目撃情報が上がっています」
一年生の女子からの密告があった。
生徒会の書記である私の元には情報が集まる。匿名で密告が出来るように裏情報網を整備している。これも、会長のため。情報を集めるのが私の使命。
私が報告をすると、書類に目を通していた会長は目線をあげて私の方を向いた。
「ふぅん、どうしてだ?」
相変わらず冷たい目線を向けてくる。いつ見ても痺れる目付きをしておられる……。
「はい。なぜかは特定できていない状況。ただ、草津滉斗がサウナを通じて、クラスで人気を獲得しているようです」
会長は書類を机へと置いて、私のことを睨んできた。マズイ報告をする時が一番良い視線をくれる。この目、溜まらない……。私の憧れる強さがここにある。今すぐにでも蕩けてしまいそう……。もっと私を視線で刺して……。
「草津を、調子に乗らせてはダメね」
「はい。おっしゃる通りです」
会長の視線に、常にドキドキが止まらない。
「どんな状況になっているかわらないけど、男子はもっと貶めて良いです」
会長は男子が嫌いだ。この学園のためだという大義名分はあるけれども、単純に自分の私利私欲で男子を貶めている節がある。私も賛成。
「別の男子は、すぐに退学を選択したというのに、草津滉斗か……。なかなか粘り強いな」
「はい」
会長の怒りは、目に宿ったままだ。鋭い目付きを止めてくれない。気持ちいい……。
「どうにかしなさい?」
会長の怒りは、そのまま生徒会メンバーへと向かってくる。長年連れ添ったメンバーであろうとも、強くこき使ってくる。それが会長。それが堪らない。もっと、私に対して厳しい命令が欲しい……。
ただ、そんな態度は、決して見せないようにしながら会長へと答える。
「わかりました、会長。私がやってまいります。お任せください」
「お願いね。阿弥?」
「はい。かしこまりました」
◇
まずは初期調査が必要。
裏情報網から、状況を探る。スマホでグループチャット宛に確認をする。
『そちらの情報を、再度確認させてください。サウナで草津は何をしていたのですか?』
『草津くん、とても激しく熱波を送ってくれるんです。それで、あの、とある女子の汗だくにさせてくれて。普段見れない表情を見せてくれるんです。一緒の空間で、忍くんの汗を感じられて……。忍くんの気化した汗がサウナ室に充満して……。それを肺にいっぱい吸い込んで……』
限界オタクのような、早口文章……。一文一文のレスポンスが早い……。
ヤバい奴もいたものね……。
匿名だから密告しやすいようにしているのだけれども、そんなに興奮されても情報が伝わらない。少し落ち着いてもらわないと。
『熱波が強くて、気持ちいいということでいいですか?』
草津が何をしているのかという点を再度問いただす。おそらくだが、サウナ室で熱波師のように女子達に熱い風を送りつけているということだろう。
『熱波、気持ちいいを通り越しています。もう、身体中ぐちゃぐちゃで……。忍くんもぐちゃぐちゃで……。それを間近で見ることが出来て……。熱い中瞬きしないでいたら眼球迄熱を帯びて。はぁはぁ……。もう、とにかく、ヤバいんです!!』
語彙死んでますわね……。
この学園において、「ヤバい」なんて言葉を使う女子はいないはずなのですが。お淑やかに慎ましく上品に、「やんごとなき事態が発生しております」くらいの言葉遣いをするのが日常なのだけれども。
興奮し過ぎて語彙が消失してしまっているのは、かなりの大問題。たとえ、意中の女子が熱波で蕩けるところがすぐ近くで見れたとしても。普通はそうはならない。
もしも理性が吹き飛ぶくらい、ぐちゃぐちゃになるくらい汗だくにさせるということであれば、それは、熱波を送る草津がきちんと役割をはたしているということなのでしょう。草津は、仕事が出来るということ。逆に厄介な相手かもしれない。
汗だくで息を切らしている状態にさせるまで熱波を送る。きっと、女子達自身もリクエストをしたということもあるでしょう。
好きな女子が、すぐ隣で汗がぐちゃぐちゃになる姿を所望する気持ちはわからなくもないですし、それに興奮するという気持ちもわからなくもないですが……。
例えば、会長が熱波で蕩けてトロトロにさせることが出来るとしたら。もしも、そうなってしまったとしたら……。全身の毛穴から汗が滴る会長。その液体は床に落ちてすぐに蒸発して、部屋の熱波に混ざって空気中へと分散して、その気化した会長の汗は私の鼻腔から、私の体内へと入ってくる……。会長汁が私の肺を満たす……。すぐ隣には、全身から液を垂れ流す会長……。きっと暑さで目も蕩けてしまい……。身体の自由も効かないくらい熱にやられた会長は、私にお願いすることでしょう。「女原……、お願いだから私に水分を頂戴……」と……。持ち合わせの水分も無い私は、応急処置として咥内含まれる唾液を会長へ渡す。その際は、もちろんマウストゥマウスで……。会長と唇を合わせ、舌をからませ……。逆に私が水分を奪ってしまってはダメだけど、会長を丸ごと感じたく……。
『女原さん? 返事がないようですが、どうされましたか? 取り込み中でしょうか?』
『……い、い、いえ。すいません。ちょっと取り込んでまして、レスポンスが遅れましたわ。……草津、なかなかやりますわね。私に、蕩けた会長の幻覚を見せてくるなんて……』
『幻覚……? 蕩けた会長……?』
あぁ、まずい……。ついつい脳内文章を送ってしまいました……。もう取り消せないか……。不覚。草津め……。良い仕事しやがって……。メモしておいて、妄想の続きは後でしよう。
『それでは、草津の様子を少し見学しましょう。私が調子に乗る草津にお灸を据えましょう』
草津が退学にならないうちに、一度でいいから会長とサウナへ行きたい……。
そのためにも、一度屈服させておいて、私の言うことを聞かせるように調教しよう。




